福岡県警へ顔認証声明執行

 2014年5月27日13:00,福岡県警へ、「法律によらず顔認証装置を使用しないよう求める声明」と題する福岡県弁護士会長声明を持参し、担当者に手渡しました。
 弁護士会からは、三浦邦俊会長、前田恒善副会長と私が伺いました。
 簡単に言うと、(1)人の顔の特徴点を捉えた顔認証データ(数値化されたもの)による人の同一性判断がかなり高性能になってきており、用い方次第では、指紋などと同レベルの識別が可能となる。そうすると、(2)高解像度の人の顔画像が収集され、警察に集められると、特定の人の行動を追跡することが可能になっている。ところが、(3)現時点では、その正確な内容は不明だが、仕様次第では、繁華街を通行する罪のない市民の顔認証データを警察から自由に収集されるおそれがあるにもかかわらず、これを制限する法律や事前ルールが存在しない。(4)そうすると、市民のプライバシーが侵害されるおそれがあるので、明確な事前のルールである法律がない現状では、改認証装置は使用されるべきではない。ということです。
 内容は、弁護士会のホームページにもありますが、貼り付けます。
http://www.fben.jp/statement/dl_data/2014/0527.pdf
 また、その後ろに、記者会見時に配布した資料を貼り付けます。

法律によらず顔認証装置を使用しないよう求める声明

 当会の調査によれば、2013年(平成25年)12月に福岡県警察(以下「福岡県警」という。)に顔認証装置が導入され、すでに使用例も存在する。
顔認証装置とは、撮影された画像から人の顔の部分を抽出し、目・耳・鼻などの位置関係等を瞬時に数値化し(この数値化されたデータを「顔認証データ」と呼ぶ)、あらかじめデータベースに登録されている特定人物の顔認証データとの同一性を自動的に照合するものである。
福岡県警は、具体的な組織犯罪が生じた場合に、県警が自ら設置する防犯カメラの画像の他、民間のカメラの画像もその捜査のために収集する予定であると説明している。また、顔認証装置で検索・照合する対象となるデータベースに登録される人物については、組織犯罪を対象とすることからの限定があるという。
 しかし、組織犯罪対策運営規程には、顔認証装置の使用について、使用できる場合としての対象犯罪や、検索・照合の対象となるデータベースに登録される者の属性を限定する明文規定も存在しない。
 そもそも、警察は、捜査目的であっても、罪のない市民の行動に関する情報を無制限に収集したり、検索・照合の対象とする権限があるわけではない。
顔認証データは、おびただしい数の顔画像の中から瞬時に人物の同一性判定が可能であり、指紋よりもいっそう簡便に収集が可能な、高度な生体認証データである。したがって、本来、対象者の同意なしに取得することが許されないセンシティブ情報と捉えるべきである。
 対象者の同意なく使用する以上、あらかじめどのような条件の下に収集、利用、保存が許されるのか、またどのようにして目的外利用を防ぐのかを厳格に定める法律なくして顔認証データを収集・利用・保存するべきではない。
 画像を収集する場面で、以下の問題がある。
 ?福岡県警が自ら設置している中洲・博多地区、天神地区など県内132台の監視カメラで収集される画像については、当会が再三にわたり意見を表明しているところであるが、警察が犯罪多発地帯でないのに直接公共の場所に監視カメラを設置して罪のない市民を無差別録画することは本来許されない。
?コンビニエンスストアなどから限定なく任意捜査で画像を収集すると、撮影される画像の対象は市街地中心部から郊外に至るまでの極めて広範に及ぶ。
 また、顔認証装置を使用し、検索・照合する場面で、以下の問題がある。
?検索・照合する対象となるデータベースの登録者について、限定する内部規定すら存在しないというのでは、目的外利用がなされないための歯止めは期待できない。むしろ、8000万人を超える運転免許証データがデータベースとして用いられる可能性もある。
 ?目的外利用がなされないための独自の物理的、技術的対策、内部及び第三者によるチェック体制も存在しない。
 以上によれば、ひとたびある市民が福岡県警の対象とされた場合には、その行動が丸裸となり、そのプライバシー権を侵害するばかりか、街頭での署名活動、集会やデモ行進など、民主主義社会の基礎となる市民の表現の自由を萎縮させる危険が大きい。
どのような条件の下に収集、利用、保存が許されるのか、またどのようにして目的外利用を防ぐのかをまずもって厳格に定めるべきである。さらに、対象者の同意がなくとも顔認証装置の使用を認める法律が存在しない。このような現状においては、福岡県警は顔認証データを収集、利用、保存すべきではなく、顔認証装置を使用すべきではない。
          
