顔認証システムに対する法規制について(情報問題ニュース)

 日弁連が発行し、全国の弁護士に配布されている月刊誌「自由と正義」に同報される「日弁連委員会ニュース」の中で、情報問題対策委員会が担当する「情報問題ニュース」に、2019年4月号の記事として、「顔認証システムに対する法規制について」が掲載されました。

 以下、引用します。

「顔認証システムに対する法規制について」

  我が国では、顔認証システムの導入が進んでいる。顔認証システムとは、人の顔画像データから個人を特定するための特徴点を数値化した顔認証データを生成し、あらかじめ生成している特定人の顔認証データ(あるいはグループのデータベース)との一致を検索して、有資格者や被疑者等の同一性を照合するシステムである。

我が国では、テーマパークやコンサート会場などでの民間利用のほか、公になっているだけでも、2014年度から一部の犯罪捜査に、2016年10月からテロリストの入国防止策として外国人の入国審査に、翌年10月から日本人の出入国審査に拡大されている。そして、本年2月に開催された天皇在位30周年行事の参加者に対しても、顔認証システムが利用されたと報道されている。

 これに先立って、当連合会では、2012年に、官民を問わず、監視カメラの設置・運営についてはルールを事前に明示する法律を制定し、規制すべきことを提言した。その中でも、法律で定める規制内容として、設置するカメラが顔認証機能を持つことや、収集後のデータについて顔認証装置を用いることを禁止するよう求めた。

その後、警察が顔認証システムを利用するようになったことから、2016年には、顔認証システムの運用についても法律による規制が必要であることを提言した。

 顔認証システムは、従来の監視カメラよりはるかにプライバシー侵害の危険が高い。すなわち、指紋より一層本人識別の精度が高いとされ、しかも自ら押捺するなどの行為を一切要することなく、カメラの前を通っただけで顔画像データを記録し、それを自動的に顔認証データに変換して人の同一性を判断できるため、指紋などより容易かつ本人が気付かないうちに他人に生活行動を知られてしまうという深刻なプライバシー侵害が生じ得る。

現状では、捜査機関は、令状に基づくことなく、捜査関係事項照会書(刑事訴訟法197条2項)による任意提供の形で、行政機関や民間事業者が撮影保存している顔画像データを収集し、その一部は顔画像データから顔認証データを生成し、顔認証に利用している。しかも、監視カメラで収集されたデジタルデータの転送や蓄積は、技術の進展により極めて安価となり、かつ高速度の大量処理が可能となっている。

 このような状況を踏まえるならば、警察のみならずそれ以外の行政機関が顔認証システムを利用する場合に関して、顔画像データを収集し、それに顔認証システムを利用することができる要件、保存期間の明確な限定、第三者機関の監督などを法制化し、厳格に運用する必要がある。また、民間事業者が収集した顔画像データにおいても、安易に利用されたり、捜査機関に任意提供されたりした場合、プライバシー侵害の結果は深刻なものとなり得るため、厳格なルールによるコントロールが必要だと考えられる。当委員会では、現在これらの問題点を整理し、提言をとりまとめるべく、検討中である。