福岡県弁護士会のパブリックコメント

 本日、福岡県弁護士会は、特定秘密保護法の運用基準案、及び施行令案に対するパブリックコメントを提出しました。
 内容は以下の通りです(丸数字がうまく表示されていませんが・・・)。

「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)」に対する意見

1 団体
2 福岡県弁護士会 会長三浦邦俊
3 福岡市中央区城内1−1
4 TEL 092−741−6416
5、6 複数項目に及ぶため、以下、適宜項目名を指摘しながら意見を述べる。

 2014年7月24日付けで、内閣官房特定秘密保護法施行準備室において、「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)」(以下、「運用基準案」という)が公表され、意見募集がなされている。
 2013年9月に実施された「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対するパブリックコメントは、公表からわずか14日間で締め切るなど、極めて短期間で実施され、国民に十分な理解を得る姿勢はみられなかった。今回は、周知期間も設定され、募集期間も30日間とされている。しかしながら、その対象となる事項は、遥かに膨大な量に及んでおり、現実に主権者である国民がその全てをつぶさに検討することは極めて困難である。従って、このように主権者国民が十分にその内容を理解した上で、賛成または反対の意思を決定することができないようなスケジュールで行われるパブリックコメント手続き自体が民主主義的なルールに則っておらず、遺憾である。
 翻って、当会は、2013年10月11日付の「特定秘密保護法案に関する会長声明」で、同法案は国民主権原理に反し重大な憲法上の権利を侵害する立法であり、断固として反対し、政府に対しては本法案の国会上程を速やかに断念することを強く求めた。ところが、同年12月6日に、同法は衆参両議院で強行採決という形で成立した。当会は、同月12日付「特定秘密保護法成立に抗議し同法の廃止を求める会長声明」で、同法が存続する限り、その廃止を求め、その実現に向けての活動を継続していくと共に、その過程においても国民生活全般の萎縮をもたらさないよう同法の濫用を厳しく監視していく旨を表明した。
 以下の意見は、この観点から行うものである。

第1 法律自体の廃止の必要性
 1 はじめに
 運用基準案には、本来、主権者が主権者として国政に関する判断を的確になし得る前提として当然に保障されるべき国民の知る権利(憲法21条)を制限するため、単なる政令や行政内部の運用基準ではなく法律で規律されるべき事項を多く含んでいる。
 重大な問題を含む法律を放置したまま、政令や運用基準案を策定したとしてもそれによって問題のある法律の運用が合理化されるものではない。従って、当会が従来から主張しているとおり、特定秘密保護法は廃止されるべきである。
 少なくとも、以下の問題点を解消し、かつ必要性の有無をも含めた主権者国民による徹底的な議論に基づく民主的手続きを欠いたまま、特定秘密保護法は施行されるべきではない。
 2 欠落している条項
(1) ツワネ原則の遵守
 憲法21条で保障されている国民の知る権利を保障し、合憲性を確保するためには、国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)で示されている下記の事項が必要であるが、運用基準案にすら盛り込まれていない(第1、1,(2))。
?国民の情報アクセス権を制限する正当性の証明が政府の責務であることの明示(原則1,4)
?政府が秘密にしてはならない情報の明示(原則10)
法律の明文による、違法秘密、擬似秘密、公益通報の通報対象事実の明確な指定禁止規定が不可欠である。
?秘密指定が許される最長期間の明示(原則16)
法4条4項各号の60年超の例外事由は削除すべきである。
?国民が秘密解除を請求するための明確な手続規定(原則17)
?全ての情報にアクセスできる独立した監視機関の設置(原則6,31〜33)
 独立行政委員会を設置し、不当な秘密指定の解除を実施できる権限を付与し、協力しない行政機関または担当者に対する行政罰を定めるなどして、強力な調査権限を付与すべきである。
 法10条1項1号イは、安全保障上の問題があると行政機関の長が判断すれば、行政側は特定秘密の国会への提供を拒めるように規定している。国会内に設置されることとなっている情報監視審査会も、全ての情報にアクセスすることはできないのであり、不十分である。
?内部告発者の保護規定(原則37〜46)
 主権者の判断を誤らせるおそれのある違法秘密等、主権者に公開されるべき公益の方が、政府が秘密にしておく必要性のある公益よりも上回ると考えられる秘密について、その指定の解除を求めることが、主権者の知る権利(憲法21条)のために正当であること、従って、内部告発は警戒されるべきものではなく、積極的に推奨されるべきものであることを明文として規定するとともに、内部告発を行ったこと自体によっていかなる不利益も受けない徹底した保障がなされるべきである。
?一般国民は秘密情報を求めたり入手したりしたという事実を理由にした刑事訴追をされない(原則47)
 主権者の政策決定に不可欠な重要な事実が隠され、誤った説明に基づく誤解による政策が進められた経験があることは洋の東西を問わず、歴史を学んだことのあるものであれば誰もが知っていることである。
 このような事態が正義に反するものであるという価値観を共有する民主主義国家においては、国の秘密に対して公開を迫る行為自体が知る権利として憲法上保障されるものと言うべく、記者による取材や市民による調査を処罰したり、その威嚇のもとに萎縮させるようなことはあってはならない。
  (2) その他の事項
? 公文書が不当に廃棄されないための手続き
 法4条6項に、秘密の指定機関が満了したか解除された情報は、全て国立公文書館等に移管することが明記されていないことは問題である。
 ? 刑事訴訟における外形立証の禁止
 法10条1項1号ロでは、安全保障上の問題があると行政機関の長が判断すれば、行政側は特定秘密を裁判所に提供することが拒める。国会でも、外形立証を行うことができるとの答弁がなされている。しかしながら、被告人に対象となる特定秘密がわからない場合や、対象となる特定秘密は分かるけれども、それを主権者に知らせる公益の方が大きいという正当業務行為による無罪を主張する場合には、何が秘密だったかすら明らかにされないまま訴訟が終了するおそれがある。このような場合には被告人の防御権は守られることがなく、公平な裁判所による公開の裁判を受ける権利(憲法37条)が侵害されるのであるから、このようなことがないよう、法の明文が是正されなければならない。
