毎日新聞社説「B型肝炎訴訟 この命は守らないのか」

 本日の毎日新聞の社説で、以下の通り、B型肝炎訴訟の問題が取り上げられました。
 民主党政権は、野党時代の考え方を、全部放り出して前の自民党政権と同じことしかできないのでしょうか。
 「命を守る」という首相の看板は、だれの命に向けられたものなのでしょうか。


社説:B型肝炎訴訟 この命は守らないのか

 国が法律で義務づけた予防接種でB型肝炎ウイルスに感染した人々が、国に損害賠償を求めているのがB型肝炎訴訟である。原告は全国10地裁で419人に上る。患者の高齢化は進み、肝硬変や肝がんになって亡くなっていく人は多い。時間がない中で、3月に札幌地裁と福岡地裁が和解勧告を出した。原告らは「被害実態を直接伝えたい」と鳩山由紀夫首相や長妻昭厚生労働相らに面談を求めたが、「具体的な話ができない」と拒否されている。「いのちを守りたい」と施政方針演説で何度も繰り返したのは首相である。B型肝炎被害者の命についてはどう考えているのだろうか。

 過去の薬害や公害で政府の対策はいつも後手に回ったが、とりわけ置き去りにされたのがB型肝炎である。感染してから数十年後に突然発症し、子どものころの予防接種が原因だと立証するのが難しいためでもある。それでも06年には最高裁が国に対し5人の患者それぞれに550万円の賠償を命じる判決を出した。だが、国はそれ以外の患者の救済を怠ってきた。そのために続々と各地裁で訴訟が起こされてきたのだ。

 正確な感染者数は不明だが110万〜140万人と言われ、このうち予防接種が原因とされるのは約半数とも2割とも言われている。少なく見積もって20万人とすると、最高裁と同じ賠償を全員にすれば1兆円を超える。一方、原告側はC型肝炎と同水準の賠償を求めてきた。肝硬変・肝がん患者と死亡者は4000万円、慢性肝炎の患者は2000万円、無症状の感染者は1200万円で、これに当てはめると数兆円が必要になる。国が和解交渉にひるむのは賠償規模の大きさゆえである。

 予防接種は94年まで法律で義務づけられていたが、予防接種の記録が残っていない患者も多い。原告側は、母親が死亡前に入院していたときの検査データ、きょうだいの検査データを基に予防接種以外の感染原因がないと推定されればいいと主張し、できるだけ被害の対象を狭めようとする国と対立してきた。札幌地裁の和解勧告は「救済範囲を広くとらえる方向で判断」するよう求めており、さらに国を及び腰にさせている。

 しかし、詳細な調査研究も認定基準もないのが現状である。巨額な賠償の影にすくんでいるのでは歴代の自民党政権と同じではないか。国は被害実態に関して根拠のあるデータをそろえ、和解交渉の席につくべきである。破綻(はたん)寸前の国の財政を見ればB型肝炎問題を避けたくなるのは分かるが、「いのち」を叫ぶ首相に偽善を見るようで力が抜ける。弱者にやさしい政治をアピールする政権の真価が問われる場面だ。