根拠のない官僚の言いなり−朝日新聞社説

 今朝の朝日新聞で、「B型肝炎―自分の問題として考える」と題した社説が掲載されました。
 しかし、これは官僚が科学的根拠なしに結論を言ったもの、いわば「言い分=主張」にすぎないものを、あたかも「証拠がそろっているもの=客観的事実」であるかのように言い換えているもので、官僚の言いなりです。
 以下のように書かれています。
「政府によると、B型肝炎の患者・感染者の総数は120万人前後。母子感染が多いとされ、予防接種が原因との疑いがあるのは、ウイルスを持つが症状は出ていない持続感染者(45万人前後)を含め50万人程度とみられる。
 今回の和解案について患者側は、金額を過大に見せて不安をあおり、国民と患者の間にくさびを打ち込むものだと批判する。たしかに平穏な日常生活を送っている人も多く、想定される患者や感染者のどれほどの人がこの先、支給を求めるかは分からない。
 だが、最大限どこまでの負担が必要になるかは、主権者であり納税者である国民が知っていて当然の情報だ。和解案の詳細を公表した政府の姿勢は評価していいだろう。」
 しかし、国は、結論の過大な数字だけを出したものの、前提としての被害者数や、提訴者見込みについては、何の証拠も、計算根拠も示されていません。
 薬害肝炎では、厚生労働省の官僚は、「原告の言いなりになると2兆円かかる」といって、舛添厚生労働大臣を恫喝しました。
 しかし、当時の自民党政権は、官僚に計算根拠を出させ、それを弁護団に示したため、弁護団は、「せいぜい200億円程度しかからない」という反論をし、結局、原告らの主張額の通りでも解決まで約300億円しかかかりませんでした。
 このことを、舛添要一氏は、「厚生労働省戦記」という著書の中で明らかにし、厚生労働官僚は、保身を図ったこと、解決規模として、弁護団の数字の方が実態に近かったことを示しています。
 朝日新聞は、根拠も示さずに大きな数字を出した官僚を手放しで歓迎していますが、官僚の言いなりで、批判的に検討する能力がないのでしょうか。
 まずは、財源ありきでよいのか、推計をするのなら国民に根拠資料を示して説明せよ、と求めるのが筋ではないでしょうか。
 このような報道姿勢は、「特捜部は、村木氏を逮捕・起訴した。村木氏は否認しているが、現役官僚の腐敗を明らかにする特捜部の姿勢は評価できる。」というものと同じです。
 科学的根拠が確認できず、捜査側の大本営発表の言いなりになって報道し、村木氏を犯人視し続け、後で無罪になったら、言い訳程度に「報道のあり方を振り返る」ということが行われました。
 B型肝炎訴訟でも、「報道のあり方を後から振り返る」といった言い訳でごまかす必要がないよう、きちんと報道のあり方を反省して、科学的根拠に基づく客観報道を求めたいものです。
 このような報道は、とうていジャーナリズムとは呼べないでしょう。
全国の原告が朝日新聞の社説に怒っています。
 現場の記者には、熱心で頭の下がる記者がたくさんいます。しかし、恐らく原告の声を直接聞いたこともなく、官僚のレクだけ聞いたような人の意見が通ったのでしょう。担当者本人の原案はこのようなものではなかったと信じたいところです。