「警察捜査の正体」原田宏二さん

 元北海道警察釧路方面本部長の原田宏二さんから頂いた、「警察捜査の正体」(講談社現代新書、2016.1.20発行)を読みました。
 2016年2月6日の、愛知県弁護士会主催のシンポジウム「安心・安全?監視社会〜今も、あなたは視られている!〜」でご一緒することもあり、ちょうどいいタイミングでした。
警察官の地道な捜査能力が衰えていること(p155)、それを補うかのように、監視カメラなど、パソコンでデータ処理を行うような捜査手法がだんだん主流になりつつあること、監視カメラ、GPS、DNA試料などを用いた捜査手法が、法的根拠の不明確なままどんどん拡大して行っていることに対して疑問を示されています。
最近、福岡でも残念ながら開始されていますが、法律に根拠のない、被疑者段階での監視カメラの顔画像を公開しての捜査について、すでに北海道で実施済みであったこと、被疑事件が起訴されていないことなど、初めて知りました(2013年7月、北海道で、ひき逃げ事件の犯人として、コンビニで買い物中の女性の映像がマスコミに提供されて新聞史上に容疑者として掲載されたが、ひき逃げについては処分保留で釈放。p48)。
 監視カメラ画像による誤認逮捕事例も以下のようにたくさん紹介されています(p62、63)。
 2013.2.24 警視庁少年事件課、強盗事件、中学3年生
 2013.4.24 大阪府警北堺警察署、ガソリン窃盗、40代会社員
 2013.6.13 岡山県警津山警察署、万引き、70代男性
 2014.2.28 山口県警長門警察署、窃盗、40代女性
 犯人の特定が便利になると言うことは、間違った犯人の決めつけも増えることであり、監視カメラの光だけでなく影の部分もきちんと見ていかなければならないと思います。
 捜査関係事項照会書が、安易に利用され、民間事業者から無防備に情報が収集されている状況も指摘されています(p96)。
 強制捜査についても、2011年から6回にわたる捜索差し押さえにより車2台を含む1292点を押収され、逮捕・拘留されたものの2014年に嫌疑不十分で不起訴とされた小樽の殺人事件捜査も紹介され、ずさんな令状請求であると指摘されています(p102)。
理論面でも、警察実務家が、「行政警察司法警察区分不要説」や「事前捜査積極説」を唱え始めているという指摘があります(p200)。
 これは、言葉だけではわかりにくいですが、「将来犯罪をしそうな犯罪予備軍」と、警察からにらまれたら、過去に犯罪を起こしていなくても、「あらかじめ、将来起こりそうな犯罪の事前捜査をしていいじゃないか、」という議論です。要するに、ガサ入れ(捜索差し押さえ)もしていいんじゃないかという警察権限の拡大が議論されているそうです。

前書きに書かれている、「テロの防止、凶悪犯人逮捕という大義名分のもと、『警察国家』への道が強化されつつあるように見える。元警察官として、危険な兆候を感じている。このままでは市民に対する監視がいっそう強化され、ある日突然、普通の市民である読者がえん罪事件に巻き込まれる事態になる可能性が増しているのだ。」というご指摘を、私たちが重く受け止める必要があるのではないでしょうか。
 ますます進んでいく監視社会に対して、きちんと勉強して情報をアップデートするために、この本はとてもためになりました。原田さんへこの場をお借りしてお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。