日弁連人権大会シンポ「デジタル社会の便利さとプライバシー」

2010年10月7日12:30から、盛岡市ホテルメトロポリタン盛岡NEW WINGで、日弁連人権大会シンポジウム第2分科会「デジタル社会の便利さとプライバシー」が行われました。
 はじめに基調報告が行われ、実行委員の二関弁護士から、ライフログ問題について報告がありました。続いて、齋藤弁護士から、電子マネーについて報告がありました。
 続いて、私から、「監視カメラによる人の移動履歴の監視〜あなたの移動履歴が、インターネットで検索できる時代に〜」と題して、監視カメラを用いた人の行動の検索問題を説明しました。
 パワーポイントを用いて説明しましたので、以下に概要を示します。
「 私からは、監視カメラを用いて行うことのできる人の移動履歴の監視について、ご報告致します。かつてはSFの世界に過ぎなかった、1人1人の市民の移動履歴が、インターネットで検索できる時代が来ました。
<品川駅のデジタル・サイネージ>
 はじめに、監視カメラの高度化についてお話しします。
 今年、JR品川駅構内には、客の顔を見て性別と年代を識別し、オススメ商品を案内してくれる親切な監視カメラ付き自動販売機が設置されました。画面に映っているように、「おすすめ」という赤い目印が現れて、あなたにオススメの飲み物を教えてくれます。
 総合司会をしている30代の男性には、コーヒーとビタミンウォーターがオススメだそうです。
 40代の男性には、ゆずレモンと緑茶がお勧めされました。
 さらに年配の女性には、ゆずレモンと爽健美茶がお勧めされました。
 男子高校生には、コーラやアセロラ茶がお勧めされました。
 しかし、この高校生は、ちゅうちょなく、ティーティーという紅茶を買いました。
 別の高校生も、勧められていないオロナミンCドリンクを一瞬で買いました。このようなオススメ機能は本当に便利でしょうか?機械に教えてもらわなくても、自分の飲みたいものぐらいは、自分で決められるのではないでしょうか?
<3次元顔形状データベース自動照合システム>
 監視カメラは、単に、性別や年代だけでなく、どこの誰かをピンポイントでとらえることもできます。
 顔認識システムとは、人の顔の画像から、目や耳、鼻などの位置関係を瞬時に数値化し、あらかじめデータベースに登録された要注意人物の顔のデータと自動的に照合するものです。
 東京都は、2008年に、平面の写真1枚から、立体の3次元の画像に変換するシステムを開発して、それを警視庁のサーバーに登録し、防犯カメラから送信された顔とデータを自動照合するシステムを10年以内に開発するとしています。
<不審者検出機能>
 監視カメラの高度化には、不審者検出機能もあります。
 昨年12月にJR川崎駅前に警察庁が設置した監視カメラは、いつもと違う不審な動きをする人を検出します。
<不審者の検索>
 この機能と、先ほどの顔認識システムを組み合わせると、まちかどの監視カメラを使って、不審者の検索をすることができます。産官学連携によるITの実用化をめざす秋葉原先端技術実証フィールド推進協議会は、秋葉原の家電量販店で、昨年6月に、その実証実験を開始しました。
<人の会話を録音する監視カメラ>
 監視カメラの高度化には、人の会話を録音する防犯カメラもあります。
 今年4月の日経新聞によると、一部のタクシーや病院には、客の会話を録音し、顔を録画する監視カメラが設置されています。
 ファミリーマートでは、ほぼ全店のレジ周辺で、録音機能付き監視カメラが設置されています。ファミリーマートの説明によると、「防犯カメラ設置中」という表示だけで、「録音と録画の両方をお客様に了解頂いている」そうですが、みなさん、了解されていますか?