 ? 適性評価におけるプライバシー侵害の防止
法12条3項について、適性評価実施の際に、「公務所または公私の団体」、評価対象者の「知人その他の関係者」へ照会,質問しあるいは資料の提出を求める場合には、当該公務所または公私の団体、当該知人その他の関係者ごとに事前に同意を得るとされていないのは問題である。
法12条について、適性評価実施の際に、評価対象者の家族及び同居人に対する調査の際には、その都度当該家族及び同居人の同意を得るとされていないのは問題である。
 法16条について、適性評価の結果の目的外利用の禁止規定に違反した職員等に対しては、懲戒処分を科すことができるようにされていないことは、その実効性が確保され得ないから問題である。

第2 運用基準案に対する意見の趣旨及びその理由
1 運用基準案「? 基本的な考え方」に対する意見
 (1) 「1 策定の趣旨」について
【意見】特定秘密の指定範囲を極力限定すること,指定の恣意性を排除すること,適性評価制度においてプライバシーを保護することを策定の趣旨に盛り込むべきである。
【理由】特定秘密保護法は国民の知る権利の保障,国民主権プライバシー権の保障に抵触するものである以上,本来であれば直ちに廃止されるべきである。本年7月26日に国連自由権規約人権委員会自由権規約委員会)が日本政府に対して出した勧告意見においても,特定秘密保護法が秘密指定の対象となる情報について曖昧かつ広範に規定されている点,指定について抽象的要件しか規定されていない点,及びジャーナリストや人権活動家の活動に対し萎縮効果をもたらしかねない重い刑罰が規定されている点に憂慮が示され,特定秘密に指定されうる情報のカテゴリーが狭く定義されること,情報を収集し,受取り,発信する権利に対する制約が適法かつ必要最小限であって,国家安全保障に対する明確かつ特定された脅威を予防するための必要性を備えたものであること,何人も国家安全保障を害することのない真の公益に関する情報を拡散させたことによって罰せられないことが保証されなければならないとしている。
したがって,仮に,本法律を施行するとしても,その際の運用は憲法に抵触するおそれを極力小さくするために,上記自由権規約委員会の勧告意見を踏まえ,特定秘密の指定範囲の限定や恣意的な秘密指定の排除,適性評価制度におけるプライバシー保護を徹底すべく,運用基準案の「基本的な考え方」にもその旨を明記すべきである。
  (2) 「2 特定秘密保護法の運用に当たって留意すべき事項」について
? 「(1) 拡張解釈の禁止並びに基本的人権及び報道・取材の自由の尊重」について
【意見】拡張解釈の禁止や基本的人権の尊重を担保する具体的措置として,国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)で示されている下記の事項を運用基準案に盛り込むべきである。
・国民の情報アクセス権を制限する正当性の証明が政府の責務であることの明示(原則1,4)
・政府が秘密にしてはならない情報の明示(原則10)
・秘密指定が許される最長期間の明示(原則16)
・国民が秘密解除を請求するための明確な手続規定(原則17)
・全ての情報にアクセスできる独立した監視機関の設置(原則6,31〜33)
内部告発者の保護規定(原則37〜46)
・一般国民は秘密情報を求めたり入手したりしたという事実を理由にした刑事訴追をされない(原則47)
【理由】運用基準案で述べられている内容は当然のことを確認しているにすぎない。問題は,それをどのようにして実効化するかであるが,運用基準案にはその具体的措置が示されていない。したがって,自由権規約19条によって保障される表現の自由・知る権利と国際的に承認されたツワネ原則に基づいた具体的措置を明記すべきである。

   ? 「(2) 公文書管理法と情報公開法の適正な運用」について
【意見】特定秘密の指定の有効期間の長短にかかわらず,恣意的な文書廃棄を防止するための措置を明記すべきである。
【理由】運用基準案で述べられている点については特段異論はない。しかし,沖縄返還密約文書情報公開訴訟の最高裁平成26年7月14日第二小法廷判決によれば,外交交渉で作成される文書の保管体制が通常と異なることがあることを認めており,また行政文書の存在の立証責任を開示請求者側に課しているため,行政機関の長が特定秘密指定の有効期間満了となった行政文書を恣意的に廃棄した場合であっても,国民はそれを知り,又は追及する手段を著しく制限されてしまう。したがって,秘密指定の有効期間の長短にかかわらず,指定の効力を失った全ての特別秘密を国立公文書館に移管するなど、恣意的な文書廃棄を防止するための措置を明記すべきである。
  (3) 「3 特定秘密を取り扱う者等の責務」について
【意見】違法秘密や疑似秘密について,特定秘密指定をせず,又は秘密指定されている場合には直ちに指定解除する責務を明記すべきである。
【理由】運用基準案では,特定秘密の保護の観点から特定秘密取扱者等の責務を述べている。しかし,知る権利の保障や国民主権の観点からは,まず違法な特定秘密の指定をしないことを責務として明記すべきである。
 2 運用基準案「? 特定秘密の指定等」に対する意見
  (1) 「1 指定の要件」
   ? 「(1) 別表該当性」
ア 「【別表第1号(防衛に関する事項)】」について
【意見】
イa(b)の「自衛隊の情報収集・警戒監視活動」は,削除するか、国民に対する監視の除外を明記すべきである。
      【理由】
自衛隊情報保全隊による国民監視活動が含まれると思料される。そして,自衛隊情報保全隊の国民監視活動は,仙台地裁平成24年3月26日判決(判時2149号99頁)において,「各原告がした活動等の状況等にとどまらず,これら各原告の氏名,職業に加え,所属政党等の思想信条に直結する個人情報を収集」しており,「人格権を侵害」し違法であると判断されている。したがって,運用基準案は,自衛隊の違法な活動を特定秘密に指定することを許容するおそれがあり適切ではない。
【意見及び理由】
イbに「アメリカ合衆国の軍隊(以下「米軍」という。)の運用」が明記されている。しかし、米軍の運用に打ち手は、特定秘密保護法には明記されておらず、法律の範囲を逸脱するものであるから、削除されるべきである。
ロaの「電波情報,画像情報その他情報収集手段を用いて収集した情報」は無限定であり、違法な情報収集活動をも許容しかねない。したがって,違法な情報収集活動を用いて収集した情報は特定秘密の範囲に含まれない旨を明記すべきである。
ハの「ロaからcまでに掲げる事項に関する情報の収集若しくは分析の対象,計画,方法,情報源,実施状況又は能力」は広範に及んでおり,限定機能を果たしていない。したがって,少なくとも分析の対象,計画,方法,実施状況については「現在行われているもの」に限定すべきである。
