福岡市が街頭監視カメラを設置しないよう求める声明

3月6日に、福岡県弁護士会は、下記会長声明を公表しました。

千葉県市川市と同じようなことを、条例すら作らずに設置しようとしています。

https://www.fben.jp/suggest/archives/2020/03/post_378.html

福岡市は、2020年(令和2年)度一般会計予算案に2522万円を計上し、天神・大名地区と博多駅筑紫口地区の街頭を監視カメラ約20台で監視しようとしている。
上記監視カメラの設置目的は、風俗営業法や福岡県迷惑行為防止条例、福岡市「人に優しく安全で快適なまち福岡を作る条例」では処罰対象となっていない飲食店等への客引き行為を抑止するためとされている。
 しかしながら、録画される対象のほとんどは罪もない多数の市民であり、肖像権(憲法13条)侵害が著しいため、当然に許されるものではない。法律で認められた警察の捜査活動でさえ具体的な犯罪の嫌疑を条件として許され、その場合でも、基本的人権を制約する場合には法令の根拠を必要とし(強制処分法定主義)、令状がなければ原則として行えないというのが憲法刑事訴訟法の考え方である。
 警察自身による監視カメラの設置でさえ、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷監視カメラ判決(東京高判昭63.4.1)などによれば、①犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、②証拠保全の必要性・緊急性、③手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められないとされている。また、西成監視カメラ判決(大阪地判平6.4.27)では、「特段の事情がない限り、犯罪予防目的での録画は許されないというべきである。」として、犯罪予防目的での監視カメラの設置を明示的に禁止している。
 そもそも福岡市には、警察のような捜査権限はなく、犯罪捜査目的の活動は許されない。福岡市は犯罪に該当しない行為を監視対象としているが、「モラル・マナー」の保護という犯罪捜査より軽度の利益を優先して、罪もない市民を無差別に撮影し、市民の肖像権や行動の自由を制限することは決して許されるものではない。
福岡市は、データを外部に提供し、人工知能(AI)を活用した映像解析技術による客引き対策の実証実験も行おうとしている。しかし、AIを手段とする監視が著しい人権侵害を招きかねないことは、当会が2014年(平成26年)5月27日に「法律によらず顔認証装置を使用しないよう求める声明」で指摘したところである。「モラル・マナー」違反の行為に対して、自治体がAIを使用した監視実験を行うことは著しいプライバシー権侵害である。
 基本的人権を制限する場合、法律・条例の制定過程を通じた慎重な議論が不可欠であり、そのような過程を経ることなく、予算措置だけで監視カメラを設置し、AIによる監視実験を開始することは、安心という価値に著しく偏った、罪のない膨大な市民に対する人権侵害である。
 当会は2007年(平成19年)以降、反対の意見を述べているにもかかわらず、なんら法律が制定されないまま街頭監視カメラが増設されていることに対し強く遺憾の意を表するとともに、少なくとも適切な法律・条例が制定されるまでの間は、監視カメラの設置・運用を中止するよう強く求める。

2020年(令和2年)3月 6日

福岡県弁護士会会長 山 口 雅 司

「歯科の感染対策」を考えるシンポジウムにご参加下さい。

「患者の権利法をつくる会」の発行する「けんりほうnews vol.261」に、下記原稿を投稿しました。

1 シンポジウムのご案内

 2019年10月26日14:00~17:00,四谷主婦会館プラザエフ7階カトレアで、「歯科の感染対策」を考えるシンポジウムを開催します。是非ご参加下さい。

2 B型肝炎訴訟の経過

  私は、全国B型肝炎訴訟九州弁護団事務局長をつとめております。(B型肝炎訴訟というと、最近はテレビコマーシャルが定着し、80年頃の懐メロに乗せたものも登場していますが、私たちは、このようなテレビコマーシャルは一切行っていません。)

 幼少時に受けた予防接種のときの注射器(針、筒)の連続使用によって、B型肝炎ウイルスに持続感染したとして、平成元年に札幌地裁で5名の原告が実施主体である国を訴えました。しかし、持続感染後の慢性肝炎発症には通常20~30年の潜伏期間が伴うことから、持続感染した原因を特定することが困難ではないかと予想されていました。1審は因果関係を否定しました。しかし、札幌高裁は、浄土宗の僧侶でもある与芝真彰医師の意見書と証言を採用し、B型肝炎ウイルスの持続感染が成立しやすい幼少期における感染原因が、キャリアである母親からの感染以外では、日常生活ではほとんど想定しがたく、注射器の連続使用以外に具体的な原因となり得る行為が考えがたいとして、因果関係を認めました。最高裁も、2006年、原告らがB型肝炎に持続感染したり、その結果慢性肝炎を発症したりした原因が、国による予防接種時の注射器の連続使用にあるとして、その責任を認めました。

 ただ、被害者が膨大な数に上ると考えられたためか、厚生労働省は、被害者の救済を進めなかったため、2008年に10地裁で集団提訴をしました。福岡地裁と札幌地裁の審理は、メディアでも大きく取り上げられました。札幌地裁での和解協議を経て、2011年6月には、被害者の認定基準と症状別の和解金額に関する枠組み合意である基本合意が原告団弁護団厚生労働大臣とのあいだで締結され、当時の菅首相原告団に正式に謝罪し、B型肝炎根治を目指す薬剤の開発支援を約束しました。

