札幌地裁、立法による除斥解決を求める

2011年6月24日11:00から、札幌地方裁判所で、B型肝炎訴訟の和解協議期日が開かれました。
 当事者間で基本合意書案が整ったことが確認され、佐藤弁護団代表と、谷口三枝子原告団代表から、和解協議を主宰した裁判長に対する感謝の意が表されました。
 それに引き続き、裁判長から、以下の発言がありました。
「きわめて多数の被害者を生み出した大きな紛争を当事者の互いの譲歩で解決するということは、日本の民事訴訟の歴史でも希有のことだと思います。ご尽力頂いた当事者に敬意を表したい。国の過誤によって感染被害を受けた被害者を救済することになります。救済である以上、被害者が生きていらっしゃるうちに救済を受けて頂くことが肝要です。可能な限り,原告が生きているうちに,和解を成立させてもらいたい。基本合意書にも迅速な和解がうたわれていますが、あらためて、国も時節柄大変だと思いますが、原告から資料を受け取ったあと、迅速に検討頂き、速やかに和解を進めて頂きたい。
 肝硬変、肝ガンの被害者の方々は,過去の賠償というより,今後の生きるための和解をするんだという気概を持って和解金をご自身で受けとって頂きたい。
 今後の手続きを進めるにあたって、C型肝炎の時のように立法措置がとられることと思います。基本合意は当事者の互譲によって成立したもので、これがベストということではありません。救済の範囲、額、方法、とりわけ最後に除斥期間の問題が争点となりましたが、立法措置の際には,あらためて国会その他の場で御討議頂いて、よりよい解決をして頂ければと思います。
 これまで,言う機会があまりありませんでしたので,この場をかりて申し上げます。B型肝炎被害でお亡くなりになられた方々について、ご冥福をお祈り申し上げます。
基本合意の成立は、通過点です。これから事を進めていきましょう。全国の方々はお会いする機会があまりなくなるかもしれませんが、各地で手続きを進めて下さい。」
6月28日午後に、細川厚生労働大臣との間での基本合意書の調印と、菅首相の謝罪が受けられることが正式に決まりました。

 記者会見で、全国原告団代表の谷口三枝子さんは以下のようにあいさつを述べました。
「国を相手に闘うと言うことがどういうことか、思い知らされた3年間でした。患者達が力を振り絞って、今日の日を迎えることができました。裁判長から、国会の場でよりよい解決を願いたいとか、和解手続きは迅速に進めてほしいという言葉をいただきました。
 今日、私は、初めて和解のテーブルに着きました。裁判長に『裁判所の仲介のもとに、今日、ここまでたどり着くことができました。裁判長のご尽力に、こころからお礼申し上げます。』と申し上げました。すでに原告は16名お亡くなりになっています。菅首相、細川大臣には、1日も早く救済して頂けるようお願いしたいと思います。3年間走り続けて、ようやくゴールに来たという思いです。これからも原告団一致してがんばっていきたいと思います。」
以下、全国の原告のコメントや、質疑応答です。
高橋朋巳北海道原告団代表:恒久対策が不十分。加害者である国は、何をするべきか、自分で考えて積極的に行動してほしい。
 高橋元一北海道原告団副代表:今日、基本合意と言うことで非常にうれしい日であります。だけど16人亡くなった。もっと早く合意してほしかった。裁判長は、今後の個別和解の手続きが迅速に進むことを希望すると言われました。原告全員、裁判長と同じ気持ちです。それと、立法がされるときには、さらによい内容になることを期待する、この裁判長の言葉は、我々の気持ちを代弁していると思います。
 私は、裁判が始まって約30回東京に行きました。寒い日、暑い日がありました。前日に呼び出された日もありました。体調が悪い日もありました。今まで行動してきたことは間違いではなかったと思っています。これから立法措置という戦いがありますけれども、皆様方の支援をよろしくお願い致します。
 清本太一北海道原告団副代表:今日、何とかお互い納得できる和解案を確認したと言うことで、ひとまず一定のめどはついたんだと思います。
 肝硬変になって4年、負担は大きいけれども、治療を受ければ仕事はできるので、患者にあった治療助成制度を求めていきたいと思います。今日の日を迎えて、うれしいという気持ちにはなれない。(提訴後亡くなられた)大竹さんが隣にいないのは残念です。
 岡田京子東京原告団代表:今日、裁判長のお言葉として、被害者が生きているうちに早期の和解を、生きるための和解にするようにと言う言葉を聞きまして、正直驚きました。なぜかといいますと、今まで札幌に来て、原告団一丸となって被害や要望をお伝えしてきたわけですけれども、それがことごとく伝わっていないように思っていました。今日に至るまで、何も手応えのないまま活動を行っていくつらさがありました。今日のお言葉を聞きまして、裁判所にはきちんと伝わっていたんだな、と思いました。
 本来ならば、今日の裁判長のお言葉を、来週予定されている総理、細川大臣の面談に、直接お耳に入れてほしいが、かなわないとしても、マスコミの方々には是非お伝えして頂きたいと思います。
 増税論について、いつも絶妙のタイミングで報道されています。私たち原告被害者はとても傷ついています。今、国が行うべきことは、全国民へのこころからの謝罪と、被害者の掘り起こし、被害者が生きているうちに救済策をとることのはずなのに、そういう報道がされるというのは怒りがわいてきますし、とても悲しいことでもあります。
 今日も含め、28日、謝罪の日に私たちを傷つけることのないよう、こころから願っております。
 合原京子九州原告団副代表:今年3月から数回和解協議を傍聴致しまして、今日ほど裁判長にお礼を言いたい気持ちになったのは初めてでした。生きているうちに和解金をご自身で受け取って下さい、という言葉と、除斥期間について、国会で解決して下さい、と言う言葉をお聞きして、原告団の気持ちを理解して頂いたと思いました。裁判長にお礼の言葉を伝えたい。
 先週、増税の話が持ち上がり、とてもつらい。私たちの落ち度で感染したわけではないのに、私たちのことを突破口にして増税をしようとしている。私たちは全員、国の謝罪がほしい。なぜ多くの被害者が出たのかの説明をしてほしい。増税の話が出るたびに怒り心頭です。
 首相と細川大臣に面談できるようになりました。病気を治す薬がありません。新薬を作って下さい、と言うことをお願いしたいと思っています。皆様のご協力をお願い致します。
 広島原告19番:除斥対象原告です。この和解手続きの行く末を見届けたいと思いまして参りました。最後まで和解協議が長引きましたのは、除斥原告がデッドロックにあがっているからと言うことで、心苦しい思いをしてきました。
 私たちは、和解所見を飲むという場面で苦渋の選択をしなければならなかったんですけれども、今日の裁判長の所感で、除斥期間を経過した被害者を救うことにつながればと思いました。私は、これをステップに、希望をつないでいく行動ができればなあと思っております。
窪山寛九州原告:やっと、歴史的瞬間がやって参りました。この北海道に10度足を運ばせて頂きました。これまでは非常に苦しい思いで九州に帰りました。つらいです。悲しいです。国策でこの病になり、3年間闘って参りました。私は3年前死の宣告を受けました。私は、この問題を訴えていくことが私の使命だと思って闘ってきました。菅首相から謝罪の言葉を聞きたいという思いで闘ってきました。
私たちの団結は揺るぎません。まだ、B型肝炎訴訟は終わったわけではありません。
 まだ、未提訴の方々の力になっていきたいと思っております。