<監視カメラネットワーク>
 監視カメラの高度化の最後に、監視カメラネットワークの形成があります。
 グーグル社のストリートビューサービスでは、日本全国の都市の地図をクリックすると、ある日の道路沿いの風景がすべて閲覧できます。サービスが開始された2008年8月には、路上でキスする高校生や、立ち小便をするおじさんなどの写真が、地図上の特定の場所とセットになってさらし出されました。また、自宅住所が知られている人は、どんな家に住んでいるのかを世界中からのぞき見されてしまいました。
 みなさん、Webカメラ網をご存じでしょうか。街角に設置されている監視カメラを、全国の地図の中から検索して、インターネット上で誰でもみることのできるものです。
 日本地図の中の、岩手県をクリックすると、岩手県内で、インターネット上に公開されている監視カメラの場所が表示されます。
この盛岡駅周辺にも、これだけの公開されている監視カメラがあります。
 たとえば、この会場の近くにも、2秒ごとの静止画像が、24時間公開されている場所があります。
 コインランドリーの中の様子を、インターネット上で公開しているホームページもあります。
 ある日の、ある店舗の様子です。女性が、洗濯物を広げています。
 5秒おきの画像が流されていて、客の行動をみることができます。
 店に事情を聞いたところ、この映像を公開している目的は、「お客様に、来店前に店の混み具合を見てもらうため」だそうです。ただし、実際に、設置後、お客さんから、混み具合を見ることができてよかったという意見は1回も聞いたことがないそうです。本当にここまでする必要性はあるのでしょうか。
若い女性や、その洗濯物が鮮明に写っても、問題はないでしょうか。
<監視カメラの増殖>
 続いて、監視カメラの増殖について指摘します。人は、一歩外に出たらもう逃れられないほど、監視カメラが増殖しています。
 JR埼京線では、痴漢防止を目的として、電車内に防犯カメラが設置されました。防犯効果があったという報道がありましたが、日弁連の調査によると、JR東日本は、痴漢の発見数や検挙数のデータをもっておらず、報道で防犯効果を知ったという説明でした。
 警察は、効果があったと説明しているそうですが、未だに、このカメラで検挙された人は報道されたことがありません。そもそも、ラッシュアワーの車内で、痴漢の手の動きをとらえるように監視カメラを設置することはできるのでしょうか。落ち着いて、よく考えてみる必要があります。
 タクシーの車内にも、監視カメラが次々に設置されています。会話の録音機能付き監視カメラもよく設置されていますから、みなさん、今後は十分気をつけてください。
 タクシーには、交通事故の現場を記録するための、外向きのドライブレコーダーという監視カメラも設置されています。
 警視庁の府中警察署は、2007年、管内のタクシー会社3社と画像の提供を求める協定を結びました。府中署の幹部は、「動く防犯カメラが町のあちこちにあるのと同じ」と期待しているそうです。
 京都市が運用している市バスでも、外に向けた監視カメラの画像を京都府警に提供することを検討しています。ドライブレコーダーを取り付けること自体は、個人情報保護審議会の承認を得ており、それを警察に提供してよいかについて、10月末の審議会で審議される予定だそうです。
 道路を歩いているときに油断していると、タクシーやバスの外向きの監視カメラを通じて、あなたの行動が警察に筒抜けになるかもしれません。デモ行進をしたり、ビラ配りをしようと思っている人は、気をつけてください。
 空港でも、金属以外の爆発物を検知するために、裸同然の姿を映し出す監視カメラの設置が進んでいます。セクシーな画像が収集されるおそれもあります。
 このように、人は一歩外に出たら、監視カメラによる撮影と画像の記録から逃れることはできない社会になりつつあります。
<警察などによる市民情報の集約>
 警察などの公権力は、このような画像情報を集約しようとしています。
 今年4月に出された警察庁の通達によると、自動車のナンバー読み取りを行うNシステムや、防犯カメラ画像、携帯電話の通話履歴を客観証拠として積極活用することを謳っています。
 なかでも、民間の防犯カメラについては、設置場所を都道府県ごとに確認して、CIS−CATSというシステムに登録しています。
 CIS−CATSとは、犯罪統計、犯罪手口等の情報を電子地図上に表示し、他の様々な情報を組み合わせるなどして犯罪発生場所、時間帯、被疑者の特徴等を分析し、ようげき捜査を支援するために都道府県警に配備されているシステムです。ようげき捜査とは聞き慣れない言葉ですが、警察庁の説明によると、「犯行予測に基づき捜査員を先行配置して検挙する捜査」だそうです。マイノリティ・リポートというアメリカの映画で描かれたSFの世界が、まさに現実の政策課題として設定されています。しかし、本当に犯罪現場に犯人より先に到着して、犯人を検挙することは可能でしょうか。可能なら、ノーベル賞ものですが、税金を投入するだけの科学的根拠はあるのでしょうか。
 このような防犯カメラのネットワーク化、警察への集約を進めるため、仙台市の歓楽街では、民間の防犯カメラを交番につなげました。昨年、警察庁は、直接自分の手で全国15カ所の住宅街に防犯カメラを設置しました。しかし、犯罪多発地帯以外に、警察が監視カメラを直接設置してよいという判決は出たことがありません。しかし、現時点では法律による規制は全くありません。
 2007年に発表された内閣府によるイノベーション25という閣議決定によると、2025年にめざすべき日本の姿として、「センサによる自動認識・自動監視等」が生活環境の随所に張り巡らされることや、「自動検知システム等」が至るところで活用されることが描かれています。
<監視カメラに対する法的規制の必要性>
 監視カメラは、このような政策のもと、今後ますます街中にすきまなく張り巡らされていくでしょう。
 しかし、そもそも、監視によって得られる客観的な安全の利益と、監視によって失われる、人が自由に行動する利益を、きちんと天秤にかけて、私たちの未来を描くべきではないでしょうか。
 日本弁護士連合会は、今年1月、グーグル社のストリートビュー・サービス等の「多数の人物・家屋等を映し出すインターネット上の地図検索システム」について、民間事業者であっても、インターネット上で公開することを前提として、大量の人を撮影する行為については、その必要性とプライバシー権との比較考量が必要だという意見を出しています。
監視カメラに対する法的規制も必要なのではないでしょうか。
 目先で唱えられる便利さや安心感ではなく、もう一歩踏み込んで、本当に実現したい私たちの未来を是非一緒にお考え下さい。」

 なお、この後、吉澤弁護士による税・社会保障番号に関する説明が、また、豊永弁護士から、理論班の検討とまとめについての報告がなされました。
 また、森田弁護士の監修による「伊野辺家の憂鬱な一日」という劇がDVDで流されました。
そして、Dr Martin Pohl、高間氏、田村氏、水永弁護士によるパネルディスカッションが行われました。
 観衆は約420名の盛況でした。