3 再発防止の課題としての歯科の感染対策

 注射器の連続使用は、レアケースでない限り再発を心配する必要がないかもしれませんが、全国B型肝炎訴訟原告団弁護団が取り組んでいる再発防止の課題として、歯科の感染対策があります。

 2014年、読売新聞は、国立感染症研究所が調査した結果として、歯科で口腔内で使用する医療器具であるハンドピースを、患者ごとに必ず交換している割合が34%でしかないため、院内感染が懸念されるという記事を公表しました。

 注射器の連続使用ほどではないとしても、感染リスクがあり、安全な医療のためになくなるべき医療器具の連続使用であるとして、全国原告団弁護団は、年1回の厚生労働大臣協議で、この課題の克服を求める活動をはじめました。

 2016年には、現場での遵守状況の調査を求め、2017年5月に公表された結果では、患者ごとに使用済みハンドピースを交換、滅菌する歯科医師は52%に上昇しましたが、100%実施にはまだ遠い状況でした。

 2017年には、当時の塩崎厚生労働大臣から、①標準予防策(患者が感染者であるか否かで区別することなく、すべての患者に対して同様に実践する感染防止策)の徹底が科学的に必要、②命にかかわる重要な問題でコストの課題があっても妥協は許されない、③標準予防策100%実施のために、今後も継続的に調査して向上を図る、④中医協で診療報酬上の対応も議論してもらう、との回答がなされました。

 それ以前は、口腔内で使用した医療器具の患者ごとの交換、滅菌は、AEDの設置などの他の要件を合わせて実践した場合に診療報酬の加算がなされる外来環の一要素とされていました。この年の中医協の結果、患者ごとの交換、滅菌が、基本診療料(初診料、再診料)で評価されるべきこと、つまり、原則としてすべての歯科医院で実践されるべきこととされました。(全国弁護団ホームページで、パンフレットを公表していますhttps://bkan.jp/dental_pamphlet.html

 実際に、現在は、新しい施設基準に基づく届出をしている歯科医院が90%を超えています。現場では、すべての患者に対して口腔内で使用する医療器具の交換、滅菌等が実践されるべきことが周知されつつあります。

4 残された課題

 他方、現場で、本当に標準予防策が徹底されているか疑問もあります。原告さんたちの実際の体験として、2018年にも、B型肝炎の感染を打ち明けたら怒られた、午後の一番最後に受診するように言われた、という事例が報告されています。

 確かに、以前は、歯科では問診によって血液感染しうるウイルス感染の有無をたずね、はいと回答すると別のイスに誘導したり、午後の一番最後に回されることがありました。しかし、そもそもウイルス感染を自覚しない患者が相当数存在する以上、すべての患者の血液を、感染の危険性があるものとして対応する、標準予防策が実践されなければなりません。このことは、1996年にアメリカのCDCで示されました。

 ところが、大学の歯学部においても、それ以前に卒業した歯科医師が、進展した感染予防策をフォローする制度が保障されておらず、ベテランの歯科医師ほど、感染申告をもとに区別する感染予防法、つまり標準予防策以前の古い危険な方法を維持しているというおそれがあります。2016年の調査によると、歯科医師のうち、標準予防策を理解していると回答した割合は、わずか47.3%でした。

