置き去りの未発症原告(毎日新聞)

今朝の毎日新聞記事です。

B型肝炎訴訟:置き去りの未発症原告 賠償請求権あるのに……国は救済に触れず
http://mainichi.jp/hokkaido/shakai/news/20101212hog00m040002000c.html

 「私たちにも目を向けて」。B型肝炎訴訟の和解協議で、国側は未発症の感染者(キャリアー)への和解金支払いを、被害から20年で損害賠償請求権が失われるという「除斥期間」を主な理由に拒んでいる。しかし原告613人の中には、感染したとみられる時期から20年以内に提訴したキャリアーもいる。国はこうした原告の存在に触れぬまま「法律上、支払えない」と主張しており、原告側から批判も出ている。

 福岡市の男性(23)が感染を知ったのは19歳の時。家族に感染者はおらず、母子手帳に記録がある生後7カ月でのツベルクリン反応検査しか原因は考えられない。新聞報道で裁判を知り、接種から19年10カ月後の08年5月、「九州原告11番」として匿名で訴訟に加わった。

 医師からは「お酒は控え、血が服に付いたら自分で洗濯を」と注意を受けた。感染を打ち明けた友人は、飲み会で盛り上がっても「このへんにしておこう」と気を使ってくれる。来年から社会人になるが、半年ごとの定期検査が必要で「いつか会社に言わないと」と思う。いつ発症するか不安も募る。

 厚生労働省はキャリアーに和解金を支払わない理由として、発病の可能性の低さなども挙げるが、最大の問題は除斥期間だとしている。20年が経っていない原告の扱いは、毎日新聞の取材に「(和解金を払う)個別ケースとして対応する」(結核感染症課)と説明するものの、具体案の提示はない。男性原告は「キャリアーをひとくくりにして単純化し、さっさと終わらせたいんじゃないか」と感じている。

 集団予防接種による感染被害は国が注射器使い回しを全面禁止した88年までとされており、今から裁判を起こしても除斥期間が問題になる。20年以内に提訴できた男性は例外的なケースだが、多くのキャリアーが被害に気付かなかったのは、その間、国が実態把握を怠ったからでもある。また、被害者である母親から母子感染した子供は20歳未満なら除斥の適用外と考えられ、この点でもキャリアーへの「一律支払い拒否」は成り立たない。

 札幌地裁は7日の和解協議で感染から20年以上のキャリアーも含めた救済への努力を国側に求め、除斥期間にこだわらない姿勢を強めている。全国弁護団事務局次長の武藤糾明(ただあき)弁護士は「国は88年の時点で謝罪して救済システムを作るべきだった。責任逃れの挙げ句、除斥を理由にキャリアーを切り捨てるのでは国のゴネ得になる」と話している。【久野華代】
 ◇除斥期間 不法行為で被害を受けた時、20年で損害賠償請求権が自動的に消滅するとの考え方。法律関係を速やかに確定させるためとされるが、民法で直接の記載があるわけではない。予防接種の副作用被害を巡り、著しく公平の理念に反する場合は適用が制限されるとした98年最高裁判決や、じん肺訴訟で起算点を不法行為時でなく発症時・発症進行時と捉えた04年最高裁判決など、柔軟な解釈で救済対象を広げる司法判断も出ている。

毎日新聞 2010年12月12日 2時30分