三浦和義さんの提訴について

 午前中、事務所で仕事をしていたら、東京のテレビ朝日のスーパーJチャンネルの制作担当者という方から電話がありました。何事だろうかと思ったら、「三浦和義さんが、コンビニで万引きをしたとされている事件で、コンビニ店が自分の画像を報道機関や監視カメラの制作販売会社に提供したことを違法として訴訟を提起するそうですが、ホームページで、監視カメラ問題に取り組んでおられるとのことだったので、ご意見をお聞きしたい。」ということでした。
 そこで、以下のような話をしました。

 まず第一に、人には、同意なしに顔など(裁判所は、容ぼう等という言い方をします)を他人から撮影されない権利、すなわち肖像権(プライバシー権の一種)を持っています。また、適法に撮影された顔の画像についても、同意なしに目的外利用されたり、第三者提供されたりしない権利(プライバシー権ないし自己情報コントロール権)を持っています。
 これに対し、肖像権・プライバシー権も、絶対無制約ではなく、他のより大きな人権や、公共的利益がある場合には、制約を受けても違法となりません。
 コンビニエンス・ストアが防犯目的で、自らの管理する店舗内に、無差別撮影する防犯ビデオを設置し、撮影する行為については、表示もあり客も撮影されていることを知っていることなどからこれを適法とした高裁判決(名古屋高判平17.3.30、ただし、事件は個人情報保護法の施行前)があります。
 次に、この高裁判決では、店内は、何ら犯罪が起こっておらず、近くで起こった犯罪(ホテルに、偽名を用いて宿泊したという事件)のために、警察が事件前後の立ち寄り状況を知りたいとして画像提供を求め、これに応じた行為を、捜査への協力という公益目的があるとして適法としました。
 ただし、この判決に対しては、店舗内で起こった犯罪以外のためにでも提供が許されると、「警察が直接市民を撮影する防犯カメラを設置することは、原則として現行犯の場合など以外では許されない」とする京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)が、脱法化されるので、令状なしで任意提供が許されると考えるのには問題があると考えています。
 本件のように、店舗内で限に起こった犯罪に関して、画像を警察に提供することは、そもそもの設置目的となっているので、撮影自体が適法であれば、提供も適法となると考えられます。
 次に、報道機関への提供ですが、「その画像が報道されるべき必要性」との比較になります。犯罪報道は、一般的に公共性が高いものとされています。ただし、それも無制限に許されるものではなく、和歌山毒カレー事件で、法廷で手錠・腰縄を付けられている被告人の姿を、裁判所の許可なく隠し撮りし、また、その姿をイラストにして写真週刊誌に掲載した行為を、いずれも違法とした最高裁判例最判平17.11.10、判タ1109号170頁)があります。
 また、監視ビデオ大国イギリスにおいて、公道でナイフを持って立っていた人物が逮捕される場面(後に、手首を切り自殺を図ろうとしていたことが判明)の録画フィルムが、設置者である自治体からBBC等のテレビ局に渡され、新聞ではそのまま掲載され、BBC等では顔をぼかして報道した事件で、ヨーロッパ人権裁判所は、被疑者が犯罪で告発もされていない場合における自治体の報道機関への画像提供行為は、プライバシーの重大な侵害として、1万1800ユーロの損害賠償請求を命じました(2003.1.28ペック対連合王国事件判決)。その中では、裁判所は、自治体がフィルムを提供する際に、本人の同意を得るか、顔をぼかして提供するか、報道機関が顔をぼかすような体制をとることを、提供する自治体自身が確保すべきだったと述べています。
 本件では、「その画像」を報道する必要性に、公益性が認められるか、が争点となるでしょう。犯罪の軽重、被疑者が公人(政治家等)かどうかなどが考慮されるでしょう。防犯ビデオ画像の利用は、近年増加していますが、事実を伝える必要性としては乏しく、興味本位的な価値しかなかったり、事実上の私的制裁として作用するような場合には、違法判断が出される可能性もあります。
 最後に、防犯ビデオメーカーに対する提供ですが、これも、「その画像が利用されるべき必要性」との比較になります。
 一般に、営業的言論(広告)の価値は、犯罪報道等の公的言論より劣るとされています。従って、厳格な審査がなされる可能性が高いでしょう。
 広告ではなく、商業目的での表現行為に関し、次の裁判例があります。
 有名芸能人が、レンタルビデオ店でアダルトビデオを借りるときの様子を、店内の防犯ビデオで録画していた画像について、写真週刊誌がこれを取得して、顔をぼかしつつも、文章で、それが誰かを暗示して出版した行為を、「防犯ビデオの設置目的を超えて違法に肖像権を侵害するもの」として、損害賠償請求を認めた事案(東京地判平18.3.31,判タ1209号p60、控訴なく確定)があります。

 なお、この後、午後の出先の法律相談の空き時間で、私の携帯電話に対してインタビューが行われ、午後5時半ころ、小宮悦子さんが読み上げるところで取り上げられました。15秒ほど私のコメントが流れました。
 携帯での会話でもニュースができるというところがすごいなあと感心してしまいました。