 つづいて、谷口代表から、増税論報道がなされないよう求めるコメントがありました。

Q:45万人という推計があるが、今後どのくらいの救済対象者と考えられるのか。
奥泉:各弁護団それぞれの考えがあるが、私個人の考えとしては、提訴できる方は10分の1くらいだと思います。国の推計が正しいかどうかも問題ですが、仮に正しいとしても、個別救済できるのは数万人ではないかと思います。
Q:(谷口代表に)これから首相の謝罪を受けた後の原告団の活動は、どういうところに主眼をおいていくのか、お聞かせ頂きたい。
谷口:私たちが、「B型肝炎患者です」と堂々と言える社会にすること、健診でB型肝炎の血液検査を呼びかけて頂くこと、多くの被害者がいて、長年放置されたことで証明ができなくなった方々を含めた恒久対策がなされること、同じ立場の被害者が一日も早く救済されること、これが実現するまで戦い続けます。
Q:今後の和解手続きとスケジュールは?
奥泉:裁判所も、一日も早い和解の実現をとおっしゃっています。今、医療記録を集めていますので、7月の期日の前にでも出せるものは出したいと思っています。
Q:協議の場の位置づけについて、肝炎対策協議会との棲み分けは?
佐藤:原告団弁護団との協議の場が持たれると言うことは同意している。B型肝炎患者固有の状況を知って頂いた上での政策反映をして頂く必要がある。肝炎対策協議会が、政策のプロセスと言うことは理解しているが、われわれは政策に反映させる場を設けるよう求めているつもりです。
Q:裁判長がこういう所感を示すことは異例な対応か?
奥泉:そういう例がないわけではないが、原告の思いを汲んでいってもらったというのは珍しいと思います。
Q:掘り起こしに向けた障害と、それをどう乗り越えていこうと思っているのか、国にはどういう対策を望んでおられるのか。
奥泉:「集団予防接種でたくさんの人が感染しているのだから、」B型肝炎の検査を受けましょうという活動は未だなされたことがない。検査の充実、推進も大きなポイントで、検査を受けるための動機付けも、今後国がきちんと述べることが必要。
谷口:国の血液検査の呼びかけもそうですが、私は、最高裁判決の記事を新聞で見たことがきっかけで裁判に加わりました。今度は、この記事をみた多くの人が原告に加わって頂きたいと思います。被害者全員が立ち上がって、1日も早く救済されるようにしてほしい。
Q:谷口さんは、訴訟は3年だが、発症から数えると20年以上になると思いますが、どのようなお気持ちですか?
谷口:発症から22年たちました。肉体的苦しみ、差別・偏見、死にたいと思うときもありましたが、子どものことがあって、死ぬことはできませんでした。まさかこのような日が来るとは思いもしませんでした。先行訴訟の17年間闘った5人の原告、弁護団のおかげで今日の日があると思います。しかし、親子3人の体の中にウイルスはいます。これからも戦いは続いていきます。