ニa「防衛力の整備のために行う国内外の諸情勢に関する見積り又はこれに対する我が国の防衛若しくは防衛力の整備に関する方針」は,あまりに抽象的で安全保障政策全体をブラックボックス化しかねない範囲となっている。したがって,これは削除すべきである。
ニb「防衛力の整備のために行う防衛力の能力の見積り又はこれに基づく研究」,及びc「自衛隊及び米軍の防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究」はいずれも抽象的であり,広範に及んでおり,限定機能を果たしていない。したがって,「防衛力」の内容をより具体的に明記すべきである。また,「米軍の」防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究は,特定秘密保護法で摘示していない事項であるから削除すべきである。
イ 「【別表第2号(外交に関する事項)】」について
  ハaの「電波情報,画像情報その他情報収集手段を用いて収集した情報」は情報収集手段が無限定となっており,違法な情報収集活動をも許容しかねない。したがって,違法な情報収集活動を用いて収集した情報は特定秘密の範囲に含まれない旨を明記すべきである。
ニの「ハaからcまでに掲げる事項に関する情報の収集若しくは分析の対象,計画,方法,情報源,実施状況又は能力」は広範に及んでおり,限定機能を果たしていない。したがって,少なくとも分析の対象,計画,方法,実施状況については「現在行われているもの」に限定すべきである。
ウ 「【別表第3号(特定有害活動の防止に関する事項)】」について
  イa(c)の「重要施設,要人等に対する警戒警備」及び同(d)の「サイバー攻撃の防止」は,具体的とは言えず,限定機能を果たしていない。したがって,具体例を示すなどして限定を図るべきである。
ロaの「電波情報,画像情報その他情報収集手段を用いて収集した情報」は情報収集手段が無限定となっており,違法な情報収集活動をも許容しかねない。したがって,違法な情報収集活動を用いて収集した情報は特定秘密の範囲に含まれない旨を明記すべきである。
ハの「ロaからcまでに掲げる事項に関する情報の収集若しくは分析の対象,計画,方法,情報源,実施状況又は能力」は広範に及んでおり,限定機能を果たしていない。したがって,少なくとも分析の対象,計画,方法,実施状況については「現在行われているもの」に限定すべきである。
エ 「【別表第4号(テロリズムの防止に関する事項)】」について
  イa(b)の「重要施設,要人等に対する警戒警備」及び同(c)の「サイバー攻撃の防止」は,具体的とは言えず,限定機能を果たしていない。したがって,具体例を示すなどして限定を図るべきである。
ロaの「電波情報,画像情報その他情報収集手段を用いて収集した情報」は情報収集手段が無限定となっており,違法な情報収集活動をも許容しかねない。したがって,違法な情報収集活動を用いて収集した情報は特定秘密の範囲に含まれない旨を明記すべきである。
ハの「ロaからcまでに掲げる事項に関する情報の収集若しくは分析の対象,計画,方法,情報源,実施状況又は能力」は広範に及んでおり,限定機能を果たしていない。したがって,少なくとも分析の対象,計画,方法,実施状況については「現在行われているもの」に限定すべきである。
   ? 「(2) 非公知性」について
  「当該情報と同一性を有する情報が報道機関、外国の政府により公表されていると認定する場合には、例えわが国の政府により公表されていなくテも、本要件を満たさない」との点は、「と認定する」段階における恣意性が懸念されるため、単に「公表されている場合には」として、認定者による恣意性を明確に排除すべきである。
   ? 「(3) 特段の秘匿の必要性」について
【意見】当該情報の漏えいにより「我が国の安全保障に著しい支障を与える事態が生じるおそれ」の有無は,蓋然性のある事象に限定するよう明記すべきである。とりわけ、原子力発電所に関する情報のような国民の生命・健康に重大な影響を及ぼす事項に関する情報については、その情報の国民への公開の重要性に鑑み、「おそれ」の有無はより慎重に判断されるべきである。
【理由】運用基準案では,情報漏えいにより「…対抗措置が講じられ,我が国に対する攻撃が容易となったり,外国の政府等との交渉が困難となったりすることとなる」場合や,「今後の情報収集活動,当該外国の政府等との安全保障協力等が滞る」場合を例示している。しかし,このような抽象的な例示では限定機能を果たしていない。したがって,情報漏えいにより「安全保障に著しい支障」が生じる蓋然性を要求すべきである。
  また、原子力発電所に関する情報のような国民の生命・健康に重大な影響を及ぼす事項に関する情報については、その性質上、本来国民の公開されなければならない。したがって、そのような情報については特段の秘匿の必要性は原則として認められないものとして、「安全保障に著しい支障」が生じる蓋然性の判断はより慎重になされるべきである。
   ? 「(4) 特に遵守すべき事項」について
【意見】「イ 公益通報の通報対象事実その他の行政機関による法令違反の隠蔽を目的として、指定してはならないこと」については、「イ 公益通報の通報対象事実その他の行政機関による法令違反の事実を指定してはならないこと」とすべきである。また、この点は本来法律で明記すべき事項である。
【理由】「隠蔽の目的」という主観的要素が加えられると、「隠蔽する目的ではなかった」違法秘密の隠蔽が正当化されてしまうから明らかに不合理である。また、特定秘密指定の厳格な運用を図るためには運用基準としてではなく,法律や法律施行令によって縛りをかけなければ実効性を期待できない。
  (2) 「3 指定手続」について
? 3(2)について
【意見】指定の要件を満たしていると判断する理由は、単に別表に該当する旨だけでなく、別表に該当する具体的事情を明記すべきである。
【理由】例えば、単に別表一イに該当することが指定の要件を満たしている理由とされれば、実質的には、何も理由が明記されていないことと同じであるから、該当することの具体的事情が明記されるべきである。
   ? 3(4)について
【意見】災害時の住民の避難等国民の生命及び身体を保護する観点から公表の必要性が生じるような情報は,そもそも秘密指定の対象とされるべきではない。
【理由】災害時の住民の避難等に関して公表の必要性が生じるような情報は、事前に公表され、日頃から避難方法が周知されていないのに、当の災害時に万全な非難ができるはずがない。
福島原発事故で問題となったSPEEDIの情報が隠蔽されるようなことがあってはならないし,国民の安全を守ることを目的としている秘密保護法が,国民の安全を脅かすようなことがあってはならない。
