JAM THE WORLD 出演(顔認証システムについて)

7年ぶりに、J-WAVEに出演しました。

https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/upclose/190220.html

音源をいただいたので、文字に起こしてみました。

 

安田:J-WAVE 「JAM THE WORLD」「UP CLOSE」のコーナーです。

水曜日は私、安田菜津紀が気になっている話題を取り上げていきます。

さあ今月24日、今度の日曜日ですね「天皇陛下ご位三十周年記念式典」で政府主導の行事として初めて導入されるのが、この顔認証システムです。空港での入国だったり出国の手続きだったりですとか、最近はアーティストのライブだったりテーマパークの入場などなども徐々に広がり始めているものなんですけれど、2020年開催の東京オリンピックパラリンピックでも選手であったり、ボランティア・メディア関係者などを対象にこのシステムが使われることになっています。

今後ますます広がっていくこの顔認証システム、メリット以外にもデメリットもいろんな方面で議論していく必要があると思いますが、導入に向けた課題など今夜はこの方と一緒に考えていきたいと思います。

顔認証システムの法的規制に詳しい弁護士の武藤糾明さんです。武藤さん、こんばんは。

 

武藤:こんばんは。

 

安田:よろしくお願い致します。

 

武藤:よろしくお願いします。

 

安田:最近、私も空港から帰ってきてですね、この顔認証システムのその出入国の仕組みに誘導されるということもあって、あれこんなところにまで広がってきていたんだと思っていたこのシステムなんですけれど、ちょっとそもそもの話から伺っていきたいんですが、この顔認証システムというのかどういった仕組みなのかということをまず教えていただけますか。

 

武藤:はい。セットされたカメラに対して、そのカメラの奥でコンピューターがそこに現れた人の顔の特徴点をとらえて顔の指紋情報のようなかたちで分析をしてですね、三次元バーコードみたいに特徴を捉えると、でそれをあらかじめ登録されているデータベースの型、顔指紋のようなですね三次元データベースと照合して間違いなくこの人が資格のある本人であるというふうにして承認したり、あるいは間違いなくテロリストであるということを認めてはじきだすとかそういうことをチェックする。本人特定のための仕組みになります。

 

安田:なるほど。あの例えば本人特定の仕組みというのはこれまでもいろんな形があったと思うんですけれど、他のその生体認証と比べるとどういった点が例えば優れているとされているんでしょう。

 

武藤:指紋の場合はですね。

あらかじめ、この人の指紋をとるというのは結構難しいんですよね。

 

安田:ええ。

 

武藤:意識的に指を押さない限りとらえることができませんから、

犯人であったり警察に拘束された人とかの以外のデータベースをつくるのは容易ではないんですけれども。

顔の場合はですね、要は特定の解像度をもっているカメラの前を通ってしまうと、瞬時にその録画した画像から切り出して正確な顔の三次元のバーコード情報が読み取れますので、まったく自分が気がつかないうちに街中のカメラの前を通っただけでいつのまにか自分の顔の指紋のような情報がとられていたということが起こりうるし、もう既に起こっているかもしれません。

 

安田:なるほど。その今おっしゃった、全く知らないうちにということがひとつプライバシーであったり、個人情報の問題としても考えていくうえでカギになっていくと思うんですけれど、そもそも例えばこの顔認証システムの精度、どれくらいのものだという風に考えられてますか。

 

武藤:これはもう日進月歩で、わずか4、5年前には法務省は入国管理には向かないと、エラーがたくさん出るので導入見送りましょうということを出したことがあるんですよね。

 

安田:はい。

 

武藤:それがわずか4年で十分実用化できるということで、踏み切ってますけども、わずか数年でそれくらい上がってますし、スマートフォンでもう採用されてますよね。

 

安田:そうですね。

 

武藤:メーカーの説明だと指紋よりも一千倍正確である。という風に言っています。

 

安田:一千倍、なるほど。あの、精度が高いとなると益々導入されてく場というのが広がっていく可能性があると思うんですけれど、例えば冒頭でもお伝えしましたけれど空港での出入国審査で導入されはじめていますよね。それからコンサートだったりテーマパークの入場などにも今使われていると思うんですけれど、他には例えばどういった使い方が現時点であるのかということいかがですか。

 

武藤:チェーンになってるスーパーマーケットで過去に万引きをした犯人の顔のデータを集積しておいて、その人が自分の店舗に来た時もチェックをしてアラームを鳴らすし、同じ関東なら関東エリアで系列店に入った時にはアラームを鳴らす設定で知らせるという仕組みも現に採用されています。

 

安田:なるほど。あの国内でもそういったことがあると思うんですけれど、やはりこの顔認証システム真っ先に導入して精度を上げているのが中国。たびたび報道されてると思うんですけれど、

 

武藤:はい。

 

安田:中国での活用例なんかは、他にいかがですか?

