救援新聞「監視・管理社会を考える」②顔認証カメラ

本日発行の救援新聞で、表記の記事が掲載されました。

 

 私は日弁連情報問題対策委員会で監視カメラのプライシー侵害の問題点を担当しています。まず、監視カメラと比較して顔認証カメラは何が違うのか、お話します。

高い精度で顔認証
個人を特定 
 
 顔認証は、① カメラで撮られたデジタル画像から、「顔」部分を抽出 、②これは誰の顔かという特徴点を捉えた、指紋のような識別データ(「顔認証データ」)を生成、 ③ 別の顔写真データから生成された「顔認証データ」と照合し、一致・不一致を判定する仕組みです。いわば、「顔指紋」のように、人の同一性が確認できます。
同一性の精度について、iPhoneⅩは、指紋の1000倍正確であると説明しています。
 顔認証カメラは大きく分けると2つあります。

知らないうちに
顔が指紋のように収集・検索

・1対1型 成田空港などにおける日本人向け入国ゲートで、カメラに顔を向けて読み取らせ、パスポートに保存されている写真データを読み取って照合し同一人物かをチェックする仕組みです。前は任意だったのが、今は原則この1対1型で出入国がおこなわれつつあります。個別の同意拒否が確保される限り、プライバシー侵害度は高くありません。しかし、日本の出入国管理では拒否が困難な運用で、問題です。 
・1対N型 もう一つは、不特定多数に対するカメラ(1対N)。例えば中国では、市民の顔認証データはデータベース化されているので、街頭に設置されたカメラで対象者に気づかれることなく、顔認証データを収集し照合できます。
 デジタルデータの特性として、照合・検索処理が極めて容易かつ簡便で、中国では、街頭を歩くターゲットを6億台の街頭カメラで特定し、わずか7分で臨場したという実験結果があります。データさえつなぎ合わせれば、過去・現在・未来、あらゆる場所の行動と検索照合が可能です。
 日本の警察が組織犯罪に限定して運用しているという顔認証システムでは、犯罪が発生した犯行現場付近から収集された顔画像データには、被疑者だけでなく、犯行時間帯に現場付近にたまたま居合わせた市民の顔画像があり、顔認証データが作成・照合されてしまいます。
 現場付近の顔認証データと、警察が保有している組織犯罪者の顔認証データベースを照合すれば被疑者がヒットするかどうか、すぐに分かるという仕組みです。しかし、最高裁違憲違法と判断したGPS捜査以上にプライバシーを侵害しうるので、日弁連では重大組織犯罪に運用を限定するよう法制定を求める意見書を出しています。捜査以外にも、違法な監視にも濫用されたら、よりプライバシー侵害の度合いは強くなっていきます 。
 「政府のやることに反対するよからぬ市民」だとされたなら、常時、過去から現在まで効率よく監視することさえが簡単にできるということです。

 

中国の「信用スコア」
内面まで制御される

 中国では、民間企業である芝麻信用社が、インターネットでの決済履歴などを企業から集めるほか、政府から公共料金支払い記録等の提供も受け、信用スコアをAIで算出しています。その結果が悪ければ、飛行機チケットが買えなかったりします。政府もこのデータを活用して、街頭の監視カメラの顔認証機能で個人を特定して、指名手配犯を逮捕したり、反体制派を監視したりしています。横断歩道を赤で渡っていると、見せしめの様に近くのビルにその人の名前と顔が映し出されて、信用スコアも削られていきます。街頭で少し善行を積むと、少しスコアが上がるという、人間の内面までコントロールが可能な仕組みになっています。

プライバシー守る
法的規制が必要

 暴力団などの組織犯罪にしか使わないと公言していた警察の顔認証システムですが、2019年10月、 渋谷でハロウィーンで興奮した若者が車を壊した事件で、週刊朝日は顔認証によって検挙されたものだと報道しました。重大ではない犯罪でも、高度なプライバシー侵害を手段とする捜査がなされていたことが判明しました。法律がないため、捜査側がどう活用するか自由自在です。
 2021年7月、JR東日本が、首都圏の一部の駅に、指名手配犯等を検知する顔認証カメラ導入を公表しました。そもそもJRは警察ではないので、捜査・監視をする権限はありません。しかも相談を受けた個人情報保護委員会が認めたというのは、とんでもないことです。日弁連で反対の会長声明を出しています。
 2021年10月、健康保険証機能付きマイナンバーカードによる、医療機関受け付けでの顔認証チェックが開始しました。市町村を介して、J-LISに、住民の顔認証データが集約されています。デジタル改革関連法で、その管理に国が関与しました。歯止めがなければ中国の一歩手前の状態です。 
 ドイツに視察に行きましたが、法律でルールが決まっていない監視カメラや顔認証による捜査のことを言うと、「日本は法治国家ではないのか」と驚かれます。
 警察等が人権制限をする場合、あらかじめ法律が必要だというのが「法治国家」原則で、その法律の内容が最小限の人権制約で合憲である必要があるというのが「法の支配」原則です。法律すらなく顔認証捜査ができる国は、民主主義国家ではありません。
 プライバシーという人権や民主主義を守る努力を市民やメディアが力を合わせて取り組まないと、日本は先進国から落ちこぼれつつあると感じます。