  国民の生命・身体を上回る国益のために、国が情報を隠すことが正当化されるという事態を考えることが妥当ではなく、個人の尊厳を最大の価値とする憲法に反する。
3 運用基準案「? 特定秘密の指定の有効期間の満了,延長,解除等」に対する意見
  (1) 「1 指定の有効期間の満了及び延長」
   ? 「(1) 指定時又は延長時に定めた有効期間が満了する場合」について
【意見】?当該ときを経過した後,指定の有効期間を延長するときには,慎重に判断するのではなく,原則的に指定期間が満了するとされるべきである。
?人的情報源に関する情報関しても,「当該人が亡くなったとき」として,原則的な期間を設けるべきである。
?政令で60年超を定めることは,原則的に禁止すべきである。
【理由】?ア乃至オは,秘密保護法4条4項において,永久に秘密指定が可能とされている情報であるから,かかる情報について,掲げるときを明記して安易な延長を抑制する点,及び延長の理由を書面等で明らかにしておくことは評価できる。
しかし,掲げるときを経過したときは,かかる情報は秘密指定の必要がないはずであるから,原則的に指定期間は満了されるとすべきであり,延長には特段の理由が必要とされるのが相当である。
間違っても,安易な延長,永久秘密化がなされるべきではない。
  ?人的情報源に関しても,当該人が亡くなったときは,通常は人的情報源を秘密にし続ける必要はないことから,原則的な期間を設けるべきである。
  ?秘密保護法第4条4項7号では,政令で60年超の情報を定めることができるとされているが,政令で定めることが可能となれば,法律で1号から6号で限定列挙した意義を没却させることとなり,安易な永久秘密指定が可能となり,法律の潜脱ともなりかねない。
  したがって,政令で60年超を定めることは,原則的に禁止すべきである。
   ? 「(4) 通じて30年を超えて延長する場合」について
【意見】30年までの指定が原則であることを明記すべきである。
【理由】そもそも,30年を超えてまで秘密にすべき情報はごくわずかであると考えられる上,市民の知る権利の保障の観点からは,30年を超える秘密指定は極めて限定的な情報に限られるべきであるから,原則として30年までと明記すべきである。
(3) 「3 指定が解除され,又は指定の有効期間が満了した当該指定に係る情報を記録する行政文書で保存期間が満了したものの取扱い」
   ? 「(2) 指定の有効期間が通じて30年以下の特定秘密」について
【意見】30年以下の特定秘密についても,すべて国立公文書館等に移管すべきである。
【理由】秘密保護法4条6項の規定からすれば,30年超について内閣の承認を得られなかった情報については,公文書管理法の第8条第1項の規定に基づくようにも解釈できるところ,30年を超えた情報についても,本運用基準は同法の適用を排除して,国立公文書館等に移管するとしている。
  一方,本運用基準は,30年以下の特定秘密については,同法第8条第1項の規定に基づいた処理を行うとしている。しかし,30年超えについて同法の適用を排除している以上,30年以下の秘密について適用を排除できない理由はない。
  この点,逐条解説では,「内閣の承認を得られなかった場合,関係文書を国立公文書館等に移管するとあえて明記したのは,不承認の結果,特定秘密としていた情報が明らかになることをおそれた行政機関が,恣意的な判断でこれを廃棄することを防止することにあると理解されている。」とされている(30頁)。そうであれば,30年以下の秘密であっても,行政機関が恣意的な判断で廃棄することを防止する必要があることに変わりはないから,30年超と同様に,30年以下の秘密についても,同様に解すべきである。
そもそも,秘密保護法では,「我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため,特に秘匿することが必要である」情報が秘密に指定されるのであるから,公文書管理法2条6項において、「『歴史公文書等』とは、歴史資料として重要な公文書その他の文書をいう」とされていることからしても,秘密指定された情報は,歴史公文書等に該当するものとして、同様に取り扱われるべきである。
4 運用基準案「? 適性評価の実施」に対する意見
(1) 「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」
   ? 「(2) 調査事項以外の調査の禁止」について
【意見】「適法な」は削除すべきである。また,信教の自由を侵してはならないとの原則を加えるべきである。この禁止事項に違反した調査を行った職員に対しては,懲戒処分その他適切な措置を講じるべきことを記述すべきである。
【理由】統一的運用基準案は,プライバシーの保護への十分な配慮を掲げ,評価対象者の思想信条並びに適法な政治活動及び労働組合の活動についての調査を厳に慎むとする。
「適法な」政治活動,労働組合活動であるか政府や行政機関が判断することになるであろうが,政治活動や労働組合活動として,特定秘密に接近する活動を行うことはありうるものである。その際,秘密保護法を運用する立場からは「合法ではない」活動ということになりかねない。また,警察庁自衛隊情報保全隊イスラム教徒やその団体を「国際テロ容疑」で調査していたことが明らかとなっている。このような調査活動は信教の自由を侵害する。
思想信条,信教の自由,政治活動の自由,労働組合活動の自由は,憲法で保障された国民の基本的人権であるから,これを侵害するような調査活動は違法である。単に統一的運用基準で禁止するとしても,それに対するペナルティーがなければ単なる訓示規定に過ぎない。統一的基準案「?4(3)通報者の保護」では,「当該職員に対し,懲戒処分その他適切な措置を講じるものとする。」と記述しているのであるから,この禁止事項に違反した場合にも,同様の懲戒処分その他適切な措置を講じることが可能であるし,すべきである。
   ? 「(3) 適性評価の結果の目的外利用の禁止」について
【意見】目的外利用禁止は当然のことであるが,この禁止事項を実行あらしめるため,禁止事項に違反した職員に対しては,懲戒処分その他適切な措置を講じるべきことを記述すべきである。
【理由】特定秘密保護法第16条は,適性評価に関する個人情報の目的外利用を禁止している。行政機関個人情報保護法第8条第2項は,一定の範囲での目的外利用が許容されているところ,適性評価実施により取得される個人情報は,この例外として特定秘密保護法以外の目的での利用・提供が禁止されるものである。
評価対象者に対する7項目の調査事項及びその家族同居人らに対する調査事項は,それらのものにとってきわめて機微に属する情報である。これらの情報を目的外に使用されることがあっては,適性評価制度の信頼性が根底から崩されるであろう。適性評価制度が適正に運用されるためには,目的外利用の禁止に違反する職員に対しては,厳しい措置が必要であろう。
