住基ネット訴訟弁論

 本日、11時より、住基ネット差し止め訴訟の弁論が、福岡高裁で行われました。
 以下、私の行った意見陳述です。
 次回までに、国が反論する予定となっています。
1 愛南町からの住民票コードの漏洩
5月14日に、愛媛県愛南町の住民情報がインターネット上に大量に漏洩していることが判明しました。
 愛南町のホームページによると、5町村の合併に伴い、住民基本台帳について業務委託した委託業者が、町の同意なしに再委託を行い、その再委託業者の職員が、自分のパソコンに、大量の住民情報を保有したまま、業務終了後に、データを適切に返上または消去しないまま、自分のパソコンに感染したウイルスによって、インターネット上に大量の住民情報を漏洩させています。
 その漏洩情報は、住基情報、国民年金情報、老人保健情報、口座情報、選挙情報等、実人数として5万4850人、延べにして14万2843人分の情報が漏洩しています。
 この中で、最も問題が大きいのは、5町村の住民の住民票コードが、3万3773件も漏洩しているという事実です。
2 国の主張には全く合理的根拠がない。
 国は、住基ネットは安全であるから、住民票コードが漏洩する危険性はないと主張し続けてきました。
 総務省地方公共団体への指導、助言・勧告等(31条)を行ったり、セキュリティ基準の策定等の権限を行使することで、住基ネットのセキュリティを確保していると主張してきました。
 ところが、市町村が、必ずしもセキュリティ基準を遵守できていない状況が明らかになると、「これを守らなければ、本人確認情報の漏えい、改ざん等の具体的危険が生じるという基準を設定したものではなく」、「仮にセキュリティ基準が一部達成されていない状況が見られたとしても、これを放置せず、日々の運用改善の努力を積み重ねることにより、全体として住基ネットの安全性は十分確保できるのであって、過去の一時点におけるセキュリティ基準の遵守状況は、現時点及び将来における住基ネットの具体的危険の存否とは直接結びつくものではない。」と主張して、根拠が薄弱になりながら、なおかつ安全であると言い逃れを続けてきました。
今回の愛南町についての情報漏洩は、本来、国が責任を持って予算を付し、セキュリティを確立しなければならない義務があるのに、財政の逼迫している弱小な全市町村に責任を押しつけ、自治体ごとにまちまちで、実際には十分なセキュリティ水準が保たれていなく状態を評して、「日々努力しているから、安全だ」などという非科学的で情緒的な「安全性」の説明をしてきたことの嘘が暴露されたものです。
3 国は、住基ネットの稼働を停止せよ。
愛南町の情報漏洩について、セキュリティー問題に詳しい甲南大法科大学院の園田教授は、「より課題の多い人的な問題による流出を十分検証してこなかったツケが回ってきた」と指摘しています。新聞でも、「今年度に入り、自治体からネットへの流出が相次いで明らかとなった。総務省は政策の見直しを迫られそうだ。」とされています。
 本件情報漏洩事件はいくつもの問題点を浮かび上がらせています。
 総務省は、「公務員は守秘義務があるから、情報漏洩はない。委託業者にも、守秘義務条項を規定しておけば、情報漏洩は起こらない。」と主張していましたが、本件では、再委託を制約していた契約条項があったのに、委託先が勝手に再委託していました。このような事態は、他にも、再委託は認めるが、再々委託を禁止する契約をしていた大阪府堺市において、公然と禁止された再々委託が行われ、市が抗議しても委託業者が無視したことは、原審の黒田証人尋問(137〜143項)の際に明らかにされていました。
 市町村の監督の目を行き届かせるために規定されている再委託や再々委託の禁止条項は、業者は大した問題とも思わないため、必ずしも守らないことは、すでに2004年の段階で明らかとなっていました。つまり、今回の事態は、十分予見可能だったのです。
 また、今回の漏洩は、ウィニーによる情報漏洩といういわば古典的なものでしたが、このような極めて初歩的な方法で漏洩するような業者が、住民のプライバシーを管理しているということは恐ろしいことだと言わねばなりません。
 しかも、ウィニーによる情報漏洩は、今年に入っても相次いでおり、住民情報だけで、大阪府岸和田市大分県日田市、福岡県嘉麻市山口市長崎県対馬市、につづいて、今回の愛南町となります。
 そもそも、住基ネットの稼働には、住民票コードが漏れないことが前提でした。
 住民票コードは、住民情報を結合させ、名寄せを行う要となるものです。これがいったん漏洩すれば、その住民の個人情報は、国の多くのデータベースにおいて、容易にかつ絶対誤りなく検索が可能となります。
国は、住民法コードが漏れる具体的危険がないと主張していましたが、今回は、現実に漏洩してしまっているのであり、具体的危険がない等という言い逃れは全く許されません。
少なくとも、このような初歩的な情報漏洩が繰り返されないよう、総務省は、住基ネットの運用状況を厳重にチェックし、二度とウィニーによる住民情報の漏洩が起こらないような原因究明と、再発防止策を打ち立てる必要があります。
 それが明らかにされるまでは、いったん、住基ネットの稼働を停止すべきです。
また、より根本的には、このように、セキュリティー管理の難しい住基ネットを、しゃにむに継続する必要があるのか、再検討の上、費用対効果の存在しない住基ネットは、廃止されるべきです。
 本件訴訟における、情報漏洩の危険は、今回の事件により、十二分に証明されたものであり、原判決は直ちに破棄されるべきです。