 

武藤:そうですね。中国は確かに世界一活用している国だと思うんですけれども、全国に一億七千万台以上の顔認証のカメラが設置されていて、

 

安田:一億七千万台         

 

武藤:そうですね。それで良い面としては例えば店舗で商品を買う場合に自分の顔をまずお店に入った時に登録をすると、そしてひとつひとつ買った商品を読ませて、顔を読み取らせるということを繰り返すことによって、現金もいらないしキャッシュカードとかクレジットカード全くなしで顔の認証だけで商品を購入できるという便利な仕組みも使われています。

 

安田:はい。手ぶらで来ることができるということですね。

 

武藤:そうですね。

 

安田:それと一方で例えば犯罪捜査にもこれ使われているという報道がたびたびあったと思うんですけど、その点はいかがですか。

 

武藤:公共の場所に張り巡らされてますので、あらかじめ、要は政府の方で登録している指名手配犯人のデータベースとヒットすればすぐ分かりますし、そこに警察が急行することによってたくさんの人を逮捕することができてると、実績は三千人以上逮捕したよという情報が公表されています。

 

安田:なるほど。あのそれだけ精度が高くて、なおかつやはり有用であるという面を持っているだからこそ気になるのがプライバシーの侵害であったりですとか、あるいはそのどこまで乱用されないのかというところだと思うんですよね。例えば日本国内で見たときに個人情報保護法というものがあると思うんですけれど、そこに抵触しないのかその兼ね合いというのはいかがですか。

 

武藤:えっと実はですね、これは数年前までは個人情報保護法で保護する対象としての個人情報にはあたらないという風に捉えられていたんですね。

鉄道会社でプリペイドカードの利用履歴を大量に処理するということの中で問題ではないかという議論が出てきた時に、そこをきちんと法律の中で、このように取り扱えば良いというルールを決めましょうということにしまして、

それで個人情報保護法を改正することによって一見それを見ただけでは誰の情報かわからない指紋情報であったり顔認証の情報であったりするものも、これも個人情報としてきちんとそれなりの、取り扱いをしましょうということにはなりました。

 

安田:なるほど。

 

武藤:ただ、その個人情報保護法はですね、あらかじめ例えばお客さんからその個人情報収集する時に何の目的で使うんですよという目的を限定するということとあらかじめ知らせる。それとその目的の範囲内で利用するし、あらかじめ知らせた保存期間を越えたら直ちに消去するとこういうことをちゃんと守りましょうということをうたっているだけなんですね。でそうすると一見ですね、そのこれを守れば全部適法になっちゃうと思う方が多いんですけれども、じゃー便利だから指紋採らせて下さいよということを告知しただけで、あらゆる店舗がお客さんの指紋を採れるかと言うとそれはまた別の話になっちゃうんですよね。だからその要はお客さんがとられたくないという個人情報というのを本当にとる必要があるかっていうのが疑わしい場合やいやだという人の方が強い場合はそもそも目的を知らせただけでは問題が残るので、民法でも不法行為ということで、損害賠償責任を負うことがあります。

 

安田:なるほど。その個人情報保護法だけではその不十分と言いますか守り切れないところがあるというところだと思うんですけれど

 

武藤:そうですね

 

安田:例えばこれ想像してみるとこれマイナンバー導入の時にも同様のことが言われていたと思うんですけれど、万が一その顔認証のそのデータがその流出してしまって、そうするともうその顔認証システムに蓄積されたあらゆるデータがまた顔のそのデータと一緒に流出してしまうというそういった危険性というのはやはり考えられるんでしょうか

 

武藤:そうですね。あの以前であればですね誰かの指紋情報なんて知り得なかったし、例えば有名人の指紋を捜すということは考えられなかったんだけども、今は有名人でなくても指紋の一千倍本人特定の確実な情報というのがもし漏れてしまうとそれを元に色々、例えばもう今でもインターネットの中で街中の防犯カメラの検索をできるサイトがあったりだとか、そういうのがあるんですけどこれは今後精度が上がっていくと、自分が持っている顔データの情報を元に検索をかけることも技術的にはおそらく可能になっていくんですね

 

安田:なるほど。

 

武藤:そうすると、その知られてしまった顔情報を元に過去から未来にわたってのいろんな行動履歴、移動履歴というのを検索ができちゃうかもしれない

 

安田:なるほど。あのこれまであげていただいた例を考えると、いつどこに行っていただったり何をどれくらい買っていただったり、どんなアーティストのコンサートに行っていただったり、それがこう一気に流出してしまってそれがもう検索可能になってしまう可能性もあるということ

 

武藤:そうですね。はい

 

安田:今後それは考え得るトラブルだと思うんですけれど、その現時点で例えばその起きているトラブルといったのはどういったものがあるんでしょう

 

