総務省によるストリートビュー報告書案

 2009年6月22日、総務省「利用者視点をふまえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」は、第一次提言(案)を公表して、グーグル社のストリートビューサービスについて、プライバシー侵害の違法性はなく、個人情報保護法違反もないという意見を表明しました。
 肖像権侵害については、「道路周辺映像サービスの目的は地図情報の提供であって人の容貌の公開自体が目的なわけではない。撮影態様についても公道から周辺の情景を機械的に撮影しているうちにたまたま居合わせた人の容貌が入り込んでしまったにすぎないことから、特定の個人に焦点を当てるというよりは公共の場の情景を流すように撮影したものに類似する。したがって、ごく普通の服装で公道上にいる人の姿を撮影したものであって、かつ、容貌が判別できないようにぼかしを入れたり解像度を落として公開したりしている限り、社会的な受忍限度内として肖像権の侵害は否定されると考えられる。
したがって、肖像権との関係でも、サービスを一律に停止すべき重大な問題があるとまではいい難い。」そうです。
 グーグルの目的という主観面(人間ではなく、会社なのに、その主観的意図がとても大事にされています)を考えると、「人々の姿を世界中に見せようと思って見せたわけではない」「町並みを見せようと思っていたら、たまたま人が写っていただけだった」から、人の肖像権は、保護に値しないそうです。
 この論で行くと、「おれは、人の姿を整理して、インターネットの上に公開したい」と思った人が同じ行為をすると、肖像権侵害になるでしょう。
 また、この人が本音を隠して、グーグル社と同じ弁解をしたら、どうするのでしょうか。表面上の目的が「一応正当」で、「悪気はなかった」ら、適法になるのでしょうか。
 どうしてこんなに結論になったのだろうか、と思ったら、これをまとめた「インターネット地図情報サービスWG」は、グーグル社の藤田一夫氏や、同様のサービスを提供している情報産業のメンバーが構成員に入っていました。
 つまり、この研究会は、公正中立な第三者機関ではなく、グーグル社の担当者が入った、当事者の研究会(なのに総務省の研究会でもある)でした。
 この研究会は、「利用者視点をふまえ」るというお題目を掲げていますが、結果として、「問題をはらんだ高度通信技術のサービス提供者」の視点の報告書が作成されるのは必然だと思いました。
 この研究会には、いくら税金が投入されているのでしょうか。
 問題があるのではないか、と市民や自治体から指摘を受けている相手方をメンバーとして、その対策を考え、問題がないというお墨付きを与えて、市民の問いに答えるとは、なんとすばらしいことでしょう。こんなミラクルなやり方を国がするとは、私は思いもつきませんでした。さすがにわが国の官僚は優秀ですね。
 法務省の下に、人権擁護機関を設置する法案が長年くすぶっていますが、公権力が人権を擁護すると、人権侵害にお墨付きを与えたり、見逃してくれるようになるという危険があることを日弁連は主張しています。今回の総務省の報告書案は、参考になるのではないでしょうか。

結論: プライバシー保護、個人情報保護には、「公権力から独立した第三者機関」が不可欠である(日弁連)。