(4) 「4 適性評価の実施についての告知と同意」
   ? 「(1) 評価対象者に対する告知」について
【意見】別添1告知書中「2適性評価で調査する事項」では、特定有害活動及びテロリズムに関する事項を、より具体的に記述すべきである。
【理由】告知書は、評価対象者が適性評価の実施に対して同意不同意を決める上で最も重要な書面である。特定秘密保護法12条2項1号から7号の調査事項のうち、2号から7号についてはそれなりに具体的な記述となっている。ところが、1号の特定有害活動及びテロリズムに関する事項については、ほぼ法文通りの記述に過ぎず、何ら具体性がない。このままでは、何が調査されるのか判断がつかないから、プライバシー侵害を正当化するための同意の有効性に疑問が残る。有効な同意を取得するためには、より具体的な調査事項の特定が不可欠である。
   ? 「(2) 同意の手続」について
【意見】プライバシー権や思想信条の自由を侵害するおそれの高い適性評価のための調査においては,あらかじめ「適性評価の実施についての同意書」に「質問,資料提出」を求める知人その他の関係者につき,必要最小限度の範囲のものに限定して,対象となる知人その他の関係者を例示し,かつ,質問票にも「質問,資料提出」を求める「知人その他の関係者」記載欄を設けるべきである。その上で,実際に「質問,資料提出」を行う具体的な「知人その他の関係者」に対する「質問,資料提出」を行うことにつき,その都度評価対象者の同意を書面で得るべきである。「公務所及び公私の団体」に対して照会して報告を求める場合,その都度「公務所及び公私の団体」ごとに評価対象者の書面による同意を取り付けるべきである。
  また,評価対象者の家族,同居人を調査するには,これらの者の事前の同意を書面で得るべきであることを運用基準案へ明記すべきである。
【理由】別添2−1,2同意書は適性評価の実施に先立ち予め評価対象者からとりつけるものである。
別添2−1同意書に記載されている同意内容は,特定秘密保護法第12条4項をそのまま記載したものであり,きわめて抽象的な同意内容となっている。評価対象者の「知人その他の関係者」へ質問したり資料の提出を求めることへの同意といっても,どの範囲の知人その他の関係者なのか不明であり,評価対象者の人間関係全般に及びうるものとなっている。これは全くの白紙委任に等しいものであり,プライバシーや思想信条の自由を侵害する恐れの高い適性評価制度の運用において,評価対象者の真の同意を得て行われるものではなく,違法な調査といわざるを得ないであろう。しかも調査票の調査事項では,対象者の外国人の知人を記載する項目はあるが,それ以外の知人の記載項目はない。評価対象者にとっては,対象者の人間関係全般にわたる調査が,対象者の知らない情報をもとになされるとの強い不安と懸念を抱かせるものとなっている。
  別添2−2公務所または公私の団体への照会等への同意書の同意内容は,評価対象者の知人その他の関係者への質問と,これらの知人その他の関係者が質問へ回答することへの同意,国及び地方の行政機関,信用情報機関医療機関その他の公務所及び公私の団体への照会と照会に対する報告をすることへの同意となっている。
  「知人その他の関係者」については,上記の問題がある。「公務所及び公私の団体」の記載も包括的で,信用情報機関医療機関を挙げてみても,別添2−2同意書が包括的で白紙委任の同意となっていることには変わりがない。同意書に関する以上の問題は,同意書の記述内容だけではなく,同意書が適性評価の実施に先立ち予め作成されるということに起因している。
  特定秘密保護法第12条では適性評価の実施に際し調査対象者への告知と同意は必要とされているが,配偶者,父母,子,兄弟姉妹並びのこれらの者以外の配偶者の父母及び子という広範な家族と同居人の同意は不要となっている。別添5質問票によれば,評価対象者は家族,同居人について,氏名,生年月日,住所,国籍,帰化歴,帰化の場合元の国籍,通称名などを記載することになっている。評価対象者よりも限定された事項ではあるが,これ自体も広範な個人情報である。さらに調査票に記載されたこれらの情報につき,適性評価実施に際してさらに調査が行われることになる(特定秘密保護法第12条第4項)。
適性評価手続きが評価対象者の家族,同居人の同意もなく個人情報について調査を行うことは,これらの者のプライバシー権を侵害することは明らかである。これらの家族,同居人に対しても適性評価実施に際してはその都度同意を取り付けるべきである。
   ? 「(3) 不同意の場合の措置」について
【意見】不同意書面は取り付けるべきではない。
【理由】適性評価実施についての不同意の場合,別添3不同意書を提出することとされている。不同意書の記載内容は,不同意の結果「特定秘密の取り扱いの業務が予定されていないポストの配置転換となる等」があることが予告されている。「配置転換となる等」と不明確な処分が予告されており,不同意の結果どのような不利益処分がなされかもしれないとの強い不安感を与えて,事実上同意を強制するものである。
  統一的運用基準案は,「適性評価実施担当者は,(中略)『適性評価の実施についての不同意書』が提出されるなど」と記述し,不同意書以外の不同意の意思表示も想定しており、そもそも必須という建前ですらない。
  特定秘密保護法第16条は,評価対象者が同意しなかったことを含めて適性評価の実施に当たり取得した情報の目的外利用を禁止し,その例外として,公務員の懲戒,分限処分に関係する場合には,その限りにおいて目的外利用が出来るとされている。そのため,不同意や、それが繰り返されることを懲戒理由にされるおそれがある。少なくともプライバシー侵害を拒否したものに不利益にしかならないような書面の作成を求めることは許されない。
(5) 「5 調査の実施」
   ? 「(5) 公務所又は公私の団体に対する照会」について
【意見】公務所及び公私の団体への照会に対して,当該公務所,公私の団体は照会当時現に保有する情報のみに基づいて報告する旨を明確にすべきである。
  公務所及び公私の団体に対する照会事項の書式を運用基準別添書式として定め,その書式へ不動文字で,照会時点において公私の団体が現に保有する情報のみに限り報告すること及び評価対象者の思想信条にわたる情報は記載してはならないことを示すべきである。
  これに違反した記載を行った職員に対しては,懲戒処分その他適切な措置を講じるべきことを記載すべきである。
【理由】公務所及び公私の団体への照会は,それらの機関,団体が現に保有している情報の提供にとどまるとの保証はない。テロリズムや特定有害活動へのかかわりの調査では,照会先として警備公安警察公安調査庁自衛隊情報保全隊などが考えられる。これらの機関が照会に対して報告するうえで,すでに保有している情報を名寄せし,それでも不十分と判断すれば,評価対象者の周辺調査を行う可能性がある。
