ドイツ調査旅行その5

 カールスルーエにある連邦憲法裁判所を訪れ、テロ対策法制に基づく、犯罪の予防に基づく広範な捜査手法について3つの有名な違憲判決を書いたホフマン=リーム裁判官(連邦憲法裁判所副長官)と、その調査官であるマチャス=ホング氏からお話を聞きました。
 ドイツの連邦憲法裁判所は、立法・行政・司法という3権の、そのまた上にある、国の最高機関であり、その権威は高く、その判断は3権により厳格に尊重されています。
 日本の最高裁判所より権威の高い機関といえます(皮肉ではなく、憲法上の位置づけもそうですし、水俣病判決など、日本では、司法判断を行政機関が無視したままになっていることが、何ら問題とされていない、法の支配の空洞化した国だと思います)。
 このように権威の高い連邦憲法裁判所ですが、私たちの調査には快く応じてもらえました。
 当初、連邦憲法裁判所裁判官で、フランクフルト大学教授のハセマー教授に、私が聴き取り調査依頼の連絡を取ったのですが、「監視社会の問題なら、ホフマン=リーム裁判官が適任である。すでに担当調査官にも話をしているから、訪問時間を調整しなさい。」という趣旨の返信を、依頼文を送ったすぐ後に頂きました。
 その後、調査官の方と2,3度連絡したところ、「私が対応するが、ホフマン=リーム裁判官も、場合によっては顔を出せるかもしれない。」とお聞きしていました。
 実際に訪問したところ、主には調査官から話を伺いましたが、その途中で、ホフマン=リーム裁判官が登場しました。
 このような対応は、日本の最高裁判所では、およそ想定もできないことです。国民に開かれていて、なおかつ、憲法の番人として、国会議員におもねることなく、国民の自由を守るために次々と違憲判決を書き続け、国民に強く信頼されている連邦憲法裁判所は、本当にすごいところです。
 以下、ホフマン=リーム副長官の発言をご紹介します。

 私は、連邦憲法裁判所において、集会の自由など表現の自由に関する事件を担当している。
 ちょうど、G8の関係で、明日行われる2万人におよぶデモについて、許されるかどうか、またその条件などについて、今、決断を下そうとしている。デモ参加者の安全と、デモを行う自由の調整について検討している。
 大盗聴事件、通信傍受事件、網目スクリーン捜査事件という3つの事件の違憲判決は、いずれも私が担当した案件である。いずれもドイツで大きな議論になった。
 連邦憲法裁判所は、3つの判決について、他の国に比べても、自由の保護という面で、大胆な結果を出したと思っている。
 2001年9月11日以降のテロ対策を求める政治的な圧力が強い中で、法治国家という立場を保つことは大変難しいことだ。
 憲法は長い期間にわたって使われるものであり、変更を安易にするものではない。解釈についても、一時的な問題で変更を加えることは困難である。
 3つの違憲判決は、政府には批判されたが、連邦憲法裁判所内では意見はほぼ一致していた。
 政治的、法的に重要な意味を持つ判決であった。
 連邦政府及び各州政府は、現在、法律の中で抜け穴を見つけ出そうとしている。
今後の問題として、国家がコンピューターシステムにオンライン検索の方法で不審データを集めることが許されるかという問題がある。
 通信に関する民間企業が保有する通信内容や、ソフトウェアを用いて知ることのできる商品の購入歴などのデータを国家に受け渡すような法律ができる可能性がある。このような法律ができることは、市民的自由に対する脅威となる。
 裁判所としては、現在の一時的な政治的な状況に応じて憲法解釈を変えるのではなく、もともとの憲法の目的から考えていくようにしている。
 特に、ドイツの歴史を考慮すると、ナチス時代もあったので、これは重要な問題である。
 安全のためのテロ対策と自由の調和を考えるに当たって、忘れてはならないことがある。
 自由を尊重する社会は、全くの安全な社会ではない、ということを認めなければならない。
 完全な安全を求める人は、自由を維持することはできない。
 私も5年間弁護士だった。皆さんも、日本で市民の自由を守る仕事をして下さい。