 本年の大臣協議では、1996年以前に歯学部を卒業したベテラン歯科医師をターゲットにして、感染予防対策の講習を受けるよう促すとの回答がありました。

 診療報酬制度の変更に合わせて、現場で標準予防策が適切に理解され、実践されるよう、原告団弁護団ともこれから見守っていきたいと考えています。

 冒頭のシンポジウムは、原告団の報告のほか、東京歯科保険医協会理事である濱﨑啓吾氏の講演や、久留米大学医学部准教授の井出達也氏のパネリストとしての参加もあります。

 身近な医療機関なのに、意外と現状が分からない歯科の感染予防策について、是非一緒に考えましょう。ひとりでも多くの皆様のご参加をよろしくお願いいたします。

大垣事件「もの言う」自由を守る会3周年総会での講演

2019年6月2日、岐阜県大垣市で、大垣事件に関する講演をしました。

以下のような要旨でした。

 監視社会と大垣事件
1 監視社会の現状
 現在の監視カメラは、一定程度以上の画素数で録画されると、人の顔を指紋のように分析して、通りかかった人がどこの誰であるか特定できるようになっています。デジタル画像の中から、人の顔に当たる部分をまず抽出し、その特徴点をとらえて、あらかじめ登録された人物のデータベースとわずか数秒で何万人とも照合ができます。
 中国では、数億台の監視カメラが公共空間に設置され、歩行者が赤信号を無視するとすぐに罰金が自動的に科されたり、政府批判を行う政治犯を含む指名手配犯が3000人以上逮捕されたりしているとの報道もあります。
 我が国では、2008年に、東京都が「10年後の東京への実行プログラム」を作成し、テロリストや指名手配犯の検挙のため、平面の写真を立体視できるようにして、警視庁に保存する顔のデータと、送信される監視カメラデータを照合できるようにすることを目標としました。
 2014年度には、警察庁が5つの都県の警察に対して顔認証装置を配布し、「組織犯罪」に対して使用しています。その組織犯罪も、暴力団に限定されているわけではなく、外延がはっきりしません。そもそも法律に基づいて運用されていません。
 顔認証データは、指紋の1000倍の本人確認の正確性を有しているとされています。また、自分で指紋を押捺することなく、監視カメラの前を通っただけで顔認証データを知らない間に収集されてしまいます。そのため、いったんターゲットにされると、密かに過去から将来までの行動を検索することすら技術的には可能です。
 従って、監視カメラの画像は、公正中立な第三者である裁判所の令状によって収集するべきであり、どのような場合に顔認証装置を捜査に利用できるのかについては、あらかじめ法律で要件を定めるべきです。これは、欧米民主主義国家であれば当然のルールです。我が国は、デジタル捜査が飛躍的に進展した現在、適正なルール作りとそれに従った運用を確立できていない点で国際的に遅れており、市民のプライバシーが侵害されています。
2 大垣事件
 公安警察は、情報機関として、テロリストなどを監視するのが仕事であり、必要なく市民を監視することは許されません。
 北朝鮮や中国であればともかく、民主主義国家においては、単に政府批判を行うだけの行為は決して犯罪ではなく、民主主義の基盤をなす表現行為として手厚く保護されるべきですから、建前として、これを理由として監視することはできません。
ところが、許されないはずの行為が長年にわたって、かなり大規模になされていることを明るみに出したのがこの大垣事件ではないでしょうか。
 私は、戦後50年間にわたって不合理な隔離政策が続けられてきたハンセン病国賠訴訟や、戦後40年間にわたって予防接種時の注射器の連続使用が続けられてきたB型肝炎訴訟にかかわってきました。堂々と継続される不法行為の積み重ねに、被害者が「嫌だ」と、または行為者が「もうやめよう」と声を上げることが逆に難しくなることもあります。
 明確なルールも実効的な監督もなく違法な監視行為が継続されないよう、民主主義国家にふさわしい情報機関の活動となるよう、何らかの民主的コントロール化を図るきっかけとなるよう社会に問題提起を行うのが、この裁判の社会的役割だと考えます。

B型肝炎訴訟で、除斥期間に関する逆転不当判決

2019年4月15日に、福岡高裁で、一審勝訴(2017.12.11。ブログでも報告しています)の、慢性肝炎被害者で、国から除斥期間の適用を主張されている被害者2名に対する逆転敗訴の不当判決が出されました。

2018.10.15の高裁の第2回弁論期日で結審し、いったん2019.2.18に判決期日が指定されましたが、2018.12.14に、「裁判体の都合」という理由で判決期日が延期されていました(集会会場代1万3200円がキャンセルで全額無駄になりましたが、一言の断りもお詫びもありませんでした。市民感覚とはかけ離れていると感じましたが、判決が人質に取られているので、何も言えませんでした。)。

判決文は「なんとなく分かったつもりで結審してみたものの、判決を書こうとしたらよく分からなかったから延期してみた。きっとこういうことなんでしょ?」という感じですが、プロの司法記者ですら「何を言っているのかよく分からない」というお粗末な内容です。

理論的にも実質的にも不合理で、過去の最高裁判例にも反しているので、最高裁で必ず逆転できるものと確信しています。

以下、原告団弁護団の声明です。

 

2019(平成31)年4月15日

全国B型肝炎訴訟原告団弁護団

声明

 

1 本日、福岡高等裁判所第5民事部(山之内紀行裁判長)は、慢性肝炎が再発した原告2名の請求を認めた原審・福岡地裁判決(平成29年12月11日)を破棄するという不当判決を下した。

2 原判決は、HBe抗原陽性慢性肝炎発症時に、再発したHBe抗原陰性慢性肝炎の損害がすでに発生しているとみるのは非現実的であるとし、賠償を求めることは不可能であるとした。

そのような正しい医学的理解をもとに、被告国の除斥適用の主張を排斥し、原告の請求を認容した。

3 しかし、本件判決は、以下の理由で原審の正当な法的判断を覆した。

すなわち、HBe抗原陽性慢性肝炎発症後、セロコンバージョンした後のHBe抗原陰性慢性肝炎は、例外的な症例であるとともに、先に発症したHBe抗原陽性慢性肝炎と比較して、より進んだ病期であることは認めた。ところが、慢性肝炎は、長期の経過の中で、肝機能が軽快、増悪を繰り返すことがもともと多く、これらはすべてHBVへの免疫反応に過ぎない。核酸アナログ製剤が登場した現在では、HBe抗原陰性慢性肝炎の病状が重いとは直ちにいうことができない。そのため、HBe抗原陰性慢性肝炎がHBe抗原陽性慢性肝炎とは質的に異なる新たな損害とはいえないなどとした。