特定有害活動,テロリズムを名目とする調査であれば,思想信条の調査,信仰の調査となり,極めて違憲性の強い調査になるおそれがある。
運用基準案は,評価対象者の思想信条について調査することを現に慎むとしているが,これに反した職員に対するペナルティーはない。評価対象者の思想信条の調査の禁止は,実効あらしめるための措置が必要である。
(6) 「6 評価」
   ? 「(1) 評価の基本的な考え方」について
【意見】特定秘密漏えいを防ぐためであれば,視点として必要なものはアないしウである。その他の視点は適性評価の視点とすれば必要がない。
【理由】運用基準案は評価の視点として以下の7項目を挙げる。
  ア 情報を漏らすような活動にかかわることがないか
イ 情報を漏らすよう働きかけを受けた場合に,これに応じるおそれが高い状態にないか
  ウ 情報を適正に管理することができるか
  エ 規範を遵守して行動することができるか
  オ 自己を律して行動することができるか
  カ 職務の遂行に必要な注意力を有しているか
  キ 職務に対し,誠実に取り組むことができるか
  アないしウは、漏えい防止の観点からは合理的であると思われるが、エないしキは、主権者である国民のための情報公開に資する適法な内部通報を行い、省益や国益よりも主権者の利益を重視するおそれのある職員を排除するために用いられかねない。
(7) 「7 結果等の通知」
   ? 「(1) 評価対象者への結果及び理由の通知」について
【意見】理由の通知については,秘密保護法12条2項各号のどれに該当すると評価されたかだけではなく特定秘密を漏らすおそれがないと認めた具体的事実及びその具体的事実を認定した資料についても記載すべきものである。
【理由】イにおいて,「行政機関の長が評価対象者について特定秘密を漏らすおそれがないと認められないと評価したときは,当該評価対象者に対し,別添9−1の『適正評価結果等通知書(本人用)』により,その結果及び当該おそれがないと認められなかった理由を通知するものとする」としている。
また,ウでは,「理由の通知に当たっては,その理由が本人の申告に基づく事実によるものであるときには当該事実を示す等,具体的にこれを行うものとする。ただし,評価対象者以外の者の個人情報の保護を図るとともに,理由の通知によって,調査の着眼点,情報源,手法等が明らかとなり,適性評価の円滑な実施の確保を妨げることとなる場合には,これが明らかとならないようにしなければならない」としている。
 この点,別添9−1からは,一般的に極めて簡単な理由のみが記載されることが想定されていると思われる。適性評価の結果が,その後の人事上大きな影響を与えうることを考えると,本人の申告に基づく事実によらない理由も含め,秘密保護法12条2項各号のどれに該当すると評価されたかだけではなく特定秘密を漏らすおそれがないと認めた具体的事実及びその具体的事実を認定した資料についても記載すべきものである。そのことを運用指針のみならず,政令にも書き込むべきである。
(8) 「8 苦情の申出とその処理」
   ? 「(3) 苦情の処理の手続」について
【意見】苦情処理の手続きにおいて,苦情申出者に意見陳述・資料提出の機会を保障すべきである。
【理由】イでは,「苦情処理担当者は,必要に応じ,苦情申出者,適性評価実施担当者その他必要と認める者に質問し,又は,苦情申出者若しくは適性評価実施担当者に資料の提出を求めることができる」としている。そこには,苦情申出者に意見陳述・資料提出の機会の保障は明記されていない。苦情申出制度の意義を、不当な結果に対する是正手続きという調査対象者の権利保護のための手続きとして、意見陳述・資料提出の機会を保障すべきことを運用基準に記載すべきである。
   ? 「(4) 苦情処理結果の通知」について
【意見】苦情処理結果の通知においては,苦情申し出において指摘された主張を裏づける事実の有無,当該事実についての評価について具体的根拠を記載すべきことを政令及び運用基準に記載すべきである。
【理由】アでは,「苦情処理担当者は,(3)ウに掲げる行政機関の長の承認を得た後,苦情申出者に対し,別添11の『苦情処理結果通知書』により,苦情についての処理の結果を通知する」としている。
  そして,別添11を見ても,どのような内容を記載するのか明らかではない。
  この点,苦情申し出において指摘された主張を裏づける事実の有無,当該事実についての評価について具体的根拠を記載すべきことを政令及び運用基準に記載すべきである。そうしないと,不当な結果に対する是正手続きとしての機能が果たされない。
5 運用基準案「? 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」に対する意見
 (1) 運用基準1ないし3について
【意見】第三者機関については、法律で直接規定し、その権限を明確かつ十全なものとすべきである。
  その内容として、独立行政委員会において、不当な秘密指定の解除を実施できる権限を付与し、そのための調査手続きも、協力しない行政機関または担当者に対する行政罰を定めるなどして、強力な調査権限を付与すべきである。
【理由】内閣官房は特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適性を確保するための事務を行い,上記事務の構成かつ能率的な遂行を図るため内閣の下に内閣保全監視委員会(仮称)を置くものとしている。
  しかし,これはあくまで閣議決定で設置される内閣の附属機関に過ぎないことから,独立性を保った厳格な監視が行われることは期待できない。
  特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理が特定秘密保護法及び施行令の規定並びに運用基準に従っているか検証,監察するために内閣府の下に政令によって内閣府独立公文書管理監(仮称)を置くものとしている。そして,内閣府には情報保全監察室(仮称)を設置し,その室員の中から内閣府独立公文書管理監(仮称)を指定するとしている。
 そして,内閣府独立公文書管理監(仮称)は,行政機関の長に対し特定秘密である情報を含む資料の提出又は説明を求め,さらには実地調査を行い,検証又は監察の結果,必要があれば特定秘密の指定の解除や特定行政文書ファイル等の適正な管理その他の是正を求めることができるとしている。
しかし、その権限には強制力がないため、是正を求めた結果が受けいられるか否かは全く保障されない。秘密の解除に関する権限が付与されるべきである。
