福岡県保険医新聞への寄稿

本日発行の、福岡県保険医新聞へ寄せた原稿です。
 共通番号制度と医療         
 2011年6月、政府は社会保障・税番号大綱を公表し、全国民に番号を付けることを決めた。今国会に法案が提出される見通しである。
 目的は、所得等の情報を把握し、社会保障や税の分野で効果的に活用するための基盤作りだとされている。給与支払いなど、民間の取引を税務署等が捕捉する仕組みなので、当然ながら民間の情報が大量に公権力に集中する。
 番号制で公平・公正な税制を実現できる、とされている。1億円を超える高額所得者は、所得が増えるほど所得税負担率が下がるが、これは番号制度で是正される問題ではないから、無意味である。導入費用だけで5000億円かかるのに、どれだけのメリットがあるのかは全く説明がない。
2002年に住基ネットが稼働したが、事前の説明とは異なり、行政効率化は図られず、すでに2000億円以上が無駄遣いに終わっている。「絶対漏れない」はずだったが、愛南町北秋田市などで住民票コードが漏洩した。
 社会保障カードの実証実験が福岡で行われた際、健康保険証の無効がすぐに分かるというメリットが説明されたが、もしそうするのであれば、すべての医療機関が、端末と通信回線の設置を強制される。トラブルも増えるだろう。
レセプト=オンラインが強制され、いったん撤回されたものの、社会保障個人会計の議論はいまだに消えていない。この制度が導入されると、社会保障受給額(年金、医療、介護、雇用保険等)が、自分で負担した社会保険料を超えた者については、死亡後に相続財産でもらいすぎた分を清算しなければならなくなる。このような制度は、福祉とは相容れず、障がいを持つ方や、長寿の方などを、「社会のお荷物」と指弾する風潮を生む危険が大きい。
 税制、社会保障制度の本質的議論もなく、その手段だけを先に実現しても、公正な社会になる保障はない。重税で低福祉にするための基盤になる危険が大いにある。運用次第では、国民の私生活が丸裸になるが、利用制限のための議論はない。
 主権者は国民なのだから、国民が納得できる制度設計に向けた手段にしか賛成できない。メリットは漠然、デメリットは無限の制度に反対しましょう。