ストリートビュー訴訟高裁判決

 2012年7月13日13:10から、福岡高等裁判所(第2民事部)は、福岡市内に住む20代の女性が、住んでいるマンションのベランダに干していた洗濯物を同意なく撮影され、ストリートビューサービスで世界中に公表された行為を不法行為であるとして損害賠償を求めた裁判で、女性の訴えを棄却する1審判決を支持し、控訴を棄却する判決を出しました。
 判決は、一般論として、顔など(「容ぼう・姿態」として、京都府学連事件最高裁昭和44年12月24日判決で確立)以外のプライバシー情報であっても、撮影行為それ自体でプライバシー侵害の不法行為となり得ることを認めました。宴のあと事件のプライバシー権の定義「私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利」について、公開以前の収集段階で検討すべきことを正面から認めた裁判例は、従来あまりないため、重要な判断ではないかと思われます。
「写真ないし画像の撮影行為については、被撮影者の承諾なく容ぼう・姿態が撮影される場合には肖像権侵害として類型的にとらえられるが、さらに、容ぼう・姿態以外の私的事項についても、その撮影行為により私生活上の平穏の利益が侵され、違法と評価されるものであれば、プライバシー侵害として不法行為を構成し、法的な救済の対象とされると解される。」
 しかし、女性が、地域全体の撮影・公表行為を一体のものとして評価すべきだと訴えた点は、特定にかけるとして、女性に関連する撮影・公表行為を取り出して検討し、女性のマンションの部屋が、奥の方にあり、ベランダに干してあるものが洗濯物であるかどうかは判別できないなどとして、「一般人を基準とした場合には、この画像を撮影されたことにより私生活の平穏が侵害されたとは認められない」としました。
 公表行為についても、同様に、「本件画像においてはベランダに掛けられたものが何であるのか判然としないのであり、本件画像に不当に注意を向けさせるような方法で公表されたものではなく、公表された本件画像からは、控訴人のプライバシーとしての権利または法的に保護すべき利益の侵害があったとは認められない。」として不法行為の成立を否定しました。
 個人情報保護法違反については、「インターネット検索で住所検索とストビートビューの画像が関連づけられるとしても、それだけでは控訴人個人を識別することはできないので、個人情報に該当しないと解される。」としました。
 さらに、「事業者が、プライバシー侵害の可能性を含む新規事業の展開に際して、プライバシー侵害が生じないよう、一定の方策を行うなどの配慮義務があると主張し、これが違反した場合には不法行為が成立する」という主張も退けました。
 撮影行為自体における不法行為の成立が、一般論として顔情報以外に広げられているのは前進だと考えられますが、本件では、女性が、インターネットカフェでプリントアウトした、もとの画像からは著しく劣化した画像をもとに、もとの画像や、ズームアップした画像も見ることなく(グーグル社が求釈明に応じず提出しないため)、洗濯物かどうかよく分からないなどとして、プライバシー侵害の有無をきちんと調査しないまま問題がないとしたのは、1審判決と異ならず、極めて不十分です。