 また,その選任母体となる情報保全監察室(仮称)構成メンバーの選任基準が明確ではなく,防衛省,外務省,警察庁等の審議官レベルの人員で構成するともいわれている。特定秘密を取扱う行政機関の幹部を充てるということであれば,内閣保全監視委員会と同様に独立性のない機関とならざるを得ない。構成メンバーに関しては,その選任基準を明確化するとともに,学者,弁護士その他外部の有識者を情報保全監察室(仮称)に入れる他,行政機関から選ばれるメンバーについてもノーリターンルールを導入して,独立性を可能な限り確保すべきである。
 また,行政機関の長に対し特定秘密である情報を含む資料の提出又は説明を求め,さらには実地調査を行うことができるとしても,各行政機関の長はこれら求めを応じるべき義務が明記されていない。行政機関が資料の提出又は説明を拒む場合には,我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないことを疎明しなければならないとしているが,要求する疎明の程度次第では何らの歯止めにもならないし,さらには疎明なくして拒否した場合のペナルティもない。
 知る権利と安全保障に関する国際基準をさだめたツワネ原則により要求される監視のための第三者機関には全ての情報に対するアクセス権を認めるべきとしている。内閣府独立公文書管理監(仮称)に第三者機関としての機能を担わせるのであれば,行政機関の長に資料の提出又は説明の求めに対する拒否権を認めるべきではない。
(2) 「4 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の適正に関する通報」について
【意見】内部通報を促進する規定や、内部通報者の保護手続きが明記されるべきである。
  また、情報監視審査会への通報を定めるとともに、独立公文書管理監や情報監視審査会への直接通報をしやすくすべきである。
【理由】特定秘密取扱業務者は,特定秘密の指定及びその解除又は特定行政文書ファイルなどの管理が特定秘密保護法等に従っておこわなれていないと思料する場合に,内閣府独立公文書管理監(仮称)又は行政機関の長にその旨の通報を行い,調査を行った結果必要となれば是正を求めることができるとし,通報者については不利益取扱いをしないよう保護するとしている。
しかし,通報制度の実効性については疑問が大きい。
まず,通報窓口として内閣府独立公文書管理監(仮称)と行政機関の長としているが,一次的には行政機関の長に通報することを求めており,内閣府独立公文書管理監(仮称)への直接通報は例外とされている。自らが所属する行政機関の長に対しての内部通報は心情的に躊躇してしまいかねないことや,適正を欠くと思われる特定秘密の指定及びその解除又は特定行政文書ファイル等の管理を行っている当該行政機関の長に通報しても,通報後に適切に処理されるか疑わしい部分もある。そのため,通報窓口として内閣府独立公文書管理監(仮称)を用意した以上は,通報者の任意選択でいずれにも通報が可能とすべきである。例外基準を廃止するか,残すとしても極めて緩やかに運用すべきである。
また,先の国会法改正により情報監視審査会が衆参両議員に設置されることとなったことから,通報先として上記審査会も加えるべきである。
加えて、匿名による通報を認め、通報を促進すべきである。
さらに,通報対象となる特定秘密の指定及び解除又は特定行政文書ファイル等の管理の違法性については,特定秘密保護法に限定することなく,憲法,条約,ツワネ原則をはじめとした国際準則等に適合するかにより判断すべきである。
(3) 「5 特定秘密保護法第18条第2項に規定する者及び国会への報告」について
【意見】件数のみならず、件数、点数、顕名、情報の種類及び指定の理由(根拠条項)といった概要も合わせた報告をすべきである。また、指定の解除を行った事例の概要報告も行うべきである。
【理由】行政機関の長は,毎年1回特定秘密の指定及びその解除又は適性評価に関する所定の事項を,内閣保全監視委員会(仮称),内閣府独立公文書管理監(仮称)に報告するものとしている。また,国会に対しては内閣総理大臣が同様の報告をするものとしている。
  基本的に報告事項は件数報告であり,その内容が概要すら明らかにされるものではない。件数についても、行政事務ごとなのか、文書ごとなのか、数え方しだいでいくらでも操作可能であり,変動もしうるものである。このような報告では,監視の実効性をあげることは困難であると言うほかない。報告事項に関しては,単なる件数報告でなく概要も併せて行うべきである。
  また、指定の解除を行った事例の概要報告を定めることによって、不適切な秘密指定が今後なされないためのチェックの指針を明らかにし、国民に対する情報公開機能を果たしつつ、秘密指定の現場にフィードバックされ、過度な秘密指定の防止に資するようにするなど、報告事項の充実が図られるべきである。
                               以 上

「特定秘密の保護に関する法律施行令(案)」に対する意見

1 団体
2 福岡県弁護士会 会長三浦邦俊
3 福岡市中央区城内1−1
4 TEL 092−741−6416
5、6 複数項目に及ぶため、以下、適宜項目名を指摘しながら意見を述べる。

 2014年7月24日付けで,内閣官房特定秘密保護法施行準備室において、公表され,意見募集がなされている「特定秘密の保護に関する法律施行令(案)」(以下「施行令案」という。)が公表され、意見募集がなされている。
 2013年9月に実施された「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対するパブリックコメントは、公表からわずか14日間で締め切るなど、極めて短期間で実施され、国民に十分な理解を得る姿勢はみられなかった。今回は、周知期間も設定され、募集期間も30日間とされている。しかしながら、その対象となる事項は、遥かに膨大な量に及んでおり、現実に主権者である国民がその全てをつぶさに検討することは極めて困難である。従って、このように主権者国民が十分にその内容を理解した上で、賛成または反対の意思を決定することができないようなスケジュールで行われるパブリックコメント手続き自体が民主主義的なルールに則っておらず、遺憾である。
 翻って、当会は、2013年10月11日付の「特定秘密保護法案に関する会長声明」で、同法案は国民主権原理に反し重大な憲法上の権利を侵害する立法であり、断固として反対し、政府に対しては本法案の国会上程を速やかに断念することを強く求めた。ところが、同年12月6日に、同法は衆参両議院で強行採決という形で成立した。当会は、同月12日付「特定秘密保護法成立に抗議し同法の廃止を求める会長声明」で、同法が存続する限り、その廃止を求め、その実現に向けての活動を継続していくと共に、その過程においても国民生活全般の萎縮をもたらさないよう同法の濫用を厳しく監視していく旨を表明した。