    2014年(平成26年)年5月27日
            福岡県弁護士会会長 三 浦 邦 俊

顔認証装置についての補足 20140527 武藤

第1 前提事実
1 調査の対象となる画像の収集過程
 本件では、組織犯罪の発生が疑われた場合に、その場所で被疑者が映っていると考えられる画像を、?警察が自ら設置した監視カメラで収集する場合、または、?犯行現場(付近)の店舗等から任意提供を受ける場合がある。
2 データベース搭載者の属性との照合(顔認証装置の適用)
 県警の屋内において、1で収集した画像と、あらかじめ作成されている属性のものの顔画像のデータベースとを照合し、被疑者を割り出そうとしている(県警の説明)。
第2 争点
 1 警察が街頭に常時無差別録画する監視カメラを設置することの是非
   犯罪多発地帯でなければ問題がある。=今回も問題の前提
 2 警察が、街頭防犯カメラに、顔認証装置を付設することの是非
   日弁連意見書 第1の2,(1)に抵触し、許されない。
3 警察が、自ら設置したカメラの画像に顔認証装置を適用する行為の是非
   日弁連意見書第1の3,(2)?に抵触し許されない。
   → 今回、この場合に該当することがあり得る=会長声明の対象。
4 警察が、被害店舗から任意提供を受けた画像に顔認証装置を適用する行  為の是非
 日弁連意見書第1の4では(顔画像の肉眼での捜査利用のみを考えていて、顔認証装置の適用は前提としておらず)、検討未了の問題。
 → 今回、このような場合も法律で事前に許される条件を確定すべきとした。
第3 プライバシー権侵害の程度
1 同一性特定の精度
指紋、DNA鑑定との関係でどうか。
メーカーや警察は高いというが、十分に情報が公開されているともいえない。
 少なくとも、精度は1年ごとにどんどん高くなり、下がることはあり得ない。
2 同一性特定の容易性・簡便性
デジタルデータの特性として、照合・検索処理が極めて容易かつ簡便。
 警察庁の仕様条件を見ると、街頭や店舗のカメラに直接付設することも可能。
→ 運用次第では、無数の通行人の指紋を無断で根こそぎ収集するのと同じに。
 捜査に便利なものは、違法な監視にも便利。
* 監視カメラに関する過去の福岡県弁護士会長声明
2007.7.21 監視社会を招かないためのルール確立を求める宣言
 中洲地区安全安心まちづくり協議会による監視カメラの設置・運用
2008.4.1 中洲への監視カメラの設置に対する声明
 同上
2009.7.31 法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明
 警察庁による福岡市中央区大名校区への街頭監視カメラ設置
2012.2.9 監視カメラの法律なしに設置・運用しないよう求める声明
 警察庁による中洲地区への監視カメラ設置
* カメラの性能
 1 2013年4月12日付読売新聞大阪版
 NECの技術者の発言として「正面の顔画像なら本人を見逃す率は0.3%、他人が紛れ込む率は0.1%、160万人の画像との照合が0.3秒でできる。」というものを紹介。
 2 2013年7月27日共同通信
出入国審査、顔認証の導入見送り 法務省、精度低く」との見出しで、「空港の出入国審査を迅速化するため、機械で顔を識別して本人確認するシステムの導入を検討していた法務省が、実証実験で精度が低かったことを理由に導入の見送りを決めたことが27日、同省への取材で分かった。事前登録した指紋の照合だけで通過できる「自動化ゲート」に続く迅速化策が、事実上頓挫したことになる。
 法務省入国管理局によると、顔認証は、パスポートに内蔵されたチップの顔写真データと審査場のカメラで撮影した顔の画像をコンピューターで照合し、同一人物かどうかを確認する仕組み。英国やオーストラリアでは既に導入されている。
 法務省は2014年度からの実施を目指していた。」との記事が配信されている。
 3 最先端
 アメリ国防省の研究機関DAPRAが15億画素のカメラを試作。空から撮影しても顔認識、物体認識可能とのこと。