住基ネット訴訟最高裁弁論期日指定

1 最高裁第一小法廷は、2006年11月30日に出された、住基ネット差し止め大阪訴訟の高裁判決について、上告事件の弁論期日を、2008年2月7日13:30に指定しました。
これは、住基ネット違憲であると判断し、原告の住民票コードの削除を求めた大阪高裁判決を覆すことを意味しており、極めて不当です。
最高裁が期日を指定するということは、もとになっている判決を変更することを意味しています。これは、最高裁の運用において、事実上定着しているもので、もとになっている判決を変更しないまま上告を棄却する場合には、特殊な例外を除いて、弁論を開かないままで判決が出されます。
これに対し、もとになっている判決を変更する場合には、必ず弁論が開かれます。つまり、弁論が開かれるということは、原判決を破棄し、それとは異なる判断を下す、という意味になります。
 問題なのは、最高裁第一小法廷には、大阪高裁判決だけではなく、一審の違憲判決を逆転させた名古屋高裁金沢支部判決や、一審の合憲判決を維持した名古屋高裁判決も同時に係属しているにもかかわらず、違憲判決だけを選び出して、弁論期日を指定していることです。
 特に、大阪高裁判決と、名古屋高裁金沢支部判決は、ほとんど同時期に出されており、争点は共通なので、最高裁第一小法廷は、「住基ネット訴訟の争点は理解した。違憲判決は変更して、二つの合憲判決は維持する。」という意思を表明したことになります。
2 大阪高裁判決は、たいへん画期的な判決でした。
 データマッチングの危険性について、以下のように述べました。
「法による制限が不十分である上、第三者機関が存在しないので、行政機関がデータマッチングや名寄せを含む目的外利用をしないための歯止めは不十分である。防衛庁適齢者情報収集問題では、自衛官募集に関する適齢者情報を提供していた市町村が多数存在し、このことは、住基ネットの本人確認情報を利用して当該本人に対する個人情報が際限なく集積・結合され、それが利用されていく危険性が具体的に存在することを窺わせる。
 住基ネット制度には個人情報保護対策の点で無視できない欠陥があると言わざるを得ず、行政機関において、住民個々人の個人情報が住民票コードを付されて集積され、それがデータマッチングや名寄せ等により、住民個々人の多くのプライバシー情報が、本人の予期しないときに予期しない範囲で行政機関に保有され、利用される危険が相当あるものと認められる。」
3 大阪高裁判決後も、愛南町事件が発生し、さらに行政機関によるデータマッチングが進展しています。
 全国弁護団は、これらの判決後の事情を十分考慮し、慎重に検討すること、憲法違反が焦点となっている事件であるから、大法廷に回付することなどを求めてきました。しかし、最高裁第一小法廷は、これらの事情を考慮に入れることなく、一年足らずという異例のスピードで、違憲判決だけを変更することを通告してきたのです。
福岡訴訟では、この弁論期日と同じ日に、自治体職員の証人尋問が行われます。福岡高裁は、愛南町事件を踏まえ、自治体のセキュリティーを検討する姿勢を示しています。
 全国で戦っている原告や裁判所を無視し、国民の憲法上の人権を左右する大事な判断について、十分な検討をする姿勢すら見せずに、行政に追随する姿勢を示した最高裁第一小法廷の判断は、不当と言わざるを得ません。