再審大崎事件で棄却決定

大崎事件弁護団声明

本日,福岡高等裁判所宮崎支部(原田保孝裁判長)は,請求人原口アヤ子氏(87歳)及び同人の元夫であり共犯者とされた人物の遺族が申し立てた第2次再審請求事件,いわゆる「大崎事件」の即時抗告審において,弁護人の即時抗告を棄却した。
本件は,1979年(昭和54年)10月12日の夜,原口氏の義弟が酔って道路脇で寝ているところを近所の住人2名に発見され,そのまま車で自宅まで運ばれたところ,その後行方が分からなくなり,同月15日の昼過ぎに義弟宅の牛小屋の堆肥の中から遺体となって発見された事件である。
原口氏は,逮捕後一貫して無罪を主張し続けてきたが,知的障がいを抱えた3名の共犯者の自白をほぼ唯一の証拠とし,その自白を支える客観的証拠も存在しないという脆弱な証拠構造の中,懲役10年の有罪判決を受け,控訴,上告とも棄却された。原口氏は,在監中も無罪を主張し続け,刑務官からの「罪を認めて仮釈放を受けてはどうか」との勧めも拒絶し,満期服役した。
原口氏は,自らの無実を証明すべく,1995(平成7)年4月19日に第1次再審の申立てをした。第1次再審の原審は,本件の脆弱な証拠構造を正しく分析し,白鳥・財田川決定以来の判例による新証拠の明白性判断の正しい理解に基づき,2002(平成14)年3月26日,再審開始を決定した。しかし,その即時抗告審である当時の福岡高等裁判所宮崎支部は,十分な証拠の検討をすることなく,不当にも決定を覆し,最高裁判所でもその判断が維持された。
原口氏は,2010年8月30日に,第2次再審の申立てをした(亡くなった「共犯者」とされた一名につき、遺族が2011年8月30日に再審申し立てをした)が,鹿児島地方裁判所(中牟田博章裁判長)は,弁護団からの証拠開示や鑑定人尋問の要請に応じることなく,弁護団が存在を指摘する未開示証拠の存否についても,検察官の不見当との意見を鵜呑みにし,何ら積極的な訴訟指揮をすることもなく,いずれの申立てをも棄却した。
当審である第2次再審の即時抗告審は,原審裁判所より積極的に訴訟指揮を行い,新たに開示された213点もの未開示証拠における初期供述の変遷や,供述心理鑑定等の新証拠を一定程度評価したものの、法医学鑑定その他の客観的証拠につき正当な評価をしなかった。
そして、殺人の共犯者2名の自白の信用性について、その供述の変遷や知的能力の観点から「それ自体だけから必ずしも高いとまでは言えない」としてその信用性が減殺される評価を加えたにもかかわらず、総合評価の手法を誤り、請求人の関与を述べる共犯者以外の第三者供述があたかも客観的証拠であるかのように過大に評価したうえで、かえって共犯者らの自白に信用性が認められるとして、結果的にいずれの新証拠も、旧証拠の証明力を揺るがすものではないとして,即時抗告を棄却したものである。
白鳥・財田川決定を踏まえ新旧証拠を総合評価すれば,原口氏及び共犯者とされた人物たちが本件の犯人であることについて重大な疑いが生じていることは明らかであり,本決定は極めて不当である。
弁護団では,来るべき特別抗告審における審理に向けて,今後とも請求人らの再審開始決定・再審無罪判決の獲得を目指し,引き続き全力を尽くしていく所存である。

2014(平成26年)7月15日
大崎事件弁護団
団 長 森 雅美