しんぶん赤旗で、「焦点・論点」というコーナーで、「『AIのためなら同意不要』でいいの? 知らぬ間に広がる個人情報収集に警鐘」という表題で、記者の質問に対する回答の形で、取材された記事が掲載されました。
- 法案で、国民の情報がどう扱われてしまうのでしょうか。
この法案は、民間企業による機微な要配慮個人情報(別項)の取得や第三者提供を緩和し、一部で本人同意が不要になります。
欧州連合(EU)のGDPR(一般データ保護規則)をはじめ、多くの民主主義国家では、プライバシー保護を目的とする法律で個人情報の利用を制限し、第三者機関に強い権限を与え、裁判外で、ネットの書き込みの削除請求を認めるなど積極的な活動でプライバシー保護に尽力しています。
日本の個人情報保護法は、個人情報の利活用に配慮した上で保護を図る立て付けなので、プライバシー保護が十分機能していません。
欧州では、2023年に巨大IT企業であるフェイスブック(現メタ)が、膨大な利用者データを不正に米国に転送していたとして、GDPRに基づき、アイルランド当局から約12億ユーロ(約2000億円)の課徴金を科されました。今法案で課徴金が導入されましたが、金額は限定されて低く、大規模事案のみが対象で、抑止力は不十分です。
しかも、被害者救済のための「団体訴訟制度」が見送られました。
デジタル被害は、大量漏えいを典型として、広く薄い被害が生じるので、個人で請求すると費用倒れになりがちです。集団での解決制度を設けないと、事実上泣き寝入りを強いられて問題です。消費者団体が代わって企業を訴える仕組みが必要です。
ところが、経団連や日本IT団体連盟など財界が強く反対し、同制度は導入されませんでした。
世界の人権保障の流れに完全に逆行しています。
- AI開発を名目に、本人同意なしで要配慮個人情報を流通させることには、どんな危険があるでしょう。
AIは、個人のパソコンやスマートフォンを使った購買履歴やインターネットでの検索履歴、どんなサイトを見たか、どんな動画を見たかなど情報を集約し、それを元にその人の趣味嗜好、人種、性別や健康状態、信用力、政治的思想、性格、弱点など、あらゆる特徴を自動分析し、結果に応じた特定の広告や情報を個別に送りつけることができます。
大量の情報から、その個人の特徴を解析することを「プロファイリング」といい、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック=現メタ、アマゾン)などのプラットフォーマー(SNSや動画配信などのサービスを提供する巨大IT企業)はこれで効率のよい広告を行い、莫大な利益を上げています。
例えば、ネット通販で「あなたへのおすすめ」が表示されるのも「プロファイリング」によるものです。労働組合への加入や宗教、思想、性生活や性的嗜好などを推測し、犯罪に関与しそうな傾向を数値化して、実際に罪を犯さなくても規定値を超えれば「犯罪者予備軍」として扱うこともできます。
さらには、AIが「この人は陰謀論を信じやすいタイプだ」と判断した集団をピックアップして、選挙期間中に特定の考え方に誘導し、主権者の判断や行動さえ変えることができます。
このような、プロファイリングの政治活動への応用を、「マイクロターゲティング」と呼びます。
人は、最初は「変わった意見だな」と思っても、「この動画を見た人はこんな動画を見ています」とお勧めされ、立派な身なりの人が代わる代わる聞いたことのない同じ意見を述べるのを見ると、「信頼できる」と思いがちです。特に信じやすい層を狙い撃ちにして、世論誘導することもできます。
実際、16年の米大統領選では、英国の選挙コンサルタント会社ケンブリッジ・アナリティカ(現在は解散)が、フェイスブックの8700万人の個人情報を不正取得し、解析して世論操作のために活用しました。閲覧履歴やSNS投稿など膨大なデータをもとに人々を細かく分類し、属性ごとに異なるプロパガンダの切り抜き動画をAIが自動的に送りつけ、トランプ支持の行動に立ち上がらせ、第1次トランプ政権の誕生につながりました。また、イギリスのEU離脱を巡る国民投票では、マイクロターゲティングが離脱派の投票行動に影響し、勝利に大きく寄与しました。
近年、日本でも、収益目的と疑われるユーチューバー(自作動画をユーチューブ投稿して発信する動画投稿者)が大量の切り抜き動画や根拠の不明な情報をSNSで拡散し、特定の投票行動を促す情報発信が行われています。25年の参院選では排外的な言説も広がりました。
その結果、民主主義や自己決定が損なわれる危険があります。法案はこうした解析やマイクロターゲティングを目的として活用する事業者が機微な個人情報を収集することも、解析・活用の過程を不問に付した上で「統計目的」として認めるもので、大問題です。
- すでに共謀罪や特定秘密保護法がある中、「スパイ防止法」や顔認証データと組み合わされれば、国民監視が強まる恐れがありますが。
法案を説明する個人情報保護委員会の資料では「顔の特徴データも事業者が取得可能」と誤解されかねない表現があります。
顔認証はAIにより指紋以上に本人を正確に特定でき、無断で利用することはプライバシー侵害となります。監視カメラと組み合わせれば人の行動を常時追跡できてしまいます。
20年にJR東日本が都内の駅で顔認証カメラを使い、刑務所出所者を追跡していたことが判明しました。
個人情報保護委員会は、世論の厳しい批判を浴びたため検討会を開き、23年3月に「個人情報保護法適合の他に、肖像権・プライバシー侵害で不法行為が成立しないかの検討も必要」と報告書をまとめました。しかし、日弁連が求める規制立法もいまだになく、むしろ不法行為を促進しかねません。差別やレッテル貼り、国民監視や弾圧につながる危険が高く、監視社会を加速させかねません。
- 市民はどう向き合えばよいのでしょうか。
法案の問題点を若い世代も含めて広く共有し、規制を強める方向で抜本改正する必要があると思います。
そのためには、市民の関心を引くショート動画などを活用し、分かりやすく伝える工夫が求められます。