東京で大崎事件の集会が開かれる

 2015年4月13日17:00から、東京霞ヶ関弁護士会館2階講堂クレオで、「大崎事件第3次再審請求へ向けての集会−再審開始決定を勝ち取るために」が開催されました。138名の参加で、盛況でした。
 日弁連谷萩陽一副会長と、弁護団長の森雅美弁護士から、1日も早く再審開始がなされなければならないとのあいさつをいただきました。
 その後、弁護団の鴨志田佑美事務局長が、第2次再審請求までの総括として、事件の概要を説明しました。確定した有罪事件について、再審請求審のなかで、証拠が開示される例とされない例があり、開示されると、その中に無実の証拠が入っている場合がある。しかし、開示は裁判所の裁量に委ねられているので、法制度化が必要であるなどと述べました。
 弁護団佐藤博史弁護士は、第2次再審請求の到達点と第3次再審請求への展望について述べました。第2次再審で、心理学鑑定が新証拠として価値を認められていること、争点となっていなかったものの供述を理由として有罪とされたので、この供述について心理学鑑定がなされれば、第2次再審の枠組みでも再審開始決定が得られるはずだと述べました。
 淑徳大学の大橋靖史教授は、「供述心理分析の手法と供述の信用性評価」について基調講演され、以下のように述べられました。
 供述心理分析は、内容についての検討ではなく、変遷の特質分析である。殺人と死体遺棄に関する主なトピックをピックアップすると、特定のトピックで特徴的な変遷が起こっている。それが共犯者同士の相互行為調整場面である。 1989年にGriceが「協調の原理」として、「量の公理、質の公理、関連性の公理、作法の公理」を遵守しているか、というモデルを確立した。
 協調の原理から極端な逸脱がないか、相互行為調整の不成立に結びつく混乱の有無を検討した。直前に出席した披露宴のことを思い出して語るところでは十分な「協調の原理」遵守状況があるが、殺害・死体遺棄の共謀を巡る場面では極端な逸脱が繰り返されている。供述者の知的障がいと言うことでは説明できない。非体験供述と考える方が自然である。
また、えん罪被害者として、袴田巌さんのお姉さんの袴田ひで子さんと、足利事件菅家利和さんから、エールをいただきました。
後半に、パネルディスカッションが行われました。
 布川事件の桜井昌司さんは、「心理学鑑定の話を聞いて、取り調べのことを思い出した。現場のことは警察が誘導してくれるが、杉山(共犯者とされた方)との会話はわからなかった。実際は話してないから。調書は警察が教えてくれたとおりのことが書いてある。」「DNAでしか無罪にならないなら、裁判官はいらない。機械をつけとけばいいだけの話だ。きちんと裁判の役割を果たしてほしい。」と、刑事裁判の問題点の本質をユニークに指摘されました。
青山学院大学の高木光太郎教授は、次のように発言されました。
「供述した人の生の供述の方が分析材料として優れている。日本では、分析対象が供述調書という劣化したもので困難を強いられる。本件では、事前に何度も訓練した特殊部隊でなければ遂行できないほど、現場に向かう過程や現場での殺害・死体遺棄に対する相互調整が欠けている。」「捜査側でも、取り調べのやり方を、職人技でない形で考えていこうという考え方が強くなっているのではないか。科学的な取り調べの方法についてお手伝いできることがあればやってみたい。」「録音、録画が出てくると、緻密な分析ができ、信用性のチェックもでき、担保もされる。時間がかかるが、ちゃんとした鑑定がなされ、裁判員裁判に提供されればよい。ただし、分析がないまま画像が流されると、曖昧な印象が強く残る可能性があって、逆にえん罪を生む可能性がある。」
弁護団の木谷明弁護士は以下のように発言されました。
「多くの裁判官は、再審開始決定を書くときには臆病になる。すでに最高裁まで行って確定している判決をくつがえすのは、尻込みしたくなる。一番簡単なのは、何も証拠調べをしないで棄却すること。高裁では、弁護団の言い分をもっともだと考えて証拠調べをしただろう。その結果、ますます弁護団の言い分をもっともだと考えただろう。そこで、ますます臆病になったのではないか。」「事実認定は、裁判官の専権だという意識が強かった。心理学の鑑定も進歩している。隣接科学の知見から、事実認定に役立つものが作られているのだから、謙虚になって、積極的に活用して事実認定を行うべきだ。」「証拠開示に消極的なことは問題がある。再審時点では、関係人に働きかけるなどの開示に伴う問題点が考えにくい。通常審でも全面的証拠開示でよいと思うが、再審段階で無罪の証拠を隠したまま有罪を維持することは許されない。」「原口さんを救えなければ何のための刑事裁判か。何のための再審制度か。」
日本国民救援会の瑞慶覧淳さんは、「再審請求手続きを初めから見ていたものとして、棄却決定は腹立たしい。再審開始決定がでるかでないか、全国でせめぎ合いになっている。DNA鑑定のような明らかな証拠がないと再審開始決定がでない状況ともいわれる。布川事件のように、白鳥決定を生かして決定的証拠がなくても再審開始がなされる必要がある。」「公正な証拠がきちんと提出されるというのが国民にとっても納得が得られるはずだ。全ての事件で証拠開示することを制度として保障すべきだ。」「一貫して否認して戦い続けている原口さんが生きているうちにえん罪が明らかにされなければならない。」とおっしゃいました。
「原口アヤ子さんの再審をかちとる首都圏の会」の松木圓さんから、会が10年前に結成されたこと、このとき、原口アヤ子さんが、第1次再審の特別抗告審のために東京で活動されたことに感銘を受けたこと、ところが、活動半年で棄却されてしまったこと、その後、新聞の発行、現地調査、署名、街頭宣伝などに取り組んでこられたことを報告されました。
 周防正行監督は、「再審事件で証拠を開示する仕組みが作られないのは、えん罪が暴かれることを恐れているからだろう。えん罪事件に対して、再審請求を棄却する方が勇気がいるような状況が必要だ。」と発言されました。
 成城大学の指宿信教授は、「鹿児島大学で教えているときにこの事件と出会った。まだ解決しないことには腹立たしい思いがある。東京でこの集会ができたことをうれしく思っている。私もこの事件のために微力を尽くしたい。」と発言されました。
最後に、日弁連人権擁護委員会の市川正司委員長から「再審についてまさに一進一退のせめぎ合いがなされている。大崎事件では心理学鑑定という先進的な取り組みがなされている。市民の方々が、裁判所に厳しい目を向けていることが大事だと思います。この集会は、そのような活力をいただいたのではないか。日弁連としては、全力で支援していきます。」とのあいさつがなされました。