警察による誤情報提供に基づく処分取り消し判決

 足抜けしているのに、暴力団に所属しているというデータのままで、警察から生活保護支給権限を判定する市に提供されて支給されなかった行政処分の 取り消しを認める判決が出されました。
 以下、弁護団の声明です。
 2011年10月3日
宮崎市福祉事務所事件弁護団

 本日、宮崎地方裁判所民事第2部は、宮崎市福祉事務所事件において、原告の請求を認める判断を示した。
 生活保護法における無差別平等原理に忠実で、正当な判断であると評価する。
 本件裁判は、8年前に暴力団を辞め、反社会的勢力との交流を断ち、重度の糖尿病及び慢性腎不全のため働くことができず、生活保護を受給するほかない一市民に対してなされた、?2010(平成22)年2月16日付の生活保護申請却下処分の取り消し(第1事件)と、?同年7月30日入院をきっかけとして開始された生活保護を、退院したことのみを理由に廃止した同年10月3日付生活保護廃止決定の取り消し(第2事件)を求めるものである。
本件の原告は、2003(平成15)年に暴力団を脱退した後、反社会的勢力との接触を断っていた。病をおして働けるうちは、アルバイトをし、2009(平成21)年に病状が悪化して働けなくなってからは、ボランティア団体の支援を受けながら、闘病生活を送ってきた。当初、宮崎市福祉事務所は、原告から相談を受けるにとどまり、原告が実際に暴力団との関連があるのか、不当な収入等を得ているのかの生活実態について調査しようとすらしなかった。過去に暴力団員に所属し、警察の暴力団員等該当性情報が抹消されていないとの一事をもって、同年11月に原告が自殺未遂事件を起こし緊急搬送されるまで、原告が何度福祉事務所に助けを求めても、申請すら受け付けず、原告の生活実態を把握しようとすらしなかった。その上、原告が将来を悲観し自殺するまで追い詰められていることが判明し、一度は保護を開始したものの、これ以上の病状の悪化を防ぐためには厳格な食事療法が必要であるとの診断が下されたにもかかわらず、原告が退院するやいなや生活保護を打ち切った。原告が家賃滞納によりアパートを退去し、無料低額宿泊所で生活しながら、ボランティア団体から食事の提供を受けるようになってからも、宮崎市福祉事務所は、本件原告が暴力団との接触をしているか、日常生活がどのようなものかであるかの調査すらせず、原告が過去に暴力団員に所属し、警察が原告を暴力団員等該当性情報から抹消していないとの一事をもって、原告の度重なる申請を却下した。
生活保護法は無差別平等原理を宣言する。税金による反社会的勢力への利益供与が許されないことはもちろんであるが、8年も前に暴力団を脱退し、闘病生活を送っている市民の生活保護申請を、本人にはどうすることもできない過去の経歴と、市民からの訂正請求権のない暴力団員等該当性情報のみを理由として、却下し、市民の生命を危険にさらすことは許されない。また、そもそも、反社会的勢力の撲滅のためには、反社会的勢力からの離脱を誓っている市民には支援の手をさしのべるべきである。宮崎市福祉事務所のとった行動は、生活保護を受給する以外に生きていく途のない人間を突き放し、いったん反社会的勢力と関わった者は一生、反社会的勢力に面倒を見てもらえという結果につながりかねない。反社会的勢力を増長させるすきを与えるような行動だといえよう。
本件判決は、市民の生存権を守る観点から、暴力団員等該当性情報を鵜呑みにして生活保護申請を却下し、一度開始した生活保護を廃止した宮崎市福祉事務所の処分の違法性を明らかにした。
 宮崎市福祉事務所事件弁護団は、このような判断を、高く評価するものである。
 宮崎市は本判決に対し控訴することなく、即刻、本判決に従い、原告の権利回復のための措置を講ずべきである。