忘れられる権利訴訟の和解

 2019年1月16日の朝日新聞朝刊(福岡版)に、担当した訴訟の和解事例が掲載されていました(代理人のコメントも掲載されています)。
 2000年代前半、10代の頃にインターネット上で、ある市民団体が掲げていた意見(日本に住む外国人の支援に関するもの)に賛同する意思を表明した県内の男性が、全く無関係のウェブページに、その意見の表題と賛同者のリストが転載されていることに、成人した後に気づきました。市民団体も賛同者リストの掲載をやめており、本人も当時とは考えが変わっていたことから、プロバイダー(ウェブページの運営会社)に自分の名前を削除してもらうように申請しました。ところが本人確認の問題で拒絶され、訴訟となりました。
 1審の福岡地方裁判所は、賛同人として名を連ねる場合、「外部に公表されることは予定されたもの」であり、プライバシー権や人格権が侵害されたとは言えないとして棄却しました。
 控訴審代理人となり、プライバシー権のほか、消極的表現の自由、正確でなくなった情報の抹消請求権などを請求原因に加え、EUではデータ保護規則17条の削除権(忘れられる権利)が認められていることなどを指摘して削除を求めました。
 高裁では、ウェブページから本人の名前を削除する内容での和解が2018年に成立しました。
 我が国では、このような事例では、「当該事実を公表されない法的利益」と当該事実を提供する理由を比較衡量し、前者が「優越することが明らかな場合」に限定され(最高裁平成29年1月31日決定)、削除に対して消極的です。しかし、本件のように、未成年時の意見表明であったり、転載の形式が名簿のようになっていて意見内容自体が含まれていない場合などには、もっと積極的な削除が認められるべきだと思います。EUでは、プライバシー権とインターネットに情報を残す利益は同価値と扱い、もっと積極的に削除を認めています。
自ら同意して外部に発信した情報の削除を求め、和解に至った事案として我が国では意義があると思います。