住基ネット差し止め訴訟弁論

 11:00から、住基ネット差し止め福岡訴訟で口頭弁論期日が開かれました。
 そして、2008年2月7日13:10から、福岡県下の4つの自治体の住基ネット担当職員の尋問が実施されることとなりました。これは、調査嘱託の結果、セキュリティに危険があると主張した私たちの証人尋問の申請について、高等裁判所がその必要性を認めたものです。
 全国の訴訟の中では、尋問等の証拠調べがなされている例は少なく、画期的なものです。今後、準備に邁進したいと思います。
 なお、当日私が行った意見陳述は以下の通りです。
1 改正住民基本台帳法自体が認めているデータマッチング
私は、住基ネット差し止め訴訟の札幌訴訟で証言をされた、民主党河村たかし議員の陳述書及び証言に基づき、意見を述べます。
 今年の7月19日に、札幌地方裁判所で、河村たかし議員の証言が行われました。そこでは、住基ネットが、すでに国民総背番号として実際に機能を始めていることが明らかにされています。
 1999年に国会を通過した改正住民基本台帳法は、別表に記載された国の行政事務にだけ提供されるものとして、議論が行われてきました。
 しかし、それ以外に2つの抜け穴があることが示されています。
 ひとつは、都道府県の条例により、住民票コードを利用する事務を自由に増やせることです。このような抜け道が利用されれば、都道府県の警察に対して住民票コードを提供することさえ、国会の承認なしになされる危険があります。
また、市町村自体が自ら利用する事務には、どれにでも住民票コードが結合できます。
 住基ネットの稼働前には、同じ市役所の中でも、税金課や福祉課、住民課などは、一応個人情報の取扱いが別々に行われており、容易にデータマッチングをすることはできませんでした。そのような個人情報の取扱いは、行政処理からすれば不便かもしれませんが、分散していることによって、個人の全体像が明らかにされることが防止され、プライバシー権保護の見地からは、安全性は高いものでした。また、このような運用は、市町村の職員によって、十分に理解され、行政の利便性よりも、市民のプライバシー保護の方が大切であると考えられてきました。
 ところが、改正住民基本台帳法は、1条により、住民票コードを、市町村長が自由に使用できるようにしていました。そのため、市町村内で使用する分には、住民票コードを、小学校の学籍番号に利用したり、図書館の利用者カードのID番号に利用したり、市立病院の診療カードの番号としてカルテに記載したり、特別養護老人ホームの番号として利用したり、さらに市民税の徴収システムに利用することもできます。
 住基ネットの稼働を機に、1市町村1データベースに近い、巨大データベースが作成されてしまってところもあるようです。
 必要もなしに個人情報をデータマッチングすること自体、プライバシー権侵害であるわけですが、これに対する歯止めは、法律には全く存在しません。
2 最適化計画
 また、政府は、最適化計画という名の下に、1省庁1データベース化を進めています。
 2004年に方針が示され、2006年までに各省庁で具体化された最適化計画では、各省庁において、それぞれ行政事務ごとに分けられているデータベースについて、1省庁1データベースにすることが進められています。さらに、それぞれの省庁でのデータの処理方法を共通化し、1省庁1データベースとなった情報を、全部の省庁において、霞ヶ関WANと、LGWANと呼ばれるネットワークのもとに、いつでも自由自在に参照できる体制が構築されようとしています。
 具体例を指摘すると、法務省は、2005年4月6日、最適化計画を決定し、本省と、法務局、検察庁、刑務所、拘置所、少年院、保護観察所、地方入国管理局などの所掌する各庁のデータベースをひとつにする法務省WANと、これらを専用回線で接続したネットワークを構築することを決めています。
 これにより、ある1人の外国人について、すべての履歴を集積、管理することが可能となっています。
 しかも、これは、同じ法務省内に存在する公安調査庁がアクセスすることについて、特段の制限は設けられていません。
 すると、現在の行政機関個人情報保護法のもとでは、公安調査庁が、相当程度の必要性があると自ら判断し、自由にアクセスする危険性が高いものです。
この法務省WANが、霞ヶ関WAN、LGWANによって接続されれば、外部である警察庁なども、みずからが相当程度の必要性があると判断し、自由にアクセスする危険性が高いものです。
3 国民総背番号制
このような、1市町村1データベース、1省庁1データベースという個人情報の集中管理と、これらのデータベースの結合によるネットワークの形成は、住民票コードなくしてはあり得ません。
 国家が、行政の効率化、最適処理の目的で、国民の背番号を強制的に付するという仕組みは、かつてほとんどなされたことがありません。
 少なくとも、自由主義国においては、このような国家による国民管理がなされないための法整備が進んでいるにもかかわらず、この住基ネットは、全く別の方向性を示しています。
 裁判所におかれましては、適切な証拠調べの上、私たち1人1人が国家によって勝手に管理、監視されない自由な社会を維持する必要性をご理解頂き、原判決を破棄されるよう求めます。