「歯科の感染対策」を考えるシンポジウムにご参加下さい。

「患者の権利法をつくる会」の発行する「けんりほうnews vol.261」に、下記原稿を投稿しました。

1 シンポジウムのご案内

 2019年10月26日14:00~17:00,四谷主婦会館プラザエフ7階カトレアで、「歯科の感染対策」を考えるシンポジウムを開催します。是非ご参加下さい。

2 B型肝炎訴訟の経過

  私は、全国B型肝炎訴訟九州弁護団事務局長をつとめております。(B型肝炎訴訟というと、最近はテレビコマーシャルが定着し、80年頃の懐メロに乗せたものも登場していますが、私たちは、このようなテレビコマーシャルは一切行っていません。)

 幼少時に受けた予防接種のときの注射器(針、筒)の連続使用によって、B型肝炎ウイルスに持続感染したとして、平成元年に札幌地裁で5名の原告が実施主体である国を訴えました。しかし、持続感染後の慢性肝炎発症には通常20~30年の潜伏期間が伴うことから、持続感染した原因を特定することが困難ではないかと予想されていました。1審は因果関係を否定しました。しかし、札幌高裁は、浄土宗の僧侶でもある与芝真彰医師の意見書と証言を採用し、B型肝炎ウイルスの持続感染が成立しやすい幼少期における感染原因が、キャリアである母親からの感染以外では、日常生活ではほとんど想定しがたく、注射器の連続使用以外に具体的な原因となり得る行為が考えがたいとして、因果関係を認めました。最高裁も、2006年、原告らがB型肝炎に持続感染したり、その結果慢性肝炎を発症したりした原因が、国による予防接種時の注射器の連続使用にあるとして、その責任を認めました。

 ただ、被害者が膨大な数に上ると考えられたためか、厚生労働省は、被害者の救済を進めなかったため、2008年に10地裁で集団提訴をしました。福岡地裁と札幌地裁の審理は、メディアでも大きく取り上げられました。札幌地裁での和解協議を経て、2011年6月には、被害者の認定基準と症状別の和解金額に関する枠組み合意である基本合意が原告団弁護団厚生労働大臣とのあいだで締結され、当時の菅首相原告団に正式に謝罪し、B型肝炎根治を目指す薬剤の開発支援を約束しました。

3 再発防止の課題としての歯科の感染対策

 注射器の連続使用は、レアケースでない限り再発を心配する必要がないかもしれませんが、全国B型肝炎訴訟原告団弁護団が取り組んでいる再発防止の課題として、歯科の感染対策があります。

 2014年、読売新聞は、国立感染症研究所が調査した結果として、歯科で口腔内で使用する医療器具であるハンドピースを、患者ごとに必ず交換している割合が34%でしかないため、院内感染が懸念されるという記事を公表しました。

 注射器の連続使用ほどではないとしても、感染リスクがあり、安全な医療のためになくなるべき医療器具の連続使用であるとして、全国原告団弁護団は、年1回の厚生労働大臣協議で、この課題の克服を求める活動をはじめました。

 2016年には、現場での遵守状況の調査を求め、2017年5月に公表された結果では、患者ごとに使用済みハンドピースを交換、滅菌する歯科医師は52%に上昇しましたが、100%実施にはまだ遠い状況でした。

 2017年には、当時の塩崎厚生労働大臣から、①標準予防策(患者が感染者であるか否かで区別することなく、すべての患者に対して同様に実践する感染防止策)の徹底が科学的に必要、②命にかかわる重要な問題でコストの課題があっても妥協は許されない、③標準予防策100%実施のために、今後も継続的に調査して向上を図る、④中医協で診療報酬上の対応も議論してもらう、との回答がなされました。

 それ以前は、口腔内で使用した医療器具の患者ごとの交換、滅菌は、AEDの設置などの他の要件を合わせて実践した場合に診療報酬の加算がなされる外来環の一要素とされていました。この年の中医協の結果、患者ごとの交換、滅菌が、基本診療料(初診料、再診料)で評価されるべきこと、つまり、原則としてすべての歯科医院で実践されるべきこととされました。(全国弁護団ホームページで、パンフレットを公表していますhttps://bkan.jp/dental_pamphlet.html

 実際に、現在は、新しい施設基準に基づく届出をしている歯科医院が90%を超えています。現場では、すべての患者に対して口腔内で使用する医療器具の交換、滅菌等が実践されるべきことが周知されつつあります。

4 残された課題

 他方、現場で、本当に標準予防策が徹底されているか疑問もあります。原告さんたちの実際の体験として、2018年にも、B型肝炎の感染を打ち明けたら怒られた、午後の一番最後に受診するように言われた、という事例が報告されています。

 確かに、以前は、歯科では問診によって血液感染しうるウイルス感染の有無をたずね、はいと回答すると別のイスに誘導したり、午後の一番最後に回されることがありました。しかし、そもそもウイルス感染を自覚しない患者が相当数存在する以上、すべての患者の血液を、感染の危険性があるものとして対応する、標準予防策が実践されなければなりません。このことは、1996年にアメリカのCDCで示されました。

 ところが、大学の歯学部においても、それ以前に卒業した歯科医師が、進展した感染予防策をフォローする制度が保障されておらず、ベテランの歯科医師ほど、感染申告をもとに区別する感染予防法、つまり標準予防策以前の古い危険な方法を維持しているというおそれがあります。2016年の調査によると、歯科医師のうち、標準予防策を理解していると回答した割合は、わずか47.3%でした。

 本年の大臣協議では、1996年以前に歯学部を卒業したベテラン歯科医師をターゲットにして、感染予防対策の講習を受けるよう促すとの回答がありました。

 診療報酬制度の変更に合わせて、現場で標準予防策が適切に理解され、実践されるよう、原告団弁護団ともこれから見守っていきたいと考えています。

 冒頭のシンポジウムは、原告団の報告のほか、東京歯科保険医協会理事である濱﨑啓吾氏の講演や、久留米大学医学部准教授の井出達也氏のパネリストとしての参加もあります。

 身近な医療機関なのに、意外と現状が分からない歯科の感染予防策について、是非一緒に考えましょう。ひとりでも多くの皆様のご参加をよろしくお願いいたします。