大垣事件「もの言う」自由を守る会3周年総会での講演

2019年6月2日、岐阜県大垣市で、大垣事件に関する講演をしました。

以下のような要旨でした。

 監視社会と大垣事件
1 監視社会の現状
 現在の監視カメラは、一定程度以上の画素数で録画されると、人の顔を指紋のように分析して、通りかかった人がどこの誰であるか特定できるようになっています。デジタル画像の中から、人の顔に当たる部分をまず抽出し、その特徴点をとらえて、あらかじめ登録された人物のデータベースとわずか数秒で何万人とも照合ができます。
 中国では、数億台の監視カメラが公共空間に設置され、歩行者が赤信号を無視するとすぐに罰金が自動的に科されたり、政府批判を行う政治犯を含む指名手配犯が3000人以上逮捕されたりしているとの報道もあります。
 我が国では、2008年に、東京都が「10年後の東京への実行プログラム」を作成し、テロリストや指名手配犯の検挙のため、平面の写真を立体視できるようにして、警視庁に保存する顔のデータと、送信される監視カメラデータを照合できるようにすることを目標としました。
 2014年度には、警察庁が5つの都県の警察に対して顔認証装置を配布し、「組織犯罪」に対して使用しています。その組織犯罪も、暴力団に限定されているわけではなく、外延がはっきりしません。そもそも法律に基づいて運用されていません。
 顔認証データは、指紋の1000倍の本人確認の正確性を有しているとされています。また、自分で指紋を押捺することなく、監視カメラの前を通っただけで顔認証データを知らない間に収集されてしまいます。そのため、いったんターゲットにされると、密かに過去から将来までの行動を検索することすら技術的には可能です。
 従って、監視カメラの画像は、公正中立な第三者である裁判所の令状によって収集するべきであり、どのような場合に顔認証装置を捜査に利用できるのかについては、あらかじめ法律で要件を定めるべきです。これは、欧米民主主義国家であれば当然のルールです。我が国は、デジタル捜査が飛躍的に進展した現在、適正なルール作りとそれに従った運用を確立できていない点で国際的に遅れており、市民のプライバシーが侵害されています。
2 大垣事件
 公安警察は、情報機関として、テロリストなどを監視するのが仕事であり、必要なく市民を監視することは許されません。
 北朝鮮や中国であればともかく、民主主義国家においては、単に政府批判を行うだけの行為は決して犯罪ではなく、民主主義の基盤をなす表現行為として手厚く保護されるべきですから、建前として、これを理由として監視することはできません。
ところが、許されないはずの行為が長年にわたって、かなり大規模になされていることを明るみに出したのがこの大垣事件ではないでしょうか。
 私は、戦後50年間にわたって不合理な隔離政策が続けられてきたハンセン病国賠訴訟や、戦後40年間にわたって予防接種時の注射器の連続使用が続けられてきたB型肝炎訴訟にかかわってきました。堂々と継続される不法行為の積み重ねに、被害者が「嫌だ」と、または行為者が「もうやめよう」と声を上げることが逆に難しくなることもあります。
 明確なルールも実効的な監督もなく違法な監視行為が継続されないよう、民主主義国家にふさわしい情報機関の活動となるよう、何らかの民主的コントロール化を図るきっかけとなるよう社会に問題提起を行うのが、この裁判の社会的役割だと考えます。