マイナンバー運用延期を求める声明

 本日、福岡県弁護士会は、下記会長声明を日本年金機構厚生労働省総務省内閣府、衆参両議院議長等に発送しました。弁護士会の意見表明としては、本年7月13日に大阪弁護士会マイナンバー制度の中止等を求める会長声明を出されたものに続く、全国2例目です。

マイナンバー制度の運用延期を求める会長声明

行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」に基づき本年10月から12桁のマイナンバーが通知され,来年1月から税・社会保障・災害対策の分野でマイナンバーの利用が始まる予定である。 
しかし,本年5月28日,日本年金機構(以下「年金機構」という。)から,100万人以上もの個人情報が外部に流出したことが判明した。
 漏れた情報は,基礎年金番号,氏名,生年月日,住所であり,流出の原因については,公開アドレスに送られたメールのリンク先ファイルおよび,非公開アドレス宛に送られたウイルス付きのメールであることは判明しているが,全体像はまだ十分には解明されていない。
  マイナンバー制度の安全性に対して国民の多くが不安を抱く結果となったにもかかわらず,政府は,「内閣サイバーセキュリティセンター」の監視対象を独立行政法人等にも拡大すること,地方自治体の間のネットワークの監視体制を新たに整備すること,「特定個人情報保護委員会」の体制を強化すること,情報セキュリティーの専門部署を設けること,「サイバーセキュリティ人材育成総合強化方針」を策定することを対策として,来年1月から予定通りマイナンバーの運用を実施すると述べている。
  本年6月2日の参議院内閣委員会で田島泰彦参考人は,人的な要素だけでは情報の流出や不正アクセス等の問題が食い止められるわけではないこと,情報集中に起因する問題に対処するには情報の分散化や節度ある情報管理などをシステムの中で多様に組み合わせる工夫が必要であると指摘している。現時点において政府が述べる対策で十分に個人情報の流出が防止でき,国民が安心できるとは到底言い難い。
かつて最高裁は,住民基本台帳ネットワークシステムの合憲性が問われた裁判で,住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はないことをも理由として,合憲の判断を下した。
マイナンバーは,それ自体が厳重な管理が求められる秘匿性の高い情報である。さらに年金事務での利用が予定されているのに,利用する団体による情報管理の物的・人的な体制や能力が脆弱なことが判明してしまった以上,現在マイナンバーの運用が開始されれば,マイナンバーやこれと関連する個人情報が漏えいする具体的な危険があるといわざるをえない。このような状況のまま拙速にマイナンバーを運用することは,違憲となる疑いすら存する。
当会は,限定のない個人情報の統合によるプライバシー権侵害を主な理由としてマイナンバー制度に反対してきた。また,わが国の国家機関がサイバー攻撃をうけ国会議員のメールアドレスなどの情報が漏洩したこと,サイバー攻撃から完全に防御できるシステムはないこと等から,取り返しのつかない情報漏えいの危険が起こりうることを,マイナンバー制度に反対する理由の1つとして指摘してきた。
従って,今回の年金機構からの情報漏えいの原因分析が徹底的になされた上で,明確かつ実効的な再発防止策が立てられ,国民に十分な説明がなされ,その不安が払拭されるまでは,マイナンバー制度の運用を延期するよう強く求める。また,これを機会に,マイナンバー制度にそもそも多大なコストに見合う必要性があるのか,抜本的な再検討を行うことや,マイナンバーの利用拡大の検討ばかりではなく,医療情報とは連結しないなど,国民が安心して生活できるための利用範囲の限定等についての再検討が十分になされるべきである。
2015(平成27)年8月6日
福岡県弁護士会会長 斉 藤 芳 朗