武藤:ま、これ日本ではありませんけれども中国では政府批判の言論をする方が、あるいは弁護士もそうなんですが、そういう方が色々逮捕されたりしています。これにやっぱり顔認証装置がすごく便利だということは言われていて、政府としては、そういうのも実績として考えていらっしゃるようですね。

 

安田:なるほど。その、一度蓄積したデータを例えば権力を持つ側に乱用されないようにというところが一つだと思うんですけれど、例えばその日本の例で見てみるとその辺野古の抗議活動を行う方のデータがリスト化されていたということが最近報道されましたよね。それがま、顔認証のシステムを使って更にこう精度の高いといったらおかしいかもしれないですけれど、もっといろんな個人情報はつぶさにわかってしまったものが渡るというそういった危険性というのもあると言うことですか。

 

武藤:そうですね。要するにそういう風に政府からターゲットになった方というのは今度この人がいつじゃあ辺野古に行きそうかということを絶えず監視されるかもしれませんし、あるいはこのリーダー格の人はなんとかして失脚させようと思えば、微細な違法行為みたいなことを一生懸命血眼になって検索することができちゃうかもしれませんし、そういう問題は乱用例として考えられることです。

 

安田:なるほど。その顔認証のためのその必要としてその撮影されたデータの行方がほんとに気になるところなんですけれど、例えばこれ取り扱いに関して法律でどの程度定められているか、現時点ではいかがですか

 

武藤:そうですね。まぁ先程もお話しましたけれども今のところは個人情報保護法の規制対象と言う枠組みの保護しかありませんから、事前になぜその顔のデータを使いますよということを告知して下さいねと、でその範囲内で使って下さいねというルールだけが適応されています。そうすると実際には、例えばそのスーパーマーケットの場合であっても自社のホームページで我が社は来店されてるお客さまの顔のデータを録音録画させていただいておりますと、それは防犯の目的の為に顔認証データとして使うことがありますということを数行書いてしまうとですね、それで個人情報保護法上はもう何ら問題がないということになっちゃうので、事実上は設置者の方の自由というかあんまりそこに対して例えば誰かがきちんと監督をしたりということが、なかなか実効性がないという状況ですね

 

安田:なるほど。あの非常にまだちょっと曖昧、法的には曖昧な点が多いと言うことなんですけれども例えば、ま、今東京オリンピックを控えていてこれからテロ対策ということが叫ばれている中で今後これが日本の中でどんな風に使われていくのかということその点はいかがですか

 

武藤:そうですね。まだその会場の入退場だけであればともかくですね、繁華街であったり駅とか交通要所とかにですね、それが張り巡らされてしまうとやはりそのじゃ今中国で行われているような状況と、乱用すればすぐ実行できるような状況になりかねないので、本当に張り巡らされないのかどうか、一体どういう時に必要性があるから設置するのかとか、するとしても目的が終わったら撤去しましょうねということを私達は考えていかないと

 

安田:はい

 

武藤:なんとなく政府が設置した顔認証カメラが街中にあるのが当たり前なのでというそれで常にそれで悪いことしなきゃいいでしょというような社会になっちゃうかもしれないということです。

 

安田:なるほど。とはいえ、それってテロ対策とか犯罪抑止に必要でしょという声があがって来ると思うんですけれど、そもそも例えばこういった監視カメラを増やしていくということによってこれって犯罪抑止にはなっているということになるんでしょうか

 

武藤:これも警察庁が2012年頃に実証実験をされたんですけれども、JRの川崎駅東口でカメラを設置して防犯効果があったかどうかっていうのを検証されましたけれども、前年度と設置した年の比較で全体として神奈川県内全部で犯罪が二割減っていたので

 

安田:ええ

 

武藤:それをゼロという風に補正をした場合なんですけども、それでデータを補正すると設置地域は10%犯罪が減少しましたと、ところがその周辺の要はドーナツみたいな周辺の部分は10%増加したんですね

 

安田:ああ

 

武藤:そうするとこれは犯罪の転移効果と言う風に警察庁では表現していましたけれども、発生場所がよそに隣に移っただけで相対としてはプラスマイナス0と。そうすると、要は税金を使ってカメラを動かした費用が無駄、なおかつあんまり効果が無いのに撮られ続けた通行人のプライバシーは制約を受けたので損をしたと、これは全然プラスではないと言うことを警察庁も理解をして今回のカメラでは有効性は認めがたかったということをご自分でまとめたものをホームページにも掲載されています。

 

安田:なるほど。その監視カメラというのが根本的な意味でその犯罪をなくせているのかというそこからやはり見ていかなければならないところだと思うんですけれど、じゃーまぁ実際にその導入するとしてもどういった法規制が今後必要だと言う風にお考えですか。

 

