北海道新聞社説「和解の意思が見えぬ案」

 以下に引用するような北海道新聞の社説が出ていました。正鵠を射たものです。
 被害者への賠償額を削る理由として、国が「集団予防接種で公衆衛生の改善が図られたこと」を挙げていますが、その予防接種を法律で強制されて打たなければ、B型肝炎ウイルスに感染することなく、肝ガンにならずに天寿を全うできたはずの多数の死亡被害者らの遺族は、どういう思いでこの加害者・国の意見を受け止めればいいのでしょうか。
 官僚の感覚は全く理解できません。加害者という自覚は無いと言うしかないでしょう。

B型肝炎訴訟 和解の意思が見えぬ案(9月7日)

 B型肝炎北海道訴訟の第3回和解協議で、国側が和解案の全体像を示した。

 原告の主張とは大きな隔たりがある。札幌地裁が和解勧告の際に示した「救済範囲を広くとらえる方向」との指針にも反する。国は本気で和解する意思があるのかと問いたい。

 幼いころに受けた集団予防接種で、注射器の使い回しによってB型肝炎ウイルスに感染したとして、道内の患者ら75人が国に損害賠償を求めている訴訟である。

 最大の争点は接種を受けたことの証明だ。

 国側は従来示してきた母子手帳自治体の接種台帳による確認に加え、新たな証明法として接種痕を基にした確認を提案した。

 だが、中には接種痕が残らないケースがあることを、国自体が認めている。本来救済されるべき人が救われずに残る懸念が強い。

 原告側の「予防接種は義務化されていたのだから、幼少時に国内に居住していたことが分かれば、原則的に接種の証明になる」との主張の方が説得力がある。

 賠償金支払いの対象を発症者に限定し、感染しているものの発症していない人を除外するとしたことも理解できない。仮に未発症者には被害が及んでいないと考えているとしたなら、大きな間違いだ。

 いつ発症するかもしれないという恐怖、感染に対する社会の偏見や差別など精神的苦痛は計り知れない。

 未発症者を対象としない根拠は、不法行為から20年で損害賠償の請求権が消滅するとした民法除斥期間の規定だ。接種から20年以上たち、請求権はないと国は主張する。

 しかし、B型肝炎に関する別の訴訟で最高裁は2006年、除斥期間の起算点は発症時と認定している。これに照らせば、未発症者に関する起算点は接種時ではなく、感染の事実を知った時とする原告側の主張の方が妥当ではないか。

 賠償額について国は、「06年の最高裁判決(原告1人当たり550万円)を踏まえた合理的水準に設定」との考えを示した。

 これでは同じ最高裁判決を、自らの都合のいいように使い分けていると批判されても仕方あるまい。

 原告が求める賠償額は薬害肝炎救済法の給付水準(1200万〜4千万円)だ。この求めに応じようとしない理由に、集団予防接種でわが国の公衆衛生の改善が図られたことを挙げ、多額の賠償金は国民の理解を得られない、としている。

 論理のすり替えと言うほかない。原告は国の政策により健康を侵された被害者だ。国には十分に補償する責任がある。