スマホとマイナカード

  「スマホとマイナカード」という表題で、しんぶん赤旗の5月5日、6日の朝刊に記者のインタビュー記事が掲載されました。

 インタビュー部分のみ、掲載します。


-プライバシーの侵害が心配です。
 いま、世界中でスマホとパソコンが利用され、GAFA(ガーファ=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれるプラットフォーマーが、世界中の人々のインターネットでの個人情報を利活用して、利益を上げています。ある人が見た動画やサイトの種類、検索した言葉などすべて記録して、それに合わせて商品購入を勧めてきます。例えば病名を検索すると、それに合わせた薬の広告が表示されます。家族以上に正確に好みや思想、弱点を把握し、丸裸にされている状態です。
 このような情報の統合をプロファイリングと呼び、これを拒否して、個人のプライバシーを守る手段が必要だというのがEU(欧州連合)のルールです。プロファイングの手段は、クッキーなど、インターネットサイトのアクセスの目印になる識別符号です。アメリカでもEUでも、クッキーは拒否できます。ところが日本では、利用目的を公開していれば、本人が知らなくても原則としてクッキーを無断で使用できます。
 実は総務省では、今年の電気通信事業法改正で、クッキーに対して事前同意を求める制度を導入しようとしたようですが、通信事業者の反対で葬り去られました。
-  マイナンバーの現状はどうですか。
 マイナンバーは、本人ですら、勝手に他人に知らせることを禁止された番号で、その利用範囲の限定の厳格さによって、プライバシーを保護する仕組みです。それでも、政令により、税や社会保障という当初の目的以外の行政事務に利用範囲が拡大しています。しかも、マイナンバーカードで使用される識別符号は、民間にも開放され、明確な利用制限はありません。歯止めのない利活用の推進は、プライバシーへの重大な脅威です。
 また、カード取得者の顔認証データは、現在自治体が管理していますが、国が管理する方向に向かっています。
 顔認証は、指紋の1000倍の識別性があるので、健康保険証や運転免許証と連動させて国が事実上強制的に全国民の情報を収集管理することは、民主主義国家ではありえない野蛮なプライバシー侵害です。
- この先どんな社会が待ち受けていますか。
 極端な例として、中国が挙げられます。中国国内には顔認証カメラが6億台設置され、通行する市民の行動を常時監視しています。クレジットカードなしで顔だけで商品が購入できる、「便利」な社会です。
 他方、赤信号を無視した歩行者は瞬時に個人が特定され、周辺ビルの大型スクリーンに顔と名前が映し出され、罰金を科されます。政府を批判することは犯罪とされているので、カメラで撮影され逮捕された例もありました。「天網」というこの仕組みは毎秒30億人分を照合可能だといいます。
 日本でも、警察が法律の根拠もなく犯罪捜査に利用しており、JR東日本も公共空間で顔認証カメラを使用しています。法律によるルールのない顔認証データの収集・利用は原則として禁止すべきなので、日弁連はこれらに反対しています。
- 弾圧につながる可能性があるのですか。
  中国のような顔認証による監視のほかにも問題があります。
 スマホでは、GPS(全地球測位システム)をオンにしている人が多く、これでは発信機と同じ状態で、移動履歴が筒抜けです。
 戦争反対を訴えデモ行進に参加している人は、同じ時間・場所・速度で移動している集団として特定できます。
 イスラエルの治安当局は、コロナの接触確認アプリを利用してデモ隊の参加者を特定し警告を発しています。
 日本では、2017年の最高裁判決で、法律なしにGPSの位置情報を収集することは違法とされていますが、技術的な設計が誤れば危険です。
 今の政府は、民主主義のルールにのっとり意思表示する人を危険人物扱いしています。辺野古の基地反対運動への監視が典型です。警察によるマイナンバー利用に対しては、個人情報保護委員会の監督が及びません。「市民監視」に対するプライバシー保護のルールがないので、問題です。
 日本の個人情報保護法はクッキーの事前同意も一律には求めておらず、世界の潮流に遅れています。スマホ時代のプライバシー保護にはマッチしておらず、GDPR(EU一般データ保護規則)の水準まで引き上げる必要があります。
- 今度の運動の展望は。
 データの利活用一辺倒の政府の設計図は危険です。
 また、理想のデジタル社会については、私たちも考えるべきです。コロナの自宅待機者に、同意した人に対してウェアラブル端末を貸与して、健康状態により自動で救急通報するシステムが考えられます。救急搬送先も、救急隊員が電話で何時間も探すというのは恐ろしく時代遅れで、一刻も早くデジタル化し、21世紀の先進国の水準にすべきです。
- 日本国憲法との関係は。
 そもそも絶対的権力は必ず腐敗し、国民を脅かします。「悪いことをしていないなら気にする必要がない」というのは、ナチスの言い方です。EUがプライバシー保護に熱心なのは、ナチスに対する深い反省と、それを忘れない不断の努力です。
 ロシアや中国のように、政府批判の抑圧や監視は弾圧や戦争へ向かう道です。先人の苦労や犠牲の上に勝ち取られた権利章典としての憲法の価値を今こそ再確認する必要があります。
 自由で快適な社会を将来に引き継ぐために、主権者としてNOと言い続けましょう。