朝日新聞の記事

 国民投票法案の衆議院通過を伝える新聞報道では、朝日新聞の報道がもっとも精力的だったと思います。
 名古屋大学大学院の浦部法穂教授の「なぜ改憲 問う時 ムード排し具体像を」という意見は秀逸です。これは、憲法に対する意見の連載記事ですが、特に、日本国憲法の条文の中身を具体的に指摘しないまま、変えようと言う議論が先行する今の風潮が、ワイマール憲法への攻撃の時に似ているという指摘に続いて、「日本でも最近、権力に対する警戒心が、民衆の間で薄くなった。象徴的なのが町のあちこちにある防犯カメラだ。住民の要望でどんどん設置されている。権力は警戒対象でなく、正義の味方だと思われるようになってきた。」という部分は、まさにその通りで、そのようなことを伝えることこそが、法律の研究者や弁護士の責務だと思うのです。
 最近は、権力批判を行わない法学者が増殖しています。社会的役割を放棄したといわれても仕方のない学者と言うしかありません。権力批判は、よりよい統治方法と、それによるよりよい国民の利益を考えるためには避けて通れないからです(もちろん、今の政治が最高で、全く改良の余地がないなら別ですが)。
 無批判に警察の意見に賛成し、減っている犯罪を増えていると言ってみたり、減っていることが隠しきれなくなると、「不安感が増えている」といって、次々に監視カメラをつける後押しをしたり・・・
 警察は、予算も増え、国民監視網が着々と進んで笑いが止まらないでしょう。
 また、東京大学佐藤俊樹准教授の「言論の行方 匿名『世論』が動かす社会」という論考も掲載されています。
 匿名の書き手による、無責任な批判に耳を傾けるべきではないのではないかという指摘の後、「小泉政権以降、日本は『世論調査政治』になりつつある。・・・従来、政策は客観的な根拠から、長い目で進めるべきだとされてきた。一方、賛成・反対の理由を掘り下げられない世論調査はどうしてもその時々の好き嫌いになる。その2つが組み合わさっているのが今の政治だが・・・」という指摘があります。
 私が福岡県に提出したパブリック・コメントで批判した防犯カメラの防犯効果も、客観的な指摘はなく、アンケート調査だけでした。そのことへの批判については、担当者は理解できない様子でした。
 科学的根拠、客観的資料に基づかず、人々の気分・感情で国を動かす今の社会の進め方は、大変危険です。科学的、客観的な判断と、その前提となる情報の適切な供給を行うマスメディアの報道がなければ、今ある民主主義はどこかへ消えてしまってもおかしくないでしょう。