 しかしながら、本判決も認めるとおり、HBe抗原陰性慢性肝炎は、例外的であることから、最初のHBe抗原陽性慢性肝炎発症時において、客観的にその損害賠償請求権を行使することはおよそ不可能である。また、本判決も認めるとおり、HBe抗原陰性慢性肝炎はHBe抗原陽性慢性肝炎より進んだ病期にあり、投薬治療が必要不可欠であるから、より進んだ新たな損害に他ならない。

3 そもそも本件は、被害者らは、何の落ち度もなく、誤った国の公衆衛生行政によりB型肝炎ウイルスに感染させられた者である。

具体的事実関係を見ても、むしろ損害発生から20年間という除斥期間が適用される被害者らは、それだけ長期に渡って苦しみ続けた人々である。

本件判決は、そのような社会的背景から目を背け、司法の役割として国民から期待されている紛争解決機能、被害者救済機能をも果たさずに、国の「逃げ得」を認める著しく不当な判決である。

4 原告らは、このような明らかに誤った判断に基づく不当判決に屈することなく、司法による当然の是正を求めて、ただちに上告することを決意した。

我々は、不合理な除斥の壁に立ち向かう被害者全員の救済を求めて、全国の原告団弁護団、支援者と一丸となって闘い続ける決意である。 

以上

顔認証システムに対する法規制について(情報問題ニュース)

 日弁連が発行し、全国の弁護士に配布されている月刊誌「自由と正義」に同報される「日弁連委員会ニュース」の中で、情報問題対策委員会が担当する「情報問題ニュース」に、2019年4月号の記事として、「顔認証システムに対する法規制について」が掲載されました。

 以下、引用します。

「顔認証システムに対する法規制について」

  我が国では、顔認証システムの導入が進んでいる。顔認証システムとは、人の顔画像データから個人を特定するための特徴点を数値化した顔認証データを生成し、あらかじめ生成している特定人の顔認証データ(あるいはグループのデータベース)との一致を検索して、有資格者や被疑者等の同一性を照合するシステムである。

我が国では、テーマパークやコンサート会場などでの民間利用のほか、公になっているだけでも、2014年度から一部の犯罪捜査に、2016年10月からテロリストの入国防止策として外国人の入国審査に、翌年10月から日本人の出入国審査に拡大されている。そして、本年2月に開催された天皇在位30周年行事の参加者に対しても、顔認証システムが利用されたと報道されている。

 これに先立って、当連合会では、2012年に、官民を問わず、監視カメラの設置・運営についてはルールを事前に明示する法律を制定し、規制すべきことを提言した。その中でも、法律で定める規制内容として、設置するカメラが顔認証機能を持つことや、収集後のデータについて顔認証装置を用いることを禁止するよう求めた。

その後、警察が顔認証システムを利用するようになったことから、2016年には、顔認証システムの運用についても法律による規制が必要であることを提言した。

 顔認証システムは、従来の監視カメラよりはるかにプライバシー侵害の危険が高い。すなわち、指紋より一層本人識別の精度が高いとされ、しかも自ら押捺するなどの行為を一切要することなく、カメラの前を通っただけで顔画像データを記録し、それを自動的に顔認証データに変換して人の同一性を判断できるため、指紋などより容易かつ本人が気付かないうちに他人に生活行動を知られてしまうという深刻なプライバシー侵害が生じ得る。

現状では、捜査機関は、令状に基づくことなく、捜査関係事項照会書(刑事訴訟法197条2項)による任意提供の形で、行政機関や民間事業者が撮影保存している顔画像データを収集し、その一部は顔画像データから顔認証データを生成し、顔認証に利用している。しかも、監視カメラで収集されたデジタルデータの転送や蓄積は、技術の進展により極めて安価となり、かつ高速度の大量処理が可能となっている。

 このような状況を踏まえるならば、警察のみならずそれ以外の行政機関が顔認証システムを利用する場合に関して、顔画像データを収集し、それに顔認証システムを利用することができる要件、保存期間の明確な限定、第三者機関の監督などを法制化し、厳格に運用する必要がある。また、民間事業者が収集した顔画像データにおいても、安易に利用されたり、捜査機関に任意提供されたりした場合、プライバシー侵害の結果は深刻なものとなり得るため、厳格なルールによるコントロールが必要だと考えられる。当委員会では、現在これらの問題点を整理し、提言をとりまとめるべく、検討中である。

JAM THE WORLD 出演(顔認証システムについて)

7年ぶりに、J-WAVEに出演しました。

https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/upclose/190220.html

音源をいただいたので、文字に起こしてみました。

 

安田:J-WAVE 「JAM THE WORLD」「UP CLOSE」のコーナーです。

水曜日は私、安田菜津紀が気になっている話題を取り上げていきます。

さあ今月24日、今度の日曜日ですね「天皇陛下ご位三十周年記念式典」で政府主導の行事として初めて導入されるのが、この顔認証システムです。空港での入国だったり出国の手続きだったりですとか、最近はアーティストのライブだったりテーマパークの入場などなども徐々に広がり始めているものなんですけれど、2020年開催の東京オリンピックパラリンピックでも選手であったり、ボランティア・メディア関係者などを対象にこのシステムが使われることになっています。

