監視カメラの現状

弁護士の団体から要請を受けて「監視カメラの現状」について原稿を書きました。

1 中国で広がる顔認証装置の活用
 2018年2月18日の朝日新聞記事では、上海市内のホームセンターでの、顔認証技術を使い客が手ぶらで来て手ぶらで帰れるシステムを紹介しており、概要は以下の通りだ。
 来店客は、まず顔を端末に読み取らせ、購入商品を決めるごとに、端末から商品を選択し、顔を読み取らせていく。出口の端末に顔を読み取らせると、合計額が表示され、電子マネーであるアリペイで決済される。
 2018年2月26日のNHKのウェブページのニュースも、中国の監視カメラ・顔認証技術を紹介しており、概要は以下の通りである。
 中国では監視カメラが1億7000万台以上設置されている。顔認証システムで個人を特定しており、例えば赤信号無視で横断歩道を渡ると400円ほどの罰金を課される。
 顔認証システム開発会社の担当者の説明では、このシステムで指名手配犯を3000人逮捕した実績がある。中国のATMでは、顔認証で出金でき、カードも、暗証番号入力も不要である。顔認証で、公衆便所の紙の使いすぎも見張っている。反体制派とみられる人物は、北京の地下鉄のカメラで見つかり逮捕された。反体制派とされる中国人作家は、自分たちが常に監視されていたという。神田外語大学の興梠一郎教授は、中国では、現実的に考えると、政治に関心を持ってもほとんど意味がなく、安全さや便利さを優先しがちではないか、そこで失われる自由やプライバシーとのバランスを考えていく必要がある、と指摘している。
2 顔認証データの収集・利用への歯止めを
日弁連は、2016年9月15日付けで「顔認証システムに対する法的規制に関する意見書」を取りまとめ、2013年度から実施されている5都県警における顔認証装置を用いた犯罪捜査に対し、強制処分法定主義の観点から、法律により、どのような条件ならどのような捜査方法が許されるのか、あらかじめ定めておくことが不可欠であると指摘した。
現状、民間事業者による監視カメラ画像、あるいはこれをもとに生成可能な顔認証データの活用が、任意捜査の名の下で進められている。従って、民間における顔認証データの収集・利用も問題となる。
iPhone?では、本人確認機能が、指紋認証から顔認証に変更されている。アップル社によると、後者は前者の1000倍正確な認証が可能という。
2015年11月20日付日経新聞電子版によると、以下の通りである。
 ジュンク堂書店池袋本店では、2014年6月に顔認証システムを本格導入し、2015年7月中旬時点で500人の万引き犯及び、疑わしい行動をした人などの顔データを蓄積している。2カ所の出入り口に6台設置したカメラで、全ての来店客の顔を検知し、照合する。登録された顔データと似ていると、10秒ほどで保安員にメールが送信される。機械による類似度の判断は甘めに設定されており、保安員の目で同一性を確認する。
 2014年4月には、監視カメラシステムメーカーが、複数店舗間において、万引き犯人等の顔認証データを共有し合えるシステムを販売しているとの報道もあった。
 マイナンバー制度においても、個人番号カードの申請に当たって提出する顔写真から、その後顔認証データを生成し、機械的な一致度の認証をするために活用されている。
 今後、顔認証データはますます広く活用されるだろう。しかしながら、顔認証データは、指紋同様の高度なプライバシー性を有する点に十分な留意が払われているだろうか。「その監視カメラの前を通っただけで直ちに指紋を採られるのの1000倍正確な本人確認情報がとられるが、どう使われているかは分からない」ことを当然に許してよいのか、あらかじめ主権者がまじめに考えておかないかぎり、高度情報化社会においては、プライバシーは消滅するおそれがある。
中国でなされているような「政府批判の表現行為を行うもの」に対する監視に活用されないための歯止めが不可欠である。共謀罪等に対する国連からの意見表明に、政府が反対意見を出す時代において、このことを主権者が真剣に考えることが必要ではないだろうか。
3 盗聴カメラの普及と共謀罪捜査の危険
タクシーに乗ると、バックミラーの部分に、後部座席、助手席を含め、車内の乗客の動向を常時録画し、会話も録音している監視カメラがついていることが多い。
 今後、会話盗聴による共謀罪捜査のインフラとして機能する危険性が高い。
また、コンビニエンスストアでも、全店舗の店内監視カメラについて会話録音を目指すところがあったり、導入比率を上げているところもあるなど、利用客が必ずしも会話録音の状況を十分理解して同意していると思われない監視カメラが増殖している。
 同意のない会話録音は、盗聴という問題となりうるのであり、早急な法規制が望まれる 少なくとも、任意提供等で警察にデータが緩やかに渡されることには問題がある。2012年日弁連意見書でも立法の必要性は示されている。
 京都府では、民間事業者が収集した監視カメラデータを警察に提供する場合は、令状を求めるよう促しており、全国で参考にされるべきである。
4 警察権の無限定な拡大に対し、法律による歯止めを
日弁連は、2016年9月14日、大分県警別府署の隠し撮り捜査事件に対し、違法な監視カメラの設置に抗議する会長声明を公表した。
 警察庁は、2016年8月26日付けで、監視カメラを用いた捜査を任意捜査として、必要な範囲において、相当な方法であれば許されるという趣旨の「捜査用カメラの適正な使用の徹底について」と題する通達を発出した。
 上記通達は、憲法で保障されるプライバシー権表現の自由等を侵害する捜査方法を捜査機関の判断で自由に行うことを可能にするものであり、警察実務において人権侵害を日常化するおそれがあるから、撤回されるべきである。
 監視カメラ・顔認証装置、Nシステム等についても、最高裁違憲判断が出されたGPS捜査におとらない国民監視が可能である以上、適切な法の歯止めが規定されるべきだ。
 また、感情的な議論で安全のみを一方的に志向することなく、行政権特に警察権に対し無限定な拡大が望ましくないこと、民主的コントロールがなければ民主主義国家とは呼べないことなどについて、市民的な理解を広げ、実効性のある法整備が不可欠である。
 我が国の人権保護レベルは、すでに欧米から1段下がったものとなりつつある。政府ではなく私たちが主権者であり続ける努力が必要ではないだろうか。