ドイツ調査旅行 その6

 Humanistishe UnionというNGOを訪問しました。人道主義者連盟と訳される団体です。
 法律に関する研究者や弁護士などが集まり、政府の提案する法案等に対し、意見書を出して、世論喚起をしています。
 対応して頂いたのは、ローゼマリー理事長(フンボルト大学公法教授、もとブランデンブルグ憲法裁判官、もと連邦憲法裁判所調査官)、ローガン副理事長(弁護士)、リューダース事務局長の3名でした。
 ドイツのテロ対策法制は、日本より進んでしまっているところもありつつ、原則としての情報自己決定権等が確立していることから、日本よりも、歯止めは強く残っているという面もあります。国会では十分な議論もなく悪い法律が通っていき、連邦憲法裁判所が、それに違憲判決を書いて歯止めをかけるという構図が続いているようでした。
 以下、聴き取りの概要です。私がいちばん驚いたのは、ドイツでは、捜査機関の収集している全証拠に弁護士がアクセスできるのが当たり前であって、法律の改悪によって、それに制限が加わるということの悩みが出されていましたが、日本では、捜査機関の収集している証拠にはアクセスできないのが当たり前となっていて、100年は遅れているという点でした。全面的証拠開示制度や、取り調べの全過程の可視化のないわが国は、刑事手続き後進国であると断言できます。
 2001年の末に、テロ対策立法が行われた当時は、2001年の9.11事件後、ドイツでも、テロが起こるのではないかという社会不安が強く起こっていた。しかし、その中身は、テロ活動に対する対応というより、世論のショック状態を利用して、これまで政府がやりたかった治安政策を法制化したという方が近い。抽象的な安全、安心感を持たせるための政策である。
テロ対策法は、2006年末に時限法から恒久法になった。その際、さらに中身が補足され、テロ対策データベース法が2007年1月1日から実施されている。
 恒久法化される際の、連邦議会における、時限法の有効性に対する評価はずさんだった。
 権限の拡大が効果的だったか、憲法に違反していないか、履行することが比例原則に則しているか、今あるデータをもとに評価しなければならないが、連邦内務省の単なる事例集にすぎない報告書だけで、第三者評価のないまま有効と結論づけられた。
 テロ対策データベース法により、警察と秘密情報機関との分離があいまいになった。
 連邦刑事局の監督下において、警察が、秘密情報機関のデータベースにアクセスできる。ドイツでは、ひとつのデータベースにいろいろな機関がアクセスできるということは、データの第三者提供とは異なる問題としてとらえられている。
警察は、憲法刑事訴訟法により、拷問で得た情報は利用できないが、秘密情報機関では、たとえば職員がグアンタナモに行って情報を収集している。そうすると、憲法刑事訴訟法では許容されていないはずの、法治国家の原則に沿っていない方法で収集した証拠で刑事訴追が可能になってしまう。
 刑事弁護をする際、今までなら情報収集過程を検討し、証拠排除や公訴棄却の主張ができた。しかし、秘密情報機関の情報に基づいて、テロ対策データベースからとってきたと言われると、そのデータの収集過程の追及は、それ以上できない。これは秘密とされていて回答する必要がない。ブラックボックスだから調査のしようがない。
 また、事業ごとのデータベース法もできたが、連邦情報局、憲法擁護庁、軍事諜報機関が使っているデータベースは制限が緩やかであり、どういう目的なら使用してよいという限定すらない。
 ベルリン州でもスクリーニング捜査が行われ、フンボルト大学に対しても、アラブ系外国人に関してデータを提供するよう要求した。大学は、違憲なので、容疑がなければ出してはならないという原則に基づき、いっさい拒否した。当局から、罰金を支払うよう通達がきたため、行政裁判所に提訴した。最終的には連邦憲法裁判所に行き、違憲と判断された。20万人のアラブ系学生の捜査が行われたが、スリーパー(潜伏するテロリスト)が見つかったわけではない。また、比例原則に従ったともいえない。
 私たちは、外国人というだけでテロリスト扱いされ、捜査の対象になることは非常に問題だと考えている。
連邦憲法裁判所は、独立した判断を起こっている。テロ対策法に対し、市民の自由を重視した判決を出しており、私たちの仲間だという意識を持っている。もっと立法過程で専門家の意見を考慮してほしいと思っている。