今後ますます広がっていくこの顔認証システム、メリット以外にもデメリットもいろんな方面で議論していく必要があると思いますが、導入に向けた課題など今夜はこの方と一緒に考えていきたいと思います。

顔認証システムの法的規制に詳しい弁護士の武藤糾明さんです。武藤さん、こんばんは。

 

武藤:こんばんは。

 

安田:よろしくお願い致します。

 

武藤:よろしくお願いします。

 

安田:最近、私も空港から帰ってきてですね、この顔認証システムのその出入国の仕組みに誘導されるということもあって、あれこんなところにまで広がってきていたんだと思っていたこのシステムなんですけれど、ちょっとそもそもの話から伺っていきたいんですが、この顔認証システムというのかどういった仕組みなのかということをまず教えていただけますか。

 

武藤:はい。セットされたカメラに対して、そのカメラの奥でコンピューターがそこに現れた人の顔の特徴点をとらえて顔の指紋情報のようなかたちで分析をしてですね、三次元バーコードみたいに特徴を捉えると、でそれをあらかじめ登録されているデータベースの型、顔指紋のようなですね三次元データベースと照合して間違いなくこの人が資格のある本人であるというふうにして承認したり、あるいは間違いなくテロリストであるということを認めてはじきだすとかそういうことをチェックする。本人特定のための仕組みになります。

 

安田:なるほど。あの例えば本人特定の仕組みというのはこれまでもいろんな形があったと思うんですけれど、他のその生体認証と比べるとどういった点が例えば優れているとされているんでしょう。

 

武藤:指紋の場合はですね。

あらかじめ、この人の指紋をとるというのは結構難しいんですよね。

 

安田:ええ。

 

武藤:意識的に指を押さない限りとらえることができませんから、

犯人であったり警察に拘束された人とかの以外のデータベースをつくるのは容易ではないんですけれども。

顔の場合はですね、要は特定の解像度をもっているカメラの前を通ってしまうと、瞬時にその録画した画像から切り出して正確な顔の三次元のバーコード情報が読み取れますので、まったく自分が気がつかないうちに街中のカメラの前を通っただけでいつのまにか自分の顔の指紋のような情報がとられていたということが起こりうるし、もう既に起こっているかもしれません。

 

安田:なるほど。その今おっしゃった、全く知らないうちにということがひとつプライバシーであったり、個人情報の問題としても考えていくうえでカギになっていくと思うんですけれど、そもそも例えばこの顔認証システムの精度、どれくらいのものだという風に考えられてますか。

 

武藤:これはもう日進月歩で、わずか4、5年前には法務省は入国管理には向かないと、エラーがたくさん出るので導入見送りましょうということを出したことがあるんですよね。

 

安田:はい。

 

武藤:それがわずか4年で十分実用化できるということで、踏み切ってますけども、わずか数年でそれくらい上がってますし、スマートフォンでもう採用されてますよね。

 

安田:そうですね。

 

武藤:メーカーの説明だと指紋よりも一千倍正確である。という風に言っています。

 

安田:一千倍、なるほど。あの、精度が高いとなると益々導入されてく場というのが広がっていく可能性があると思うんですけれど、例えば冒頭でもお伝えしましたけれど空港での出入国審査で導入されはじめていますよね。それからコンサートだったりテーマパークの入場などにも今使われていると思うんですけれど、他には例えばどういった使い方が現時点であるのかということいかがですか。

 

武藤:チェーンになってるスーパーマーケットで過去に万引きをした犯人の顔のデータを集積しておいて、その人が自分の店舗に来た時もチェックをしてアラームを鳴らすし、同じ関東なら関東エリアで系列店に入った時にはアラームを鳴らす設定で知らせるという仕組みも現に採用されています。

 

安田:なるほど。あの国内でもそういったことがあると思うんですけれど、やはりこの顔認証システム真っ先に導入して精度を上げているのが中国。たびたび報道されてると思うんですけれど、

 

武藤:はい。

 

安田:中国での活用例なんかは、他にいかがですか?

 

武藤:そうですね。中国は確かに世界一活用している国だと思うんですけれども、全国に一億七千万台以上の顔認証のカメラが設置されていて、

 

安田:一億七千万台         

 

武藤:そうですね。それで良い面としては例えば店舗で商品を買う場合に自分の顔をまずお店に入った時に登録をすると、そしてひとつひとつ買った商品を読ませて、顔を読み取らせるということを繰り返すことによって、現金もいらないしキャッシュカードとかクレジットカード全くなしで顔の認証だけで商品を購入できるという便利な仕組みも使われています。

 

安田:はい。手ぶらで来ることができるということですね。

 

武藤:そうですね。

 

安田:それと一方で例えば犯罪捜査にもこれ使われているという報道がたびたびあったと思うんですけど、その点はいかがですか。

 

武藤:公共の場所に張り巡らされてますので、あらかじめ、要は政府の方で登録している指名手配犯人のデータベースとヒットすればすぐ分かりますし、そこに警察が急行することによってたくさんの人を逮捕することができてると、実績は三千人以上逮捕したよという情報が公表されています。

