日弁連ストリートビュー緊急集会

 13:00から、霞ヶ関東京弁護士会館5階で、日本弁護士連合会主催のストリートビューに関する緊急集会が開かれました。
 フリージャーナリストの瀬下美和さんからは、ストリートビューの問題画像の紹介や、ストリートビューの利点と問題点の整理、グーグル社の主張や、削除請求等のアクセスの困難さ、インターネットに不慣れな消費者への配慮がない点などの指摘がなされました。
 ドイツ連邦データ保護法の研究者である平松毅教授からは、ドイツのデータ保護法の基礎となっている憲法上の自己情報決定権と、データ保護法における公道での写真撮影行為に対する法的規制のあり方、さらには、イギリスやオーストラリアでのストリートビューに関する検討状況等の講演をいただきました。
 平松教授によると、ストリートビューの撮影行為は、ドイツでは、ドイツ連邦データ保護法6B条に定めるビデオ監視規定の適用対象となり、具体的に特定された正当な利益を保護するための必要性が必要であり、かつ、制限される撮影対象者のプライバシー権よりも、その利益が上回っていること、つまり利益衡量が必要であるとのことでした。
 また、我が国でのプライバシー権保護のあり方でも、利益衡量の点についてほぼ同様に考えてよいと指摘されました。
 さらに、主催者である日弁連情報問題対策委員会の担当者として、私から、ストリートビューを巡る論点として以下の3点を挙げました。
 1 プライバシー権について、2つのレベルの問題があること。すなわち、単なる識別情報(それが誰であるかがわかるというレベルの情報)と、プライバシー情報(私生活上の事実であり、一般人が公開を欲しない情報であり、非公知であるという3要件を満たす事実)があり、流出したラブホテルに入るカップル、路上でキスする高校生カップル、立ち小便をするおじさんの画像は、後者に該当すること。
 2 グーグル社は、公道におけるプライバシーは放棄されたものと評価しているが、(1)我が国においては、対公権力の関係において、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)があり、公道において、人に自分の行動を示そうとしているデモ行進を行う人でさえ、その顔を勝手に撮影されない権利があることが認められていること、(2)東京地判平7.9.27等の裁判例において、この理は民間団体による写真撮影にも適用されていること。
 3 プライバシー権と他の権利との利益衡量の方法としては、(1)被撮影者の社会的地位、(2)被撮影者の活動内容、(3)撮影の場所、(4)撮影の目的、(5)撮影の態様、(6)撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決めるべきであること。
 約50名の参加者からは、かなり活発な質問が出されました。
 ひとつは、ストリートビューについて、単なる撮影・公表行為だけをとらえるだけではなく、それがマッシュ・アップ(ほかの利用者が別の用途に用いて、もとの個人情報が、情報主体の全く知らない方法で組み合わせて利用されていくこと)されるインフラとなっており、そのような場が提供されている点に問題があるのではないか、という点でした。
 また、ほかの質問として、肖像権中心のプライバシー権の把握ではもれてしまう、家屋を知られたくないという利益の手当が必要である、たとえば、就職の前提として、知らないうちに自分の住居が調査され、それによって密かに採否の結論が左右されるような行為を拒絶する権利も認められるべきではないかというものもありました。
 これらの点については、平松教授から指摘された、1983年のドイツ連邦憲法裁判所による国勢調査事件判決(国が行う国勢調査の際に、調査の便宜のために国民1人1人に番号を付した行為について、プライバシー侵害として、その国勢調査を差し止めた事件)がぴったり当てはまるものと思われました。つまり、「自分に関する情報が世間の一定領域の人々にどれだけ知られているかを十分な確実性を持って見通すことができないもの、自分と通信する相手方の知識をある程度評価することができないものは、自己決定に基づいて計画し、決定する自由を本質的に制限されることがあり得る。・・・人と違った行動様式がいつでも記録され、情報として永続的に蓄積され、利用され、伝達されることに不安を感じているものは、そのような行動によって目立つことを避けようとするであろう。たとえば、集会とか市民運動への参加が当局によって記録され、それによる危険があり得ることを知っているものは、おそらくその基本権、たとえば集会の自由、表現の自由を行使しないであろう。そのことは、ただ単に個人の個々の人格の発展を損なうだけではなくて、公益も損なう。なぜならば、市民が自己の判断に基づいて行動し、他人と共同する能力に基礎づけられた自己決定は、自由で民主的な共同体の基本的な機能条件だからだ」という判断です。
 ドイツでは、自分の情報は、公表された情報や、名簿等で取得可能な情報以外の情報はすべて情報主体の同意が必要であり、同意の前提として、何の目的に利用されるのかを知ることができ、その同意の範囲を超えた利用に対しては、損害賠償請求や、削除請求ができます。つまり、知らないうちに、自分の家がみんなにさらされたり、批評を加えられるような行為も拒絶できると言うことです。そして、ドイツ以外の国でも、それぞれ保護の範囲や方法は多少違っていても、基本的な考え方の枠組みは共通です。
また、我が国では、果たして本当にそのようなことができるのか、信じられない方も多いと思われますが、アメリカと日本以外の先進国(EU、カナダ、オーストラリア、スイスなど)には、データコミッショナーという第三者機関があり、個人情報の同意なしの収集、利用、第三者提供等を本人の苦情申し立て等をきっかけに審査し、問題があれば改善勧告を出したり、制裁金を科したりして、プライバシー保護を徹底しているのです。
 日弁連は、現行の個人情報保護法が、同意原則の徹底において不十分であったり、第三者機関が存在しないことの改善を再三求めていますが、そのような本質的な問題点が、根幹にあります。
 参加者の半分強が弁護士で、その他は、記者の方や、技術系の方が多かったようです。
 インターネット上の個人情報の利用の仕組み全般の問題点に対して、技術の発展に法律が追いついていないのではないかという問題意識や、技術者サイドの問題意識と法律家の問題意識に齟齬があるのではないかという指摘、しかしながら、問題の本質としては、個人情報保護法における個人情報の保護のあり方がきわめて不十分な点が指摘でき、EU加盟国を代表とする多くの国では、プライバシーや個人情報に対する本人同意原則が貫かれ、その担保として第三者機関による監督があることなどの解決策があることなどについて、認識を共有できたのではないかと思います。
 もう少し発展させた意見交換の場を作ることができれば、もっとプライバシー保護への道筋がイメージできるのではないかと思われ、今後もこのような集会を行いたいという決意を表明して集会を終えました。