ドイツ調査旅行 その4

 9:30から、ドイツ連邦データコミッショナーを訪れました。
 ここは、ドイツ連邦の公的機関における個人情報の取り扱いを監督しています。
 ドイツ連邦データ保護法(2001年改正)は、6B条をもうけ、ビデオ監視に対する先に述べたような規制を定めています。
 なぜドイツがこのような法律を作ったかというと、監視カメラがそもそもいいものか悪いものかという議論が起こったときに、賛否は半々くらいだったけれども、「イギリスのような状況にすることが悪いことだけは確かだ。」という意見の一致を見たためです。ドイツでも、監視カメラに対する市民の問題意識が高いわけではありませんが、多数の店舗で監視ビデオが継続的に録画している状況では、人々が自然な行動をしなくなるのではないか、常に監視されているという意識のもとで制約された行動をせざるを得ないのではないか、また、個人データをつなぎ合わせてプロファイリングされるおそれがある、という点で問題があるという認識はあるそうです。
 データ保護監察官が連邦と各州に置かれるようになったのは、1983年の国勢調査違憲判決が出されたためです。
 国が行う国勢調査による個人情報の収集が、何のために利用されるのか、それ以外に利用されないという保障があるのかが分からない状況で個人情報を収集することは、自分の情報を誰にどの程度伝えるかを自分で決める権利(情報自己決定権)を侵害するという判決によって、国勢調査がいったん差し止められました。その時に、調査効率のために付けられようとした番号も、利用後直ちに消去する手だてがなければ違憲と判断されました。
 この制度は、1994年のEUデータ保護指令で採用され、EU加盟国では、すべて個人情報に関する第三者の監督機関を設置することが義務づけられました。このように、原理原則を大事にするドイツの法制度は、EUでも高く評価されています。
 聞き取り後、さらに電車でビースバーデンに移動し、ヘッセン州データコミッショナーを訪れました。
 ヘッセン州データ保護監察官ロネレンフィッチュ教授からヘッセン州における監視カメラ規制について以下の通りうかがいました。
 データ保護法に反する監視カメラの設置・運用に対しては、たとえばカメラの角度を変えるべきだとか、完全に撤去を求めるような改善勧告を出すが、勧告を無視されたことはない。監視カメラを取り外したケースは、監視カメラの事例の10%、30件程度である。
 データ保護監察官は、監視カメラだけではなく、不適切な個人情報の取り扱いがあると疑われる場合すべてを含んでおり、警察に対しても調査権限を持っている。スタッフには法律家もデータ処理の専門家もいる。
 ヘッセン州では、民間施設に対する監督は、州内務省が実施しているが、州内務省が監視カメラの設置を禁止したケースは100件以上有り、活発な活動が行われている。
 ハンブルグの地下鉄に設置されている監視カメラについてなされた世論調査では、監視カメラを常時モニターしていて、何かあれば警察が直ちに駆けつける体制があるというのでなければ、有効ではなく、ただ監視されているだけに過ぎないという意見が最も多かった。
ビースバーデンは、中規模の地方都市で、第二次大戦の戦災を免れた都市のため、歴史的な建物がたくさん残っており、きれいな町でした。
 ロネレンフィッチュ教授は、日本に行政法の研究でこれらたことがあるとのことでした。日本の法律には、ドイツの影響を受けたものも多く、特に行政法分野での研究交流は盛んなようです。
 聞き取り後、電車でフランクフルトに移動し、宿泊しました。
 リンゴ酒という名物のお酒を飲みましたが、それほど美味ではなかったので、ビールを頼もうとしたら、「そんなものはない」と店員からいわれました。リンゴ酒に誇りを持っており、あえてビールを置いていない店のようでした。でもなぜかワインはあったので、店員の不満げな顔をよそにかなりワインを飲みました。