 

安田:なるほど。あのそれだけ精度が高くて、なおかつやはり有用であるという面を持っているだからこそ気になるのがプライバシーの侵害であったりですとか、あるいはそのどこまで乱用されないのかというところだと思うんですよね。例えば日本国内で見たときに個人情報保護法というものがあると思うんですけれど、そこに抵触しないのかその兼ね合いというのはいかがですか。

 

武藤:えっと実はですね、これは数年前までは個人情報保護法で保護する対象としての個人情報にはあたらないという風に捉えられていたんですね。

鉄道会社でプリペイドカードの利用履歴を大量に処理するということの中で問題ではないかという議論が出てきた時に、そこをきちんと法律の中で、このように取り扱えば良いというルールを決めましょうということにしまして、

それで個人情報保護法を改正することによって一見それを見ただけでは誰の情報かわからない指紋情報であったり顔認証の情報であったりするものも、これも個人情報としてきちんとそれなりの、取り扱いをしましょうということにはなりました。

 

安田:なるほど。

 

武藤:ただ、その個人情報保護法はですね、あらかじめ例えばお客さんからその個人情報収集する時に何の目的で使うんですよという目的を限定するということとあらかじめ知らせる。それとその目的の範囲内で利用するし、あらかじめ知らせた保存期間を越えたら直ちに消去するとこういうことをちゃんと守りましょうということをうたっているだけなんですね。でそうすると一見ですね、そのこれを守れば全部適法になっちゃうと思う方が多いんですけれども、じゃー便利だから指紋採らせて下さいよということを告知しただけで、あらゆる店舗がお客さんの指紋を採れるかと言うとそれはまた別の話になっちゃうんですよね。だからその要はお客さんがとられたくないという個人情報というのを本当にとる必要があるかっていうのが疑わしい場合やいやだという人の方が強い場合はそもそも目的を知らせただけでは問題が残るので、民法でも不法行為ということで、損害賠償責任を負うことがあります。

 

安田:なるほど。その個人情報保護法だけではその不十分と言いますか守り切れないところがあるというところだと思うんですけれど

 

武藤:そうですね

 

安田:例えばこれ想像してみるとこれマイナンバー導入の時にも同様のことが言われていたと思うんですけれど、万が一その顔認証のそのデータがその流出してしまって、そうするともうその顔認証システムに蓄積されたあらゆるデータがまた顔のそのデータと一緒に流出してしまうというそういった危険性というのはやはり考えられるんでしょうか

 

武藤:そうですね。あの以前であればですね誰かの指紋情報なんて知り得なかったし、例えば有名人の指紋を捜すということは考えられなかったんだけども、今は有名人でなくても指紋の一千倍本人特定の確実な情報というのがもし漏れてしまうとそれを元に色々、例えばもう今でもインターネットの中で街中の防犯カメラの検索をできるサイトがあったりだとか、そういうのがあるんですけどこれは今後精度が上がっていくと、自分が持っている顔データの情報を元に検索をかけることも技術的にはおそらく可能になっていくんですね

 

安田:なるほど。

 

武藤:そうすると、その知られてしまった顔情報を元に過去から未来にわたってのいろんな行動履歴、移動履歴というのを検索ができちゃうかもしれない

 

安田:なるほど。あのこれまであげていただいた例を考えると、いつどこに行っていただったり何をどれくらい買っていただったり、どんなアーティストのコンサートに行っていただったり、それがこう一気に流出してしまってそれがもう検索可能になってしまう可能性もあるということ

 

武藤:そうですね。はい

 

安田:今後それは考え得るトラブルだと思うんですけれど、その現時点で例えばその起きているトラブルといったのはどういったものがあるんでしょう

 

武藤:ま、これ日本ではありませんけれども中国では政府批判の言論をする方が、あるいは弁護士もそうなんですが、そういう方が色々逮捕されたりしています。これにやっぱり顔認証装置がすごく便利だということは言われていて、政府としては、そういうのも実績として考えていらっしゃるようですね。

 

安田:なるほど。その、一度蓄積したデータを例えば権力を持つ側に乱用されないようにというところが一つだと思うんですけれど、例えばその日本の例で見てみるとその辺野古の抗議活動を行う方のデータがリスト化されていたということが最近報道されましたよね。それがま、顔認証のシステムを使って更にこう精度の高いといったらおかしいかもしれないですけれど、もっといろんな個人情報はつぶさにわかってしまったものが渡るというそういった危険性というのもあると言うことですか。

 

武藤:そうですね。要するにそういう風に政府からターゲットになった方というのは今度この人がいつじゃあ辺野古に行きそうかということを絶えず監視されるかもしれませんし、あるいはこのリーダー格の人はなんとかして失脚させようと思えば、微細な違法行為みたいなことを一生懸命血眼になって検索することができちゃうかもしれませんし、そういう問題は乱用例として考えられることです。

 