 以下の意見は、この観点から行うものである。

第1 法律自体の廃止の必要性
 1 はじめに
 秘密保護法制には、本来、主権者が主権者として国政に関する判断を的確になし得る前提として当然に保障されるべき国民の知る権利(憲法21条)を制限するため、単なる政令や行政内部の運用基準ではなく法律で規律されるべき事項を多く含んでいる。
 重大な問題を含む法律を放置したまま、政令や運用基準案を策定したとしてもそれによって問題のある法律の運用が合理化されるものではない。従って、当会が従来から主張しているとおり、特定秘密保護法は廃止されるべきである。
 少なくとも、以下の問題点を解消し、かつ必要性の有無をも含めた主権者国民による徹底的な議論に基づく民主的手続きを欠いたまま、特定秘密保護法は施行されるべきではない。
 2 欠落している条項
(1) ツワネ原則の遵守
 憲法21条で保障されている国民の知る権利を保障し、合憲性を確保するためには、国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)で示されている下記の事項が必要であるが、施行令にも盛り込まれていない。
?国民の情報アクセス権を制限する正当性の証明が政府の責務であることの明示(原則1,4)
?政府が秘密にしてはならない情報の明示(原則10)
法律の明文による、違法秘密、擬似秘密、公益通報の通報対象事実の明確な指定禁止規定が不可欠である。
?秘密指定が許される最長期間の明示(原則16)
法4条4項各号の60年超の例外事由は削除すべきである。
?国民が秘密解除を請求するための明確な手続規定(原則17)
?全ての情報にアクセスできる独立した監視機関の設置(原則6,31〜33)
 独立行政委員会を設置し、不当な秘密指定の解除を実施できる権限を付与し、協力しない行政機関または担当者に対する行政罰を定めるなどして、強力な調査権限を付与すべきである。
 法10条1項1号イは、安全保障上の問題があると行政機関の長が判断すれば、行政側は特定秘密の国会への提供を拒めるように規定している。国会内に設置されることとなっている情報監視審査会も、全ての情報にアクセスすることはできないのであり、不十分である。
?内部告発者の保護規定(原則37〜46)
 主権者の判断を誤らせるおそれのある違法秘密等、主権者に公開されるべき公益の方が、政府が秘密にしておく必要性のある公益よりも上回ると考えられる秘密について、その指定の解除を求めることが、主権者の知る権利(憲法21条)のために正当であること、従って、内部告発は警戒されるべきものではなく、積極的に推奨されるべきものであることを明文として規定するとともに、内部告発を行ったこと自体によっていかなる不利益も受けない徹底した保障がなされるべきである。
?一般国民は秘密情報を求めたり入手したりしたという事実を理由にした刑事訴追をされない(原則47)
 主権者の政策決定に不可欠な重要な事実が隠され、誤った説明に基づく誤解による政策が進められた経験があることは洋の東西を問わず、歴史を学んだことのあるものであれば誰もが知っていることである。
 このような事態が正義に反するものであるという価値観を共有する民主主義国家においては、国の秘密に対して公開を迫る行為自体が知る権利として憲法上保障されるものと言うべく、記者による取材や市民による調査を処罰したり、その威嚇のもとに萎縮させるようなことはあってはならない。
  (2) その他の事項
? 公文書が不当に廃棄されないための手続き
 法4条6項に、秘密の指定機関が満了したか解除された情報は、全て国立公文書館等に移管することが明記されていないことは問題である。
 ? 刑事訴訟における外形立証の禁止
 法10条1項1号ロでは、安全保障上の問題があると行政機関の長が判断すれば、行政側は特定秘密を裁判所に提供することが拒める。国会でも、外形立証を行うことができるとの答弁がなされている。しかしながら、被告人に対象となる特定秘密がわからない場合や、対象となる特定秘密は分かるけれども、それを主権者に知らせる公益の方が大きいという正当業務行為による無罪を主張する場合には、何が秘密だったかすら明らかにされないまま訴訟が終了するおそれがある。このような場合には被告人の防御権は守られることがなく、公平な裁判所による公開の裁判を受ける権利(憲法37条)が侵害されるのであるから、このようなことがないよう、法の明文が是正されなければならない。
 ? 適性評価におけるプライバシー侵害の防止
法12条3項について、適性評価実施の際に、「公務所または公私の団体」、評価対象者の「知人その他の関係者」へ照会,質問しあるいは資料の提出を求める場合には、当該公務所または公私の団体、当該知人その他の関係者ごとに事前に同意を得るとされていないのは問題である。
法12条について、適性評価実施の際に、評価対象者の家族及び同居人に対する調査の際には、その都度当該家族及び同居人の同意を得るとされていないのは問題である。
 法16条について、適性評価の結果の目的外利用の禁止規定に違反した職員等に対しては、懲戒処分を科すことができるようにされていないことは、その実効性が確保され得ないから問題である。

第2 施行令に対する意見の趣旨及びその理由
1 施行令案第3条第1号(法第3条第1項ただし書の政令で定める行政機関の長)について
【意見】金融庁及び法務省を第3条第1号に加えるべきである。
【理由】金融庁及び法務省が2012年12月31日時点で保有していた特別管理秘密文書等の件数は,金融庁が49件,法務省が0件であった(平成25年3月12日衆議院議員赤嶺政賢君提出 特別管理秘密及び秘密取扱者適格性確認制度に関する質問に対する答弁書)。したがって,法務省については秘密指定機関に加える必要性が無いため,第3条第1号に加えるべきである。
同様に,金融庁もごく少数の特別管理秘密しか扱っていないことから,秘密指定機関に加える必要性は乏しく,また同庁が国家の安全保障に関する情報を取り扱っているとも考えがたい。
 2 施行令案第2章第1節(特定秘密の指定)について
【意見】違法秘密や疑似秘密を特定秘密指定することを禁止する規定を設けるべきである。
【理由】運用基準案「?特定秘密の指定等」「1指定の要件」「(4)特に遵守すべき事項」では,「公益通報の通報対象事実その他の行政機関による法令違反の隠ぺいを目的として,指定してはならないこと」が示されている。しかし,この内容は,本来法律又は法律施行令に明記すべきものである。また,運用基準案で示されている通報制度(運用基準案?4関連)を実効的にするためにも,違法秘密や疑似秘密の指定禁止を法律又は法律施行令で定めておくことが有益である。

                          以 上