大阪豊中判決の概要

 11月30日、大阪高等裁判所で、住民の住民票コードの削除を認め、住基ネットからの離脱を認める画期的な判決が下されました。この判決の概要は以下の通りです。
1 権利について
 プライバシー権の重要性について、情報通信記述が急速に進歩し、情報化社会が進展している今日における、他者による個人情報の収集、利用状況の把握の難しさから、自己情報コントロール権の重要性が広く認識されているとし、住民票コードについては、検索、名寄せのマスターキーとして利用できるものであるから、その秘匿の必要性は高度であるとしています。
2 行政目的の存在
 そして、行政目的実現のために必要な範囲で収集、保有、利用等する必要があるとし、行政目的としての、付記転出届や、住民票の写しの広域交付等がほとんど利用されていないこと、行政経費削減効果は、転入届の50%が住基ネットを利用する前提だが、実際には0.2%以下であること、自治体に重い負担を課していることを指摘しています。
3 情報漏洩の危険性
 技術的なセキュリティーについての具体的危険まではないとしつつも、極めて基本的な事項について不十分な自治体があることを指摘しています。
4 データマッチングの危険性
 最も重要なのは、データマッチングの危険性で、提供事務が容易に拡大された経過や、住民票コードの提供を受ける、行政機関側のデータベース自体に対する制限がないことから、データマッチングが容易に行えるインフラが、住基ネットにより整備されたという点を正面から認め、データマッチングを防ぐための法整備がない点を痛烈に批判しています。つまり、行政機関個人情報保護法が、取得した個人情報の利用目的の変更を許していること、それに対する第三者機関によるチェックがないこと、住民票コードの利用拡大を適時に把握し、異議申し立てする機会がないこと、行政機関限りの判断で、相当な理由があれば、必要な限度で目的外利用や、第三者提供が可能であること、これに対する第三者機関の監視がないことから、少数の行政機関によって、行政機関全体が保有する多くの部分の重要な個人情報が結合・集積され、利用されていく可能性は決して小さくないとしています。
 さらに、平成15年に発覚した、自衛隊適齢者名簿提供事件が、名寄せの具体的危険を示すものであると指摘しています。
5 憲法違反
 従って、「行政機関において、住民個々人の個人情報が住民票コードを付されて集積され、それがデータマッチングや名寄せされ、住民個々人の多くのプライバシー情報が、本人の予期しないときに予期しない範囲で行政機関に保有され、利用される危険が相当あるものと認められる。そして、その危険を生じさせている原因は、主として住基ネット制度自体の欠陥にあるものと言うことができ、そうである以上、上記の危険は、抽象的な域を超えて具体的な域に達しているものと評価することができ、・・・住基ネットは、その行政目的実現手段として合理性を有しないものを言わざるを得ず、その運用に同意しない控訴人らに対して住基ネットの運用をすることは、その控訴人らの人格的自律を著しく脅かすものであり・・・控訴人らに保障されているプライバシー権(自己情報コントロール権)を侵害するものであり、憲法13条に違反するものといわざるを得ない。」と結論づけました。

 2005年5月の金沢判決以来のすばらしい判決です。
 日本でこのような判決が出されることは今や珍しいのですが、EU諸国であれば、当然の判決だと思われます。
 日本における個人情報保護の遅れと、国際水準からの逸脱について、政府は気がつかないふりをして、自由自在に個人情報を流用していますが、EU指令に合致しないことから、早晩法改正はさけられそうにありません。EUは、適切な個人情報保護法制の存在しない国とは、情報流通を禁止する意向を示しているからです。
 国民を国家の管理の客体にすることのできない、謙抑的な制度がない限り、住基ネットなどはおよそ合憲的に運用されることはあり得ません。また、そのような制度が設計されれば、住基ネットなどはそもそも有害であり必要がないことも明らかになります。
 当たり前のことを正しく指摘することに、たいへんな勇気がなくともよい、健全な社会にならないと、この国には未来はないのではないでしょうか。
 全国でもこの判決を生かし、国民こそが国政でもっとも尊重されるべきだという個人の尊厳が守られる憲法の大原則に合致した判決が得られるようがんばりたいと思います。