安田:なるほど。その顔認証のためのその必要としてその撮影されたデータの行方がほんとに気になるところなんですけれど、例えばこれ取り扱いに関して法律でどの程度定められているか、現時点ではいかがですか

 

武藤:そうですね。まぁ先程もお話しましたけれども今のところは個人情報保護法の規制対象と言う枠組みの保護しかありませんから、事前になぜその顔のデータを使いますよということを告知して下さいねと、でその範囲内で使って下さいねというルールだけが適応されています。そうすると実際には、例えばそのスーパーマーケットの場合であっても自社のホームページで我が社は来店されてるお客さまの顔のデータを録音録画させていただいておりますと、それは防犯の目的の為に顔認証データとして使うことがありますということを数行書いてしまうとですね、それで個人情報保護法上はもう何ら問題がないということになっちゃうので、事実上は設置者の方の自由というかあんまりそこに対して例えば誰かがきちんと監督をしたりということが、なかなか実効性がないという状況ですね

 

安田:なるほど。あの非常にまだちょっと曖昧、法的には曖昧な点が多いと言うことなんですけれども例えば、ま、今東京オリンピックを控えていてこれからテロ対策ということが叫ばれている中で今後これが日本の中でどんな風に使われていくのかということその点はいかがですか

 

武藤:そうですね。まだその会場の入退場だけであればともかくですね、繁華街であったり駅とか交通要所とかにですね、それが張り巡らされてしまうとやはりそのじゃ今中国で行われているような状況と、乱用すればすぐ実行できるような状況になりかねないので、本当に張り巡らされないのかどうか、一体どういう時に必要性があるから設置するのかとか、するとしても目的が終わったら撤去しましょうねということを私達は考えていかないと

 

安田:はい

 

武藤:なんとなく政府が設置した顔認証カメラが街中にあるのが当たり前なのでというそれで常にそれで悪いことしなきゃいいでしょというような社会になっちゃうかもしれないということです。

 

安田:なるほど。とはいえ、それってテロ対策とか犯罪抑止に必要でしょという声があがって来ると思うんですけれど、そもそも例えばこういった監視カメラを増やしていくということによってこれって犯罪抑止にはなっているということになるんでしょうか

 

武藤:これも警察庁が2012年頃に実証実験をされたんですけれども、JRの川崎駅東口でカメラを設置して防犯効果があったかどうかっていうのを検証されましたけれども、前年度と設置した年の比較で全体として神奈川県内全部で犯罪が二割減っていたので

 

安田:ええ

 

武藤:それをゼロという風に補正をした場合なんですけども、それでデータを補正すると設置地域は10%犯罪が減少しましたと、ところがその周辺の要はドーナツみたいな周辺の部分は10%増加したんですね

 

安田:ああ

 

武藤:そうするとこれは犯罪の転移効果と言う風に警察庁では表現していましたけれども、発生場所がよそに隣に移っただけで相対としてはプラスマイナス0と。そうすると、要は税金を使ってカメラを動かした費用が無駄、なおかつあんまり効果が無いのに撮られ続けた通行人のプライバシーは制約を受けたので損をしたと、これは全然プラスではないと言うことを警察庁も理解をして今回のカメラでは有効性は認めがたかったということをご自分でまとめたものをホームページにも掲載されています。

 

安田:なるほど。その監視カメラというのが根本的な意味でその犯罪をなくせているのかというそこからやはり見ていかなければならないところだと思うんですけれど、じゃーまぁ実際にその導入するとしてもどういった法規制が今後必要だと言う風にお考えですか。

 

武藤:そうですね。あのそもそも要は人の顔をとらえるという防犯カメラ自体にもある程度プライバシーに対する制約になるので日弁連は2012年の時点で防犯カメラを公共空間に設置するような場合にはきちんと法律でどういう時に付けて良いとか、あるいはそこで、撮った画像で得たっていうのを警察に対しては令状でだけ提供しましょうねと。今色々ですね、ポイントカードのデータを警察などが捜査関係事項照会書という一枚の紙切れでたくさん集めているというのが問題になっているんですけど、人の防犯カメラの顔のデータも実は同じようにたくさん紙一枚で集積されてるんですね。それはやっぱり令状という、裁判官の第三者のチェックをかけてほんとに必要性をふるいわけをして欲しいなというのが日弁連の考えで、そういうきちんと法律でルールを決めましょうとそういうことが必要だということを、言ってきています。

 

安田:なるほど。要はそのそれがしっかりとそのプライバシーが守れているのかどうかということをそのチェックする機能だったりですとか、その第三者の機関がしっかりとその客観的に見ていく必要性があるということですよね。

 

武藤:そうですね。

 

安田:うーん。あの例えばこの第三者機関がしっかりとそのデータベースというものをチェックしている仕組みというのは他国では何か導入されている例というのはあるんでしょうか。

 

