病床逼迫の原因

 2022年8月4日の日経新聞朝刊では、病床逼迫の原因について、医療従事者のうち、濃厚接触者が相当増加し、欠勤を強いられるためであると報じている。福岡大学病院も2病棟が閉鎖された。
 その中でも、千葉大医学部付属病院は、毎日の抗原検査で陰性であれば、自宅待機せずに業務に従事できるとしたそうだ。また、これは2021年8月から厚生労働省が認めていた運用とされる。
 ネットで調べると、神奈川県のホームページに以下の記載がある。
「また、ハイリスク施設や保育所等の従事者が濃厚接触者となった場合、外部からの応援職員等の確保が困難な施設であって、一定の要件(※2)を満たす限りにおいて、待機期間中、毎日の検査による陰性確認によって、業務従事は可能と示されています。
(※2)代替が困難な従事者、職員であることや新型コロナウイルス感染症のワクチン追加接種済みであること、無症状であること等。詳細は必ず下記の当該国事務連絡を確認すること」
  これは、一般市民には自宅待機させつつも、いわば緊急避難的に解除する規定に読める。
 2021年8月当時のコロナの変異株より、オミクロン株の方が毒性は減少している。オミクロン株は、BA.5より前は、肺で増殖しづらく、当初の新型コロナの特徴である、肺炎を起こすという性質が微弱化しているとされていた。したがって、この緊急避難的規定も、コロナの毒性低下に従って、もっと緩やかに解釈されてしかるべきものと思われる。(なお、BA.5は、それ以前のオミクロン株と比較して、肺でもより増殖する性質があると報じられていたが、感染症の専門医によると、それほど心配はいらないだろうとのことであった。その後、アメリカではBA.5メインでも重症化率が低いまま推移しているデータに接した。)
 そもそも、濃厚接触者のルール全体が厳格に過ぎるように思われる。第6波の途中からは、日本でも感染者数が増えすぎて、事実上保健所による濃厚接触者の特定、カウントが不能な状態に陥ったことは有名な話だ。
 一般的に、ウイルスには、最初が強毒性でも、変異のごとに感染力を増すとともに、毒性が逓減していく場合が多いといわれている(スペイン風邪は、2波の方が強毒化したらしいので、何事も「原則として」「傾向がある」と言うだけで、絶対ではないが)。
 後ろ向きの濃厚接触者の調査を、保健所が行っている国は他にほとんどないのではないかとの指摘は、当初からあった。ただでさえ脆弱な保健所のパワーをさく必要があるのか、ウイルスが弱毒化し、かつ感染力が著しく大きくなった場合はなおさらだろう。
 濃厚接触者に対する制限を一般的にもっと軽減しないと、医療機関も緊急避難的規定を適用しづらいだろう。その意味では、毒性の低下及び感染力の増大にともなうもっと根本的な政策の見直しが必要だろう。感染力が強いと言うことは、濃厚接触者も多数生まれるので、行動制限があるとそもそも社会生活が成り立たなくなるおそれがある(医療従事者等のエッセンシャルワーカーに対する緊急避難的規定はそのために設けられていると思われる)。
 病床の逼迫は、最終的には救急病床の逼迫につながるおそれがあり、助かるはずの命が助からなくなるおそれが出てくる。
 まさに、エッセンシャルワーカーは、今こそ、緊急避難的規定で出勤して「よい」というべきだろう。コロナ状況下において、医療従事者は、まるで感染源かのような扱いを受け、社会から厳しい差別を受けている。市民が安全に生活するためには、過度に萎縮した医療提供体制ではなく、濃厚接触者でも条件を満たせば医療提供を受け入れた方がよい、という社会の側の十分な理解が必要になる。
  結局、感染力の増大の反面として、毒性が低下していることに対する市民の理解を促すような、専門家やメディアの情報発信が求められている。毎日毎日、感染者数が増えたことばかり報道され、不安に思う市民は多い。市民や社会の不安感が強固で、過剰な行動制限が避けられず、めぐりめぐって生命健康の危機を招くような無限ループは、日本では誰も変えられないのだろうか。
 今、何が伝えられるべきか。政府も市民もメディアも一緒に考える必要があるのではないか。