武藤:そうですね。あのそもそも要は人の顔をとらえるという防犯カメラ自体にもある程度プライバシーに対する制約になるので日弁連は2012年の時点で防犯カメラを公共空間に設置するような場合にはきちんと法律でどういう時に付けて良いとか、あるいはそこで、撮った画像で得たっていうのを警察に対しては令状でだけ提供しましょうねと。今色々ですね、ポイントカードのデータを警察などが捜査関係事項照会書という一枚の紙切れでたくさん集めているというのが問題になっているんですけど、人の防犯カメラの顔のデータも実は同じようにたくさん紙一枚で集積されてるんですね。それはやっぱり令状という、裁判官の第三者のチェックをかけてほんとに必要性をふるいわけをして欲しいなというのが日弁連の考えで、そういうきちんと法律でルールを決めましょうとそういうことが必要だということを、言ってきています。

 

安田:なるほど。要はそのそれがしっかりとそのプライバシーが守れているのかどうかということをそのチェックする機能だったりですとか、その第三者の機関がしっかりとその客観的に見ていく必要性があるということですよね。

 

武藤:そうですね。

 

安田:うーん。あの例えばこの第三者機関がしっかりとそのデータベースというものをチェックしている仕組みというのは他国では何か導入されている例というのはあるんでしょうか。

 

武藤:そうですね。こういう問題についてはドイツがすごく進んでいるんですけれども、やっぱりEUでは実際にテロが起こっているんですよね。色々移民を受け入れていろんな軋轢があってあるいはそこで来た移民が更に戦争に行くために出国するようなことがおこっていて、そのためのそのテロ対策というのはある意味すごく深刻だし一生懸命行政機関が取りくんではいるんですけれども、そのような中でもやはりそれでもやりすぎであったりしては困るし無実の人を無用に監視するのもよくないことなのでということで、基本的にはデータ保護監察官ていう専門の、強い権限を持ったチェックをする検査官みたいな方がいて、警察であれ情報機関に対してであれ誤って市民を過度な干渉してないかと言うことをチェックする権限がきちんとあるんですよね。それで2年おきにずっとチェックをしていて、私達ー昨年度視察にも行ったですけれども、要はテロ対策データベースという警察が運用しているデータベースの中に普通の例えば原発反対をしているデモ行進とか集会に参加している人のデータが、3000人、紛れ込んでいたというような場合これはもう間違いだから外しなさいということを具体的に指揮をして外させたというようなことがちゃんと年次報告書でも出ているし、そういうことをちゃんとやっている国もあります。

 

安田:なるほど。今おっしゃったことに通じると思うんですけれど例えばその無用にその過度な監視をされていたと分かった人がじゃあそのデータをちゃんと削除して下さいという風にしっかりとこう訴えることができる、あの削除してもらえる権利というのもしっかり保障して行く必要があると言うことですね。

 

武藤:そうですね。その点についてはですね、日本でも、もしたまたま発覚したら例えば裁判で是正を求めることができるんですけれども、こういう監視活動というのは秘密裏に行わないと無意味なので、要するにいつの間にか秘密に監視されてるということをとらえるのは極めて困難なんですね。

 

安田:ええ

 

武藤:だからいわゆる犯罪捜査とか刑事訴訟であればちゃんと公判で検証の機会があるけども、こういう監視という分野はですねやはり本当に法律でそういう第三者機関が被害者が分かる前に自分たちできちんとチェックをするその一般国民全体の利益に代表者としてですね、絶えずわからない過剰な監視がないかというのを絶えずチェックするという立て付けがそもそもいりますよ、っていうのがドイツの考え方でありEU全体の考え方であります。

 

安田:なるほど。あの最後に伺いたいんですけど、やはりそういった仕組み作りにはあるいは私たちのアクションが欠かせないと思うんですけれど、その気がついたらその自分たちのプライバシーが侵害されていたということがないように、今後私達どのようなアクションを起こしていく必要というのがあるんでしょう

 

武藤:そうですね。やはり実はこういう問題っていうのは、高度な技術を用いた監視っていうのはですねやっぱり中高年の方々にあまりピンとこないということがあったりして、ドイツでも実はこういったことに関心を示すのは若い方たちなんですよね。やっぱインターネット上でのいろんな行動とかが全部根こそぎとられるのは不愉快であるとかそういうことについての問題意識をもってる若い方がやはり政府に対してきちんと問題意識を持ったうえで意見を出していただかないと、おそらくなかなか変わっていかないのかなという感じはちょっとします。

 

安田:なるほど。今おっしゃったように気がついたら乱用されていたということ本当に誰しもに起こりうる可能性があるからこそ今日お話しいただいた法規制と含めて自分のこととして引き寄せて今後もこの問題取り組んでいきたいと思います。

   武藤さんありがとうございます。

 

武藤:どうもありがとうございました。