武藤:そうですね。こういう問題についてはドイツがすごく進んでいるんですけれども、やっぱりEUでは実際にテロが起こっているんですよね。色々移民を受け入れていろんな軋轢があってあるいはそこで来た移民が更に戦争に行くために出国するようなことがおこっていて、そのためのそのテロ対策というのはある意味すごく深刻だし一生懸命行政機関が取りくんではいるんですけれども、そのような中でもやはりそれでもやりすぎであったりしては困るし無実の人を無用に監視するのもよくないことなのでということで、基本的にはデータ保護監察官ていう専門の、強い権限を持ったチェックをする検査官みたいな方がいて、警察であれ情報機関に対してであれ誤って市民を過度な干渉してないかと言うことをチェックする権限がきちんとあるんですよね。それで2年おきにずっとチェックをしていて、私達ー昨年度視察にも行ったですけれども、要はテロ対策データベースという警察が運用しているデータベースの中に普通の例えば原発反対をしているデモ行進とか集会に参加している人のデータが、3000人、紛れ込んでいたというような場合これはもう間違いだから外しなさいということを具体的に指揮をして外させたというようなことがちゃんと年次報告書でも出ているし、そういうことをちゃんとやっている国もあります。

 

安田:なるほど。今おっしゃったことに通じると思うんですけれど例えばその無用にその過度な監視をされていたと分かった人がじゃあそのデータをちゃんと削除して下さいという風にしっかりとこう訴えることができる、あの削除してもらえる権利というのもしっかり保障して行く必要があると言うことですね。

 

武藤:そうですね。その点についてはですね、日本でも、もしたまたま発覚したら例えば裁判で是正を求めることができるんですけれども、こういう監視活動というのは秘密裏に行わないと無意味なので、要するにいつの間にか秘密に監視されてるということをとらえるのは極めて困難なんですね。

 

安田:ええ

 

武藤:だからいわゆる犯罪捜査とか刑事訴訟であればちゃんと公判で検証の機会があるけども、こういう監視という分野はですねやはり本当に法律でそういう第三者機関が被害者が分かる前に自分たちできちんとチェックをするその一般国民全体の利益に代表者としてですね、絶えずわからない過剰な監視がないかというのを絶えずチェックするという立て付けがそもそもいりますよ、っていうのがドイツの考え方でありEU全体の考え方であります。

 

安田:なるほど。あの最後に伺いたいんですけど、やはりそういった仕組み作りにはあるいは私たちのアクションが欠かせないと思うんですけれど、その気がついたらその自分たちのプライバシーが侵害されていたということがないように、今後私達どのようなアクションを起こしていく必要というのがあるんでしょう

 

武藤:そうですね。やはり実はこういう問題っていうのは、高度な技術を用いた監視っていうのはですねやっぱり中高年の方々にあまりピンとこないということがあったりして、ドイツでも実はこういったことに関心を示すのは若い方たちなんですよね。やっぱインターネット上でのいろんな行動とかが全部根こそぎとられるのは不愉快であるとかそういうことについての問題意識をもってる若い方がやはり政府に対してきちんと問題意識を持ったうえで意見を出していただかないと、おそらくなかなか変わっていかないのかなという感じはちょっとします。

 

安田:なるほど。今おっしゃったように気がついたら乱用されていたということ本当に誰しもに起こりうる可能性があるからこそ今日お話しいただいた法規制と含めて自分のこととして引き寄せて今後もこの問題取り組んでいきたいと思います。

   武藤さんありがとうございます。

 

武藤:どうもありがとうございました。

忘れられる権利訴訟の和解

 2019年1月16日の朝日新聞朝刊(福岡版)に、担当した訴訟の和解事例が掲載されていました(代理人のコメントも掲載されています)。
 2000年代前半、10代の頃にインターネット上で、ある市民団体が掲げていた意見(日本に住む外国人の支援に関するもの)に賛同する意思を表明した県内の男性が、全く無関係のウェブページに、その意見の表題と賛同者のリストが転載されていることに、成人した後に気づきました。市民団体も賛同者リストの掲載をやめており、本人も当時とは考えが変わっていたことから、プロバイダー(ウェブページの運営会社)に自分の名前を削除してもらうように申請しました。ところが本人確認の問題で拒絶され、訴訟となりました。
 1審の福岡地方裁判所は、賛同人として名を連ねる場合、「外部に公表されることは予定されたもの」であり、プライバシー権や人格権が侵害されたとは言えないとして棄却しました。
 控訴審代理人となり、プライバシー権のほか、消極的表現の自由、正確でなくなった情報の抹消請求権などを請求原因に加え、EUではデータ保護規則17条の削除権(忘れられる権利)が認められていることなどを指摘して削除を求めました。
 高裁では、ウェブページから本人の名前を削除する内容での和解が2018年に成立しました。
 我が国では、このような事例では、「当該事実を公表されない法的利益」と当該事実を提供する理由を比較衡量し、前者が「優越することが明らかな場合」に限定され(最高裁平成29年1月31日決定)、削除に対して消極的です。しかし、本件のように、未成年時の意見表明であったり、転載の形式が名簿のようになっていて意見内容自体が含まれていない場合などには、もっと積極的な削除が認められるべきだと思います。EUでは、プライバシー権とインターネットに情報を残す利益は同価値と扱い、もっと積極的に削除を認めています。
自ら同意して外部に発信した情報の削除を求め、和解に至